28 バス11
――あちら側の人間
その言葉を意味通り推測すると、愛沢はゲームマスター側の人間――要するに宍井とグル、そういうことなのか。
特記事項がある以上、モンスターではないことは明白だ。
つまり、愛沢も転生者……なのか。
今、僕はアルディーンに変身しているから通り過ぎの者と称したのだろうが、誠司や聖華さんのことは、宍井からある程度のことは聞いているだろう。
なら、僕たちの情報は筒抜けであると考えて行動すべきだ。
そして奴はモブではない。
知能を持った人間。
それでいて、バトルゲージは10倍以上……
唯一、こちらに利点があるとすれば、奴の特記事項を既に掴んでいるということ――
だが、これは大きい。
特殊能力と弱点を同時に掴んでいることに等しいのだから。
奴の有効スキルは『今度は絶対に裏切らない友達』なのだろう。
奴の友達になったら、文字通り、裏切れなくなるに違いない。
平たく言うと、友達という名の契約を結んだら、モルモットにされてしまう。
そういうことなのだろう。
なんて恐ろしい能力なのだ。
だが、それに見合った弱点があるはずだ。
「アハハハ。そろそろバトルしようよ。その前に~」
愛沢は隣に視線を流した。
そこにはマッドサイエンティストの飛騨が、同じく火炎瓶をバスに投げつけようとしている。
「ねーねー、飛騨君。僕と友情を結んでよ。そして僕に劇薬の作り方を教えてくれないかな?」
出た!
友達というフレーズ。
きっと飛騨をモルモットにするつもりなのだろう。
それにより、愛沢はパワーアップする。
だけどきっと飛騨はバカではない。
先ほどの友達を軽視した発言を聞いている以上、必ず断ってくるだろう。
それは愛沢だって知っているハズ。
それでも友達になるように声をかけているということは、きっとこれから愛沢の能力が発動する。
だからこれは、奴の異能が見られる絶好のチャンスだ。
それにより、奴の弱点を突き止められるかもしれない。
推測通り、飛騨は首を横に振った。
「はぁ? 何寝言言ってやがる? 誰がおめぇと友達なんだ? 誰がおめぇのようなデタラメな奴なんかとつるむかよ!」
「だって僕は飛騨君のように上手に火炎瓶を作れないんだよ。あのさ、僕の火炎瓶を見てどう思った?」
「ゴミだな。園児が作った方がまだマシなもんができる」
「あぁあ。僕を侮辱したな! ……許さない。お前、絶対に許さない! もう友達にしてやんない!!」
愛沢は飛騨を睨みつけた。
同時に飛騨の足元に黒い影が広がる。
その影は飛騨を包み込むように、盛り上がっていった。
「な、何だ! これは一体!?」
「あははは。君は僕をチヤホヤしなかった。褒めちぎらなかった。だから友達失格。君はもう友達にしてあげないんだからね」
そのまま手を握りしめた。
完全に黒い影に覆われた飛騨は、そのまま跡形もなく消滅した。
飛騨はマークしていたクラスメートのひとりだ。
クラスひとつをあっさり爆破した、驚異的な能力を持つマッドサイエンティスト。
それをほんの一瞬の動作のみで沈めたのだ。
「ククク。見たかい? 友情の勇者君とやら。僕との友情を軽視した連中は、みんなこうなるんだよ」
……奴と友達の契約を結んだらモルモットにされる……
特記事項より、そう読み取っていたが、もうひとつ別の深い意味があるようだ。
『友達』というフレーズを拒否すると、『許さない』という能力が発生する……
なんて野郎だ。
両刀使いか!?
『友達』になれば、『裏切れない』が発動。
『友達』を拒否すれば、『許さない』が発動。
どちらに転ぼうが、相手を破滅に追いやることができる特記事項。
安易に戦いを挑んだことを後悔しそうになるが、――そうではない。
これはチャンスなのだ。
もしこの場所に宍井やY氏、有利までいたら、目が当てられなかっただろう。
きっとそれぞれ、特記事項を有しているだろうから。
特にY氏。
彼が本当に、あの伝説のスーパー営業マン、吉岡しげるさんなら――
そう考えると鳥肌すら立ってくる。
Y氏と戦って、果たして僕に勝ち目などあるのだろうか。
だから、今、この現状はチャンスなのだ。
そう考えろ!
敵は愛沢のみ。
愛沢はニカリと歯を見せてきた。
そして今度は僕に手のひらをかざしてきた。
「友達になろうよ。拒否してもいいけどね。その時は、許さないだけだから」
反射的に身をひるがえして、愛沢との距離をとった。
何も起きない。
どうやら奴の特記事項には、射程距離があるようだ。
だけど僕の頬には、冷たく嫌な汗が伝っていく。
敵の射程はあまり長くないようだが、こちらの武器は『いかなる邪悪をも貫く右手』
射程距離はとことん低い。