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36 紅蓮のキャンプファイヤー1

 ドクロ十字の旗を掲げたセイクリッド・クロス一団は、2輪、4輪で、高速道路を突っ切り、キャンプ場の駐車場へとたどり着いた。

 



「聖華さん、聖華さん。起きてください。着きましたよ」


「んー。まだ寝たいです。むにゅむにゅ」


「聖華さん!」

 聖華さんの肩をポンポンと叩いたけど、鼻ちょうちんまで出して気持ちよさそうに眠っている。


 助手席にいた伶亜さんが振り返った。


「聖華。次の問題を答えよ! 1+1=??」

「あ、はーい! はーい! 2でーす!」


 聖華さんが元気よく手を上げて立ち上がった。

 弾みで頭を打った。


 頭を抱えてうずくまった。

 なんとも痛そうだ。


「聖華、着いたぞ」

「あ、伶亜さんに誠司さん。おはようございます」とニッコリ。



 聖華さんは僕の方を見て、

「おはようございますは?」



「あ、おはよう……」


「あれ? 翔太さんは?」とキョロキョロしている。



「実は翔太さんとお友達になって一緒に遊ぶ夢を見ました。夢の中でも誠司さんは私ばっかりいじめていたけど、そんな翔太さんは私を庇ってくれました」



 そ、そうかい。

 そこ、わりと突っかかってくるな。


 彼女は、いつものようにニコニコした表情でキョロキョロしながら翔太を探している。

 


 聖華さんに真実を告げるのは酷だ。

 翔太はY氏に殺されてしまった。

 モンスターだったため、倒されると霧となって跡形もなく消滅する。

 それだけがせめてもの救いか……



 いつまでも黙っていると、伶亜さんが人差し指を窓に外にクイクイと向け、



「聖華がいつまでも寝ているから、先に行ったよ。あたいらも早く行こうぜ」



 僕達は車から出ると、目的の場所へと急いだ。



「伶亜さん。ありがとう」

「誠司さんは真面目すぎるんだよ。まぁ、そこがあんたのいいところなんだけどさ」


 クスリと笑って言ってくれた。



 木々や草原が広がる雄大なキャンプ場が視界に広がる。

 ロッジやテントが点在しているその場所を、聖華さんは目を輝かせながら見つめている。

 

 入り口には、先生の姿がある。

 腕時計を眺めているようだ。



「誠司に聖華、伶亜。時間以内に着けたな。ほら、解毒剤だ」



 僕たちはカプセルを受け取る。

 この学校は健康診断を装い毒を盛ってきたのだ。

 なんという卑劣な行為なのだ。

 まったく信用できない。

 受け取った解毒剤の中にも、毒が盛られているような気にすらなる。


 ゲームの天才の聖華さんも気にしているようだ。

 カプセルを指でつまんでじっと見つめているだけで、口にしようとはしない。



 一足遅れて、宍井達も到着したようだ。

 先生から解毒剤を受け取ると、こちらをチラリと一瞥だけしてそれを飲み込んだ。



 宍井は俺達の前を通り過ぎる時、横眼を流し、

「おい、どうでもいいが、早く飲まないと、毒が回って死ぬぞ」と言った。



 宍井の性格はなんとなくだが、分かってきた。

 卑劣な策を張ってはくるし、卑怯なことに手を染めることに躊躇もしないだろう。

 だけど、なんというか、奴と縁をすればするほど、不思議な情のようなものを感じる。



 そして奴なりのプライドも感じる。

 罠こそ何重にも張るが、一度作ったルールを突然改変するようなマネはしてこない。

 そしてこちらがしてやったことには、律儀に返してくるところも見受けられる。



 懐中時計を開いた。

 タイムリミットまで、あと5分しかない。



 さすがに伶亜さんは、焦りを隠せない表情だ。

「お前たちの判断にゆだねるつもりだが、さすがに訳ぐらい教えてくれよ」



 聖華さんは黙ったまま、クスリをじっと見つめている。

 顔は真剣そのものだ。



 先生はその様子を、首を傾げたまま見ている。



「おい、どうした? そろそろ毒が回って死ぬぞ。俺としては、生徒の総数が減った方が、点呼するときに楽になるから、別に死んでも構わんが」と、聖職者失格な台詞を堂々と言っている。



 それでも聖華さんは、クスリを飲もうとしない。




 あと、3分を切った。



「聖華さん。やはり怪しいですか? ですが、僕も伶亜さんと同じ意見です。今までの聖華さんの手腕を見させてもらっていますから、あなたの事を全面的に信頼していますが、理由があるのなら、その訳を教えてください」



 聖華さんは僕を見た。

 顔は真っ青だ。

 目が涙ぐんでいる。

 やはり、これは罠だったのか!?



「分かりました。これは罠なんですね? 危なく飲むところでしたよ。だから理由を早く」



 残り30秒……



 僕はびっくりした。

 聖華さんが泣き出してしまったのだ。



「あーん、あーん。お水がないと飲めないよー!!」



 ――え?



「あの、それ、マジで言っていますか?」

「マジです」



 僕は時計を見た。

 やばい。


 どうやら毒が回ってきたようだ。

 気分が悪くなってきた。

 そして手足がどす黒く変色を始めている。



 僕と伶亜さんは、慌ててクスリを飲み込んだ。

 すぐに手足の色は、元通りに戻った。


 聖華さんはその様子を見ながら、あーん、あーんと泣いている。



「れ、伶亜さん、水を持っていませんか!!!」

「つーかマジで早く言え! ほら水筒……って空じゃねぇか!」


 聖華さんの手足が、どんどんと土気色に変色していく。


「聖華さん。泣いている場合じゃないです。とにかく飲み込んでください」





 * * *



 あーん、あーん。

 怖いよー。


 私、どうしたらいいんですか?

 お水がないと、おクスリは飲めません。



 口の中に入れて、頑張って飲み込もうとしているのですが、ほっぺの裏でコロコロと回るだけです。

 どうしよ?

 すごく怖いです。

 涙が止まりません。



 その時でした。

 どこからか、しげるさんの声が聞こえてきたのです。


『聖華さん、泣くのはちょっと休んでください』


 はい、休みます。



『ほら、鼻をつまんで』



 はい、つまみました。


『はい、ごっくん』


 ゴクリ。

 あ、飲めちゃった!



「し、しげるさん。ありがとうございます!!! 飲み込めました!! ところでしげるさんは、どこにいるんですか?」



「え、聖華さん? ここにはしげるさんはいませんよ。それよりか、間に合ったようでよかったです。本当に心配したんですから」


 誠司さんは私を心配そうな目で見つめている。


「まさかのオチだったな。つーか、もしかしてわざとだろ?」と腕を組んで伶亜さんが呆れ顔で笑った。


「ギリギリのプレーはハラハラドキドキしますが、心臓によくないので、もっと早く教えてくださいね。まぁ、何にしても良かったです。聖華さんの手足の変色も、元に戻っていますし」




 誠司さんの言葉で、私は自分の手のひらを見た。

 ちゃんとグーできる。

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