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35 俺たちは友達

 日が暮れるまでにキャンプ場に辿り着かなければ、解毒剤を貰えない。

 生き残ったクラスメートたちは、セイクリッド・クロスのバイクの後部座席や車に乗ってキャンプ場を目指している。


 僕はセイクリッド・クロスの幹部である、陽炎かげろうの龍一の車に乗っている。

 助手席には伶亜さん。後部座席には左から聖華さん、僕、そしてその横にはクラスメートの一人が座っている。


 小柄ではあるが、目は吊り上っており、人相はかなり悪い。



「誠司……。今まで悪かった……」

「どうした? 急に?」


「友達を殺したら経験値になるから、みんな友達を殺しまくっている。それが常識だと思っていた……」


 ……そんなふざけた設定だからなぁ……


「だけど、お前たちだけだった。友達を殺したらダメだと真剣に言ってくれるのは。最初は、常識ハズレな事を言っている連中だと思っていた。だけど、徐々に分かってきたんだ。

 本音を言うと、俺、怖かったんだ。友達を殺さないと、いずれ殺されてしまう。死ぬのは嫌だ」

 

 

 彼の名は、切り裂き翔太。

 ナイフの使い手だ。

 特技は鉛筆削りと人体ヒットポイント削りだと豪語していた。



 器用なナイフさばきで、容赦なく友達を抹殺する残忍な奴とばかり思っていた。

 

 

 僕は黙って聞いていた。



「びっくりしたぜ。お前らは友達を殺していないよな。殺さなくても友達としてやっていけるんだな」



 彼の発言に驚きもしたが、なるほど……

 てっきり飢えた獣のように、殺し合いが趣味の連中とばかりおもっていた。


 だけど、違った。


 このゲームの為に半強制的に動員されたモンスターは、宍井の設定を忠実に実行しているだけなのだ。

 宍井の与えた世界観が、彼らの日常となっている。

 そのような中で生きていくと、常識が曲がっていく。


 だけど彼らだって、恐怖からは逃げたいし、幸せを感じたい。

 そういった意味では、我々と同じ生き物なのだ。



 だから僕は言った。


「翔太。仲良くなった人がいなくなったら寂しいだろ?」

「寂しい……」



「クラスで一緒に頑張った人に死なれたら、寂しいだろ?」

「寂しい……」



「なら、どうして殺し合っているんだ?」

「……分からない。友達は殺すものだと教えてもらった」



「それは宍井に?」

「宍井はただのクラスメート。宿題を一回見せてもらったことがあるだけ」



 意外に面倒見がいいんだな。

 それとも宿題を見せたら、包容力と指導力、カリスマが上がるからか?

 まぁそんなことは、どうだっていいか。

 それよりも、今は……

 

 翔太に質問を続けた。



「誰に殺せと言われた?」




「……途中から転校してきたことになっているが、あいつは最初からいた……」

「あいつ?」




「……吉岡しげる……」




 ――Y氏!?

 またしても、あなたの名前が……




 いつ、どこで、と、聞こうとした。



 だけど、それどころではなくなった。

 どういう訳か、翔太は号泣していたのだ。



「仲良くなった奴がいなくなったら、無茶苦茶寂しい。なのに俺達は殺し合いをしている……。殺し合い、良くない。誠司。また俺たちはキャンプ場につけばライバルに戻るのかな?」


「……どうして、そのようなことを聞く?」


「俺はお前に借りができてしまった。いずれ何等かの形で恩返しがしたいと思っている。だから……お前と戦うのは嫌だ!」



 翔太……。

 まさか彼がこのようなことを口にするなんて。



 そもそもこれは、聖華さんがやろうと言ったことなんだ。

 彼女がみんなを救おうと言い出したのだ。


 中身はモンスターだというのに、まったくそのことを理解してくれなかった。

 まるで駄々をこねる小さな子供のように、半分泣きべそをかきなかがら、それでも必死に助けようと言い続けたのだ。



 だから、感謝するなら僕ではない。

 聖華さんにすべきなのだ。




「あのだな、誠司」

「?」


「きっとお前に恩返しがしたいと思っているのは、俺だけじゃないと思うんだ。俺達の為にバケツリレーをしてくれていた時、バスの中では他のみんなも必死にお前らを応援していた。最初は助けてくれーという、自分主体の言葉だったのが、いつの間にか負けるな、頑張れ、というエールに変わっていた。いつの間にか、俺たちは一体感を感じていた……」




 もしかして……

 これが聖華さんの狙いだったのか……







「聖華さん。君の狙いってまさか!?」



 僕は助手席の聖華さんに視線を向けた。



「くー。くー」


 寝ちゃっているよ。

 伶亜さんが、肩で軽く笑った。



 でも、とにかくうれしかった。

 この世界の住人が、僕たちの行動で変わりつつあるのだ。

 

 僕は翔太に手を伸ばした。



「何?」

「これはハンドシェイク。友情の証だ」


 翔太は、恐る恐る僕の手を取った。

 そして嬉しそうに笑った。


「誠司。すごくうれしいよ。無茶苦茶うれしいよ。俺、みんなにも言うよ。誠司たちと友達になれば、殺し合いの呪縛から解き放たれるって!」



 翔太はその後も、僕の手を握ったまま、嬉しそうに「俺たちは友達、俺たちは友達……」と繰り返した。

 


 翔太の発言は、僕に勇気を与えてくれた。

 このデスゲームを、根底から覆せる可能性を感じることができたからだ。



 正直言うと、さっきまで辛かった。

 愛沢が死んだ。

 彼は本当に死ななくてはならなかったのだろうか。

 他の未来はなかったのだろうか。


 そして―ー

 このまま駒を進めると、必ず宍井と生死をかけたバトルになるだろう。

 これは逃れられない現実。


 そう思っていた。


 宍井は根っからの悪ではない。

 彼女を殺され、両親を焼かれ、悪の道へと走った。

 彼の気持ちは、痛いほどよく分かる。



 だから戦いたくはなかった……



 だが、それが覆されそうとしている。



 ふと、このように思ったのだ。

 みんな殺し合いを放棄したら、どうなるのだろう?

 誰一人死なず、この学年ゲーム進学ミッションコンプリートできるではないか。

 

 まさかの結末。

 それはありえないと思っていた、ハッピーエンド。

 まだ可能性は低いが、そのようなゴールが見え隠れしてきたのだ。




 そして僕のターンがやってきた。

 ルーレットが目の前に現れる。




 その時だった。

 それが起きたのは。

 この場で行動できるのは僕のみ。

 それは、これがすごろくという性質のゲームならではの常識だった。

 

 そう思っていた。

 何故ならターンを無視する行動は、この世界のルールから反する。

 されど事件は、起きたのだ。



 ドンと車体が揺れた。

 車体の上に、何かが落ちたのか!?



「おしゃべりなんだよ。ゴミが!」



 その声は忘れもしない、あの人。

 ――そう、Y氏……

 


 言葉と同時に、翔太の首がはじけ飛んだ。

 


「しょ、翔太あああああ!!!!」



「ククク。おしゃべりなガキはこうなる。他のゴミも分かったか? ゴミはゴミらしく、与えられた任務を遂行していればいいのだ」




 僕は翔太の手をずっと握っていた。

 彼が最後に残してくれた言葉が、頭からこびりついて離れてくれない。





 ――俺たちは友達……。

 

 

 

 

 吉岡しげるさん……

 どうしてあなたは、腐ってしまわれたのだ……

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