表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/42

16 合宿2

 目の前に、ふわりと霧が現れ、その中からルーレットが現れた。

 僕のターンという訳か。


 ルーレットの針を回したと同時に、バスは走り出した。


 最後列の権利をゲットしているので、一段高い後ろの席からクラスメート全員の様子が一望できる。



 先生は、しばらくの間最前列に座っていたが、取り上げたサブマシンガンをガチャリと手に持って立ち上がった。




「待たせたな、諸君。

 お待ちかねの自由時間がやってきた。

 君たちがしたいようにするが良い」




 遂にこの時がやってきたのだ。

 先生の発言――それはまさに戦いのゴングそのものである。





 クラスメートの連中は、所持しているおやつの入ったリュックを開き、中身を見ている。その多くは金属バット。

 一見地味にも思える武器だが、至近距離から打撃を受けるとかなりのダメージになるだろう。


 天才奇人と呼ばれるマークしている連中は、平静を保ったまま冷笑を浮かべたまま座っている。



 宍井達のチームは、大きなリュックを上の棚に納めている。

 中身が気になるが、それをまだ使用しない気なのだろう。




 だが。

 おそらく誰かが動けば、それが引き金になり、乱戦状態になるのは火を見るより明らかだ。




 まさに一発触発。




 誰かがもし――おやつを食べよう、そう言ったと同時に、己の隠し持ったおやつを取り出すだろう。おやつの時間――それが戦いの合図となる。

 


 皆もそれは感じているに違いない。

 そんな緊張状態の中、クスらメートの数人がゴクリと喉を鳴らし、リュックに手を伸ばしていく。



 この場面での、おやつ。

 それは殺人道具。

 


 そう、おやつとは――

 それはまさに殺人を助長する言葉。


 おやつの時間。

 それは、殺し合いの宴を意味する。




 故に、誰も、おやつと言う言葉を口にできるはずもない。





 されど――





「おやつにしましょう!」




 まさか、だった。

 その言葉を口にしたのは、あの聖華さんだった。



 クラスメートは、ゴブリンやオーク。

 だから容赦などいらない。

 聖華さんには、何度もそう話したことはあったが、どうしても理解してくれなかった。

 

 このゲームで敗北は許されないのだ。

 だからそう覚悟を決めて幾度となく説得したが、聖華さんは『みんなと仲良くしたいです』の一点張りだった。

 その精神は如何なる時も貫いていた。

 県下最強の臥龍がりゅう学園との決戦の時だってそうだった。

 誰一人血を流していない。見事な無血革命をやってのけたのだ。




 なのに、だ。




 彼女は言ったのだ。

 おやつにしましょう、と。




 おやつ――

 つまりそれは、己の隠し持つ凶器を抜け、そういう意味である。




 最前列のモヒカン頭の谷口は、バットを抜いた。

 その隣の飛騨が手にした物は、もしかしてピストルなのか!?




 ピストルは余裕で300円以上するぞ。

 ど、どうして奴はそのようなものを所持しているのだ!?

 こっそり持ち込んだのだろうか?



 

 いや、この世界は宍井の特記事項『ルール』で形成されている。

 容易な方法で突破することなどできない。



 もしかして、300円以内の道具で、ピストルを自作したのか!?

 このクラスにはマッドサイエンティストが混在している。

 その気になれば可能なのかもしれない。



 それを見て、他の連中もおやつを抜く。



 それとほぼ同時に、聖華さんは立ち上がった。

 


 やばい! 狙い撃ちにされるぞ。

 僕は聖華さんをかばう為、立ち上がろうとした。



 だが、皆はすぐには攻撃をしてこなかった。

 皆は固まったままだ。

 すぐに分かった。

 誰一人として、彼女に攻撃できないのだ。



 聖華さんがリュックに手を突っ込んで、おやつをガサゴソ取り出そうとしていたからだ。


 皆の視線は一点に集まっている。

 それは聖華さんのリュック。


 彼女のリュックには10円や20円のおやつが、これでもかというくらい入っていて、パンパンの状態だ。

 もしや、これがけん制になっているのだろうか。



 ちゃぷんと音がした。

 水筒の水が揺れたのだろう。

 そしてビニールのババババという音。

 ポテトチップスが弾みで割れた。



 ピストルを所持した生徒が、早口でまくしたてた。 



「やばいぞ! 俺には分かる。聖華は劇薬を隠し持っているぞ。今、リュックの中で調合をしている。気をつけろ!」



 そ、そうか!

 聖華さんが購入したおやつは、合成したら化学兵器になったのか!

 さすが聖華さんだ。

 



 ……で、でも、チョコの原料……カカオや芋類を調合して、何になるのだろう……




 だけど、そうに違いない。

 だって、クラスメートの中でも圧倒的科学力を見に付けた飛騨が警戒しているのだ。




 聖華さんは、一点を指さした。

 皆はびくっとする。



 聖華さんが指さしたのは、最前列にある液晶テレビだった。


 


「あれ、もしかしてカラオケですか!?」




 聖華さんの戦略こそ良く分からないが、カラオケを利用することによってこの場を制覇できるに違いない。


 もしやチョコの原料と芋類に、音という波長をミックスさせると、何か化学反応を起こすのか!?

 た、確かに駄菓子に含まれている塩素、鉄、水素と自然界にある物質を混合することで、猛毒が生成できる!



 ……Zn + 2HCL → ZnCl2 + 2(H)……

 

 

 い、いける!!

 



 聖華さんは、さらにこれに音を追加する……



 音波――

 これを組み合わせることにより、どのような化学反応を起こすのだろうか!?

 

 

 そ、そうか!

 確かに、音は必要不可欠だ。

 

 だって、この場に猛毒を発生させるのだ。

 圧倒的な大音量の音波を使い、窓を叩き割り、毒を散布した後、この場から脱出するつもりに違いない。



 きっとそうだ!!!



 そうしなくては、こちらがやばい。

 予算の関係で、防毒マスクを持っていないのだから。

 さすが聖華さんだ。

 完璧すぎる。



 だから僕は即答した。



「そうです。あれは紛れもなくカラオケです。さすが聖華さんです。どうしますか?」




「え、……あのですね、私、歌ってみたいです」


 


 バスの中で歌うだと!?

 果たしてそのようなことをして、大丈夫なのだろうか!?



 歌っている最中、視線は歌詞を追いかけることになるし、片手はマイクを握ることになる。そんな状態だと、圧倒的に戦闘能力が落ちてしまうではないか。

 歌っている間に、クラスメートの連中にバットで袋叩きにされ、ピストルで蜂の素にされかねない。

 



 いや……

 きっと僕の思慮が、まだまだ足りていない。

 マイクを利用することにより、音の調整が更に自在に可能になるではないか!

 音を自在にコントロールすることで、きっと物凄い効果が発揮できるはずだ。



 改めて聖華さんを見た。

 聖華さんの顔は赤い。

 どうしたというのだろうか。

 少しうつむいた。




「……実は私、カラオケをしたことがないのです。本音を言うとすごく恥ずかしいです。でも部屋の中で一人、学園もののドラマを見て、みんなで楽しそうに歌うシーンのたびに、ちょっぴり泣いちゃいました。あの時、どうして涙が流れたのか分からなかったけど、今は、少し分かる気がします。だからみんなで歌ってみたい……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ