30 友達2
突如湧いて出てきた、『謎のヒーロー』と言えばいいのかな?
ふふふ。
僕はあんたの正体を知っているよ。
あんた、誠司君なんでしょ?
だってこの世界を構築したのは、僕なのだから。
この世界の住人を生み出したのは、この僕。
一人ひとり丁寧に作り上げた、僕の友達。
だから妙な格好をしているけど、あんたが誰だか分かる。
まさかこんなタイミングでぶつかるなんて。
このままゲームを終わらせちゃったら、宍井君、怒るかな?
あっけない幕切れにしやがったって。
でも、しょうがないよね。
僕が強すぎるから。
僕の特記事項には弱点がない。
それに――
もし僕が勝つと、宍井君は僕の友達になると言ってくれた。
宍井の特記事項は、『ルール』。
そんなすごい人を友達にできるなんて、最高だよ。
さてさて、さっさと終わらせてやるか。
僕は改めて友情の勇者くんとやらを見た。
いらつくよ。
だって彼は、僕にこう聞いてきたんだ。
――僕は仲間を裏切らない。友達になった者を、僕は絶対に裏切らない。だから聞いている。本当に良いのか? 友達になっても? 、と――
口では、ふふふ。あははは。バカだな……。いいに決まっているじゃないか! と言ってはみたが、正直むっちゃイラついた。
なにが裏切らない、だ。
それ、本気で言っているの?
マジでアホなのか?
その昔、僕を友達と呼ぶ者がいた。
「やぁ、愛沢君。友達なんだからいいでしょ?」
彼女は、そう言っていつも僕に近づいてきた。
彼女の名は城戸さん。
最初は馴れ馴れしく話しかけてきたからちょっぴり苦手だなと思ったけど、別にそれ程嫌いではなかった。
それに城戸さんは、とびきりの美人だった。
染めているわけではないようなんだけど茶色が混ざった髪をして、ちょっとあかぬけてみえた。
僕はいつもクラスの端で、ひとり本を読んでいた。
人付き合いが苦手だったから。
空気が読めないとよく言われる。
ほんとはみんなとはしゃいでみたいと思ったこともあるけど、どうはしゃいで良いのか分からない。
クラスで一番ひょうきんな加藤君が誕生日だと聞いて、プレゼントを買って机においた。
加藤君のように面白ことをして、みんなの人気者になりたいと思ったからだ。
ありがとうって言ってくれるかな?
僕を友達の輪に誘ってくれるかな?
そんな気持ちでドキドキしながら、放課後、彼の机の中にしまった。
翌日。
誰よりも早く着て、いつものようにクラスの端で本を読んでいた。
そわそわしながら、加藤君がやってくるのを待った。
チャイムが鳴る寸前に、加藤君とその友達5,6人がわいわいしゃべりながら入ってきた。
そして机に座った。
「なんだ? これ?」
やった! 加藤君が気付いてくれた。
数日前、加藤君が「洒落たセカンドバッグ、欲しいぜ」と言っていたのを覚えていたので、小遣いをはたいて購入した。
「なんだ? なんだ? たんじょうび、おめでとう??? あ、そっか。今日は俺の誕生日だった。で、これは誰から?」
加藤君がこっちを振り返った。
「きもいよ。お前」
「どうした、加藤?」
「これさ、愛沢がくれたプレゼント」
クラス中にどっと笑いが起こった。
「あいつ、ホモなのか?」
「加藤、お前、責任取って付き合ってやれよ」
「マジ勘弁」
加藤君がこちらまでやってきて、プレゼントを床にたたきつけた。
「え、どうして? 欲しかったんじゃないの?」
「やっぱお前、空気読まない奴なんだな。今度、また俺に変なこと仕出かしたら許さないから」
……。
ショックだった。
でもきっと僕が間違ったんだと思う。
だって加藤君は人気者だ。
彼は正しい。
間違っているのは、僕。
休憩時間にまで必死に我慢して、トイレに駆け込んだ。
僕は泣いた。
頑張ってそのことは忘れようと努力した。
僕は間違っている。
何度もそう言った。
そんな僕に話しかけてくれたのが、城戸さんだった。
男子からものけ者されている僕に、女子が話しかけてくれるなんて。
ドキドキした。
だけど内心、とても嬉しかった。
「ちょっと宿題みせてくれない?」
「あ、うん。いいよ」
ドキドキしながら、ノートを差し出した。
「うわぁー。やっぱ想像していたとおり、超丁寧! 愛沢君のノート、分かりやすい!!」
「ありがとう」
「ねー、また宿題を見せて貰ってもいい?」
「……あ、うん」