第6話 自動販売機と都市伝説
この前、自動販売機で当たりました。(3年ぶり2度目)
5月も残り1日。5月らしからぬ暑さに見舞われており、こんな日はクーラーのついた部屋でダラダラしたいと思うのが普通だろう。
しかし、今運動場には多くの生徒が駆り出されている。この学校の二大イベントの一つ、体育祭。その準備の為だ。
今日の授業は午前で終了し、午後は全てこの準備に充てられている。
グラウンド整備から始まり、テントや椅子の設置、コースの設定など。
裏方準備も合わせるとなかなかの仕事量で、それ故に一日の午後の時間を全て費やすことになっている。
ちなみに俺はただの下っ端。グラウンド組の1つで、リーダーの指示に従いながらコース整備と椅子、テントの設置だ。
うちの組はたまたまだが、優秀な後輩が多く、また同期のリーダーが上手くまとめていたこともあって、進行度はグラウンド組では一番だった。
「お疲れ、千弦。おかげで早く終わりそうだよ」
声の主は緑川 浩平。成績優秀、運動神経抜群のいわゆる“デキる奴”である。もちろんうちの組のリーダーはコイツだ。
「いやいや、お前のおかげだろ。相変わらずまとめが上手いな」
「ありがとう」
爽やかな笑顔で言った浩平は、一旦視線を仕事に従事する後輩の方へ移す。そして改めて進行度を確認した浩平はまた俺に向き直って、ありがたい一言を放ってくれた。
「作業はもう少しだし、千弦は少し休んでこいよ。どうせまだのところから呼ばれるだろうし」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
俺の返事を聞いた浩平は満足したように笑ってみせると、後輩達の元へと戻っていった。
俺も浩平達に背を向ければ、太陽から逃げるようにベンチのある日陰の方へ向かう。
見たところそれほど休憩してる人はおらず、ベンチもそこそこに空いていることを確認した俺は、自動販売機に予め持ってきておいたコインを投入した。
投入されたコインに反応した自動販売機は、商品の下のボタンを青く光らせている。
俺は数秒指を泳がせた後、なんとなくで紅茶をチョイス。ゴトンと音のした取り出し口へ、商品を掴むべく片手を突っ込む。
ふとピピピピという電子音が気になって、手は取り出し口に入れたまま音のする方へ向けた。
7777
そこには綺麗に並んだ4桁の数字が映っていた。
少しの間理解出来なかったが、これはおそらくそういうことだろう。
「まじか」
急いで俺は、再び青く光ったボタンを見る。確か時間は30秒だ。急がないと無効になる。
同じのは嫌だ。その決め手だけで、俺はコーラをチョイス。ボタンを押すと、再びゴトンと音が鳴った。
しかし、自動販売機の当たりって都市伝説じゃなかったのか。
まさかこれが本当に当たるものだとは思っていなかった。全く信じていなかったことに、少し申し訳なさすら覚える。
しかし、二本目を手に取って感じたのは、嬉しさではなかった。
いや、嬉しさもない訳では無いが、それよりも贅沢な悩みが先行した。
──今、二本は要らない。
どうしようか。この準備の時間は防犯のためにも教室は閉められている。中に持っていくことは出来ない。
が、この炎天下でペットボトルを放置するのも良くない気がする。
うーん……。
「やっほー! 千弦くんも休憩?」
「やっほー。後輩が優秀だから楽してるよ」
本堂 有沙。俺のクラスメイトだ。
5月に転校生としてやってきた少女だが、実に謎に包まれた人物である。
初会話の時にコンパスで首筋を刺してきたり、登校中にコンパスで首筋を刺してきたり、授業中にもコンパスで首筋を刺してきたり。
しかしどこか憎めない少女とは、いつの間にか仲良く登下校するほどに打ち解けていた。
もうすぐ一ヶ月か。そんなことを考えていると、ふと頭の中を名案がよぎった。
「あのさ、これさっき当たってさ。よかったら要るか?」
「当たった?」
少女は初め何のことかと首を傾げていたが、俺が掲げた二本のペットボトルを見て状況を察したのか、分かりやすく驚いたような表情になって件の自動販売機と俺の手とを交互に見つめた。
「嘘っ!? これって当たるの!? 都市伝説か何かと思っていたよ!」
つい5分くらい前の俺の心情を忠実に再現した少女が驚きの声をあげる。
まあ、やっぱりみんなそんなもんか。
「俺もそう思ってた。ま、とにかく当たったんだよ。それで二本も要らないから」
「そういうことかー。よし、じゃあ優しい私が紅茶を貰ってあげよう!」
おっと。計画が完全に狂ってしまった。まあコーラも嫌いではないから構わないといえば構わないのだが。
俺の手から紅茶のペットボトルを取った少女は美味しそうにゴクゴクと喉へ通していく。そんな可愛い姿を見てしまえば、紅茶かコーラかの違いなんて些細なものに感じられた。
プシュッと気持ちのいい音を鳴らしたペットボトルを口に運ぶ。疲れた身体に心地よい炭酸が染み渡っていった。うん、美味いな。
「ここの体育祭ってどんな感じ?」
隣に座った少女が唐突にそんなことを言ってくる。
思えばこいつは5月にここに来たところなので、知らなくて当然か。
「そうだな……普段大人しいヤツが化ける場で、あとはたくさんのカップルが出来る感じだな」
「千弦くんはできそう?」
確かに自虐的に言ったが、そんなダイレクト攻撃は仕掛けなくてもいいだろう。
「うるせえ。どうせ万年独り身だよ」
「競技のことなんだけど……」
またやられてしまった。
こうして勝手に勘違いしてしまうのは良くないな。確か前にも……あれ、俺は今何の記憶を探っている?
こんな引っ掛け方をする奴は、少なくとも俺の知り合いには居ない……はずだよな。
「しかし、お前も上手いな」
なんだか気持ち悪くなってきたので、その思考を振り払うべく口を開いた。
「うん。私も昔の友達にさんざんやられてきたから」
なるほど、やられすぎて身に付いたのか。こいつを手玉に取るなんて、相当からかうのが上手いのだろう。
……もしかして、コンパス技も実はそいつ直伝だったりするのだろうか。だとしたら、余計なことをしてくれる。
「じゃ、私はそろそろ戻ろっかな。コレありがとね」
空になったペットボトルを示すように顔の前で振った少女は、それをゴミ箱に入れてから元気にグラウンドの方へ戻っていった。
俺もそろそろ戻るか。そう思った刹那、背後の気配を感じて頭を勢いよく下げた。
そのまま後ろを見ると、デコピンをしようとしていたであろう手が、直前まで俺の頭のあったところに存在していた。
「いい反射神経してんな」
「特殊な訓練を受けてるからな」
俺の後頭部にデコピンを繰り出そうとしていた犯人・矢澤 健司は、「なんじゃそりゃ」と笑って言いながら俺の隣に座った。
「それにしても抜けがけか? 裏切り者め」
「誤解だ」
「よく言うぜ。毎日行きも帰りもイチャイチャしてるくせによ。どんな手を使ったんだ? これか?」
そう言った健司は親指と人差し指で丸を作ってみせた。相変わらず無礼なやつだ。
「何も使ってない」
「秘密主義かよ。俺なんて何してもダメだってのに」
「お前はやりすぎなんだよ」
健司は顔もかっこいい上、身体もよく動くのだが、どうしても理想が高い上にバカなせいもあって、口を開くと残念なイメージを蓄積されてしまう。
本人はコミュニケーション能力こそモテる秘訣だ、なんて言ってよく会話を試みに行くが、先にも言った通り口を開くと減点となる。
せいぜい「友達としては面白い」と評されるのがいいところだ。
そして残念なことに、自覚がない。
というか、そろそろ浩平にも悪いので戻りたい。
「俺、そろそろ戻るわ」
「おい待てよ。お前のとこはもうほとんど終わりだろ? お前が居なくなったら俺は誰と話せばいいんだよ」
チラッとグラウンドを見てみると、健司の班はみんな忙しそうに仕事をしている。見たところ進行度が遅いようでまだ多く作業が残ってそうだ。
「だったら働きに行けばいいだろ。お前のところ忙しそうじゃないか」
「いいんだよ、俺のとこは。どうせ裕哉が俺の分もやってくれるって」
裕哉というのは、クラスメイトの須田 裕哉のことだ。
裕哉は健司の班のリーダーだったはずだが、あいつも大変だな。
「誰がやってくれるって?」
噂をすれば。
「すまんな千弦。話の腰を折って」
「いや、俺もそろそろ離脱しようとしていたところだ。助かったよ」
「千弦もこう言ってんだから行くぞ」
裕哉は俺の返答を確認した後、健司の首根っこを掴んで連行していく。
「ブラック企業かよ〜」
「お。ならブラック企業らしくたっぷり働かせてやるよ」
「ちょ、悪かった裕哉! 今度ジュース奢るから!」
「ジュースはいいから労働力を出せ」
「ひぇー」
思わず笑ってしまった。ちょっと面白い。
しかし健司のくだらない抵抗への返答が全く容赦ないな。
さて、台風も去ったことだし俺も戻るか。
名 前:緑川 浩平 (みどりかわ こうへい)
誕 生 日:4月10日
血 液 型:A型
部 活 動:サッカー部
好きなもの:球技
苦手なもの:冬