15 合宿1
いよいよ1学期最後の大イベント、夏の合宿がスタートしようとしている。
合宿とは、本来心躍る行事だと思う。
一応、クラスメートの連中は、大喜びしていた。
だが、とてもそういった気になれない。
私立・爆龍中学。
ここは不良が8割、天才奇人が1割、プロの殺し屋が1割混在する超絶学園。
だからこれから起こるイベントは、合宿の名を借りた殺人ゲームなのだ。
僕のターンが始まる。
早朝。
聖華さんは昨夜あれだけのことがあったというのに、ケロッとしている。
嬉しそうにリュックの中身を、出したり入れたりしながら確認していた。
「クッキーに、ポテトチップスに、キャンディーに……。誠司さん。ちゃんと全部ありますよ!」
そうか……
僕はルーレットを回す。
視界は学校へと移動する。
既にグランドにはバスが到着していた。
クラスメートの連中は、鋲の巻いた鉄パイプやらスパイクやらを握ってニヤニヤしている。
もちろん宍井和也の姿もある。
奴は僕を一瞥してきた。
その横にはやはり、有紗、そしてY氏の姿がある。
大きなリュックを背負っている。
いったい何が入っているのだろうか。
先生が拡声器を握り、点呼を始めた。
そして注意事項を述べていく。
「いいな。
お前ら。
おやつは300円までだぞ。
それ以上は没収だ!」
その言葉の裏には、持ち込める武器は300円までと推測できる。
金額を安めに設定してくれていて助かった。
商店街にあった武器ショップで販売されている武器で300円以下だと、ろくなものがなかった。高額な武器など購入可能なら、初っ端から凄惨なことがおきてしまうだろう。
バトルソードは1000円。
マシンガンもあったが、5万円以上もした。
マシンガンを購入したところで、予算オーバー。バスに乗り込むときに先生に没収されるのがオチだ。
300円で購入できる武器といったら、いいところで金属バットやカッターナイフくらいだ。
僕の調査だと、クラスメートの多くは、金属バットを選択しているようだった。
もちろん僕も最初は、予算MAXで購入できる金属バットを購入しようと思っていた。
だが先日の買い出しでは――
やはりここはゲームの天才である聖華さんの意見を最優先したい。
でも彼女が商店街に行った時、どういう訳か武器屋を見向きもしなかった。
手をパタパタさせながら、違う店に入っていったのだ。
聖華さんが入ったのは、普通の駄菓子屋だった。
10円や20円といった低価格なお菓子が陳列している。
古き良き時代を感じさせる小さな店内には、親切そうなおばあさんがニコニコとレジの近くに座っている。
聖華さんは、買い物かごを手に取ると、真剣な眼差しで品定めをしていく。
確かにこの価格帯なら、大量に買える。
でも本当にお菓子を選択していいのだろうか。
悩みもした。
だが聖華さんは、人生ゲームでは巧みな戦術で圧勝したし、全国のヤンキー共を束ねることを成功している。
間違いない。彼女は凄い作戦を思いついているのだろう。
そう確信している僕は、聖華さんが購入しているお菓子と同じお菓子を選択しようとした。
「誠司さん。折角でしたら違うお菓子にしません?」
「どうして?」
「半分こしましょ! いろんな味が楽しめますよ!」
……。
まったく分からない。
これをどう使って、クラスメートとデスゲームをやり取りしようとするつもりなのだろうか。
さすがに丸腰は危険だと思う。
最低でもカッターナイフくらいは所持しておくべきだろう。
だが聖華さんはカラフルな包装紙に包まれたチョコを手に取って見つめると、嬉しそうにニコニコしているだけだった。
僕は伶亜さんに視線を投げかけた。
でも伶亜さんは肩で笑うだけだった。
先日そのようなことがあった。
だから僕たち三人は、純粋に300円ぶんのお菓子を所持しているだけだ。
乗車口で先生の検閲がある。
クラスメートの一人がどやされる。
「お前、サブマシンガンは5万円だろうが。
おやつは300円までと言っているのに、駄目だろうが! これは没収だ!」
「えええ!! これを取られたら、俺のおやつがなくなっちゃうじゃん!」
「決まりを破るお前が悪い!」
僕たちも列に並び、リュックを開いて中身を見せた。
「よし、ちゃんと300円以内だな。OKだ」
誠司
所持アイテム:おやつ300円分