31 友達3
僕の初めての友達が城戸さんだった。
班変えの時に、城戸さんが手を上げて、同じ班になりたいと言ってくれた。
隣の席に座ると「改めてよろしくね。愛沢君」と長い髪を手で少し上げて、髪で隠れたうなじを見せ、ちょっぴりほほ笑んだ。
すぐにクラス中に噂されるようになった。
「おい、愛沢の野郎。どうやって学園一の美少女、城戸麗子と仲良くなったんだ?」
「無口で根暗の愛沢が……。訳がわからん」
「きっと黒魔術の類なんじゃないのか?」
「そうに違いない」
「あいつ、やばいじゃん」
「だからやばい奴なんだって。目を合わせるな。藁人形とか打ちかねないぞ。あ、愛沢がこっちみた」
「愛沢菌がうつるぞー。逃げぉー」
そんな最中、あの加藤君が僕に話しかけてきた。
「……愛沢。あのな……」
僕は顔を見上げた。
「この間は、だな……。あのぉ……すまなかった」
「え?」
「せっかく誕生日プレゼント買ってくれたのに……」
「いや、いいんだよ。気に入らなかったんでしょ?」
「お前、いい奴だったんだな」
「……そうかな。ありがとう」
それからは加藤君も僕に話しかけてくれるようになった。
人気者の加藤君の影響力はすごかった。
僕のことを悪く言う人たちは、次第に少なくなっていった。
僕の知らない所では、いたのかもしれないけど、面と向かってからかわれなくなっただけでも精神的には随分と違う。
ある日の下校時間。
加藤君が僕を校舎裏へ呼び出した。
「愛沢。すまないな。こんなところに呼び出してしまって」
「うん。何?」
「今度、城戸も誘って三人でカラオケに行かないか?」
え?
カラオケなんてしたこともない。
だけど僕は純粋にうれしかった。
「うん。誘ってみるよ。でも城戸さん、来るかな」
「……絶対、呼んでくれよ」
気のせいなのだろうか。
いつもひょうきんな加藤君の目は、血走っているように思えた。
何か様子がおかしい。
だから勇気を奮って聞いてみることにした。
「もしかして加藤君、城戸さんが好きなの?」
「は? な訳ねぇだろ? ちなみにお前と城戸の関係はなんだ?」
「友達、かな……」
「そうか、なるほど。俺も愛沢の友達だ。一番の親友だと思っている」
え……
ちょっぴりこそばゆかったけど、妙な違和感も覚えていた。
「ちなみに聞くが……」
「うん。何?」
「お前、もし俺と城戸、困っていたらどちらを助ける?」
「え? 僕なんかで役に立つかどうか分からないけど、困っていたら二人とも助けるよ」
「違う!」
加藤君はバンと思いきり壁を蹴った。
顔がとても怖かった。
「お前、バカか。こういう質問の時、どちらか片方しか取れないという選択のことを言うんだよ!」
「え……」
「だからどっちを取るか聞いているんだよ。俺と城戸、どっちを取る? お前、知っているか? 女なんてすぐに裏切るぞ」
「……じゃぁ、……加藤君……」
加藤君はニカリと歯を見せて笑った。
「じゃぁ約束な! 城戸をカラオケに誘ってくれよな」
そう言って加藤君は手のひらをパタパタさせてながら、立ち去った。
その後ろ姿を、僕はずっと見つめていた。
……さすがの僕だって分かるよ。
加藤君は、城戸さんを呼び出して良くないことをしようとしている……
友達という言葉を巧みに使って。
それが君の言う、『友達』なんだね……