不良ってほどじゃない感じの百合・アナザー
私はどうも三分以上物事を考えるのが苦手なんだと、しばしば思います。
地頭が悪いとは思っていませんでした。結構長い間思っていませんでした。
ですが学校の成績とか、進学した高校とか、そういうことを考えるとですね、どうも私はバカの部類だったのです。
そしてついに、貰った課題が全然できなくて私はもう授業にも出ないことにしたのです。
もう死んでやる! という気持ちでした。絶望も絶望、考えられない頭で一生懸命考えた結果、高いところからとりあえず飛び降りてやろうという強い気持ちを胸に秘めたのです。
授業時間に堂々と廊下を歩いて、屋上の扉を開いて。
「……あ」
人がいて、驚いてしまいました。女子にしては背の高い、茶色い髪のちょっと不良っぽい人がいたのです。
授業中なのに屋上でサボってるんですから、そりゃあ不良に違いないのですが。
どうしよう怖いなぁ、と思ったのですけれど流石に人がいる前で柵を昇って飛び降りるなんてできるわけもないですし、出会ってしまった以上何か話すしかないと思い、口を開きました。
「……ああー、あなたもワルですねー」
「え、なに、私?」
「はい。だって授業をサボってここにいるんじゃないですか? なかなかのワルですよー、ええ」
「んー、確かに」
ぱっと見、かっこいいなーって感じの人なんですけど、どうもとぼけた雰囲気です。
より、なにより、あまりにも感情が希薄です。私は求めていたツッコミを得られず思わず逆にツッコミを入れてしまいます。
「いやいやいやー、そこは普通あなたもサボってるじゃないですかー、みたいにつっこむところじゃないですかー」
「あ、そう、なの?」
「そうですよ。たぶん、ええきっと」
どうも、隣に立っても安心そうな人なので、私は近づきました。くすん、鼻をすするとシャンプーの香りか爽やかな空気があって、夏の日差しに加えて暖かな雰囲気と温度を感じました。
あと、金網の下を……うひょっ、これは落ちたらとても痛いですね。飛び降りはやめましょう。
「高いですね」
「うん。屋上だし」
「ユーはどうして屋上に!?」
「え? あー……授業いやんなって。課題、してないし」
「ああーそれ分かります分かります! やらなきゃダメなのに面倒くさくて全然手をつけないで、結局当日何もかも嫌になって授業サボっちゃうんですよね。いやー心中お察ししますー」
「あなたも?」
「ええっどうしてわかるんですかー!?」
なんて、大袈裟にボケると、彼女も笑いました。
「駆って男みたいな名前だね」
「よく言われるんですー。少年漫画の主人公みたいだって言われますー」
そうこう話が進むうちに、彼女は早乙女京という大変美しく古風なお名前であると確認しました。
ですが私は自分の名前にかなりのコンプレックスがあるので、そこは少し砕いてみます。結構大胆な試みです。
「やー、でもそれに対してミッコさんは名前も姿かたちも女らしくて良いですよねー」
「そう? 女らしいとか言われたことない」
「またまたー。ミッコさん女オブザ女みたいなところありますよ。いよっ女の中の女!」
ちょっと茶化し過ぎたかなぁ、と思いますけれど、ミッコさんは朗らかに笑って、私の態度を許容してくれているようでした。
他愛もない話を次から次へと出していきますけれど、彼女は静かに聞いて、心穏やかに微笑んでくれます。
クラスではこんなだから浮いてしまう私なのですが、もう私にとってミッコさんは友達であり、命の恩人ですらあります。彼女がいなければここから落ちてとても痛い目に遭っていたかもしれません。
連絡先を交換して、それからいつも一緒に帰るようになりました。
とても、幸せな日々です。
なんと素晴らしい事でしょう、学校が楽しいのです! 我が世の春です! これぞ青春というやつです!
さっぱり同じことを考えられないこの鳥頭も、不思議とミッコさんのことならずっと考えていられます。
屋上で日差しを浴びながら空色と混じる栗色の髪の輝きを。
柔らかく笑むえくぼの愛らしさも少し高いところにある肩の頼もしさも安心感のある緩やかな一挙手一投足も、何もかもが私は気に入ってしまったのです。
でも何もかもは言い過ぎかもしれないのが現実。
もしかしたらミッコさん、変なところがあるかもしれません。カレーが嫌いとかラーメンが嫌いとか言われたら正直凹みます。
ゆえに、ゆえに知りたい。ミッコさんのことをもっと知っておきたいと思うのは知的好奇心旺盛な人間勝山駆として自明の行動でした。
「ミッコさんって休みの日とかってなにしてます?」
「えー? ……なんか、何もしてない」
「省エネですねー。植物っていうかジャイアントパンダっていうか」
「寝るのが一番楽しい」
「ああー、分かりますー。なんかもう、ずっと寝てたいですよねー」
「花の盛りなんだけどね」
「過ぎ行く青春なんですけどねー」
晴れ晴れとした輝く青春から、やっぱり私もミッコさんも取り残されているような気がしてなりません。
というか、実際おちこぼれなのです。頭が悪いので。
下校に際して運動場では汗水流して走る野球部の姿が見えます。夕陽を背景に走りこむその姿には、少々感服するところもあります。
「でも疲れるよね」
「ですよねー」
あっさり、ミッコさんの意見に同調してしまいます。あれは私達には真似できようもありません。
ジャイアントパンダというのはうってつけのたとえだったと思います。
ミッコさんは、タイヤのブランコの間に入ってのんびりぶら下がってる。そんな愛くるしい姿がとても似合う、そんな気がしたくらいですから。
ただ、そんなにだらけていられないのも現実です。
「あのでもそのミッコさんさえ良かったらなんですけどー、その夏休みに私補習というものに呼び出されましてー」
「うん」
短く彼女は頷きます。私は逸る心臓を抑えながら夕陽で眩しいフリをしてミッコさんから僅かに顔を反らしました。なんだか頼み事をするだけなのに、やましい気分になってしまったのです。
「あのですね午前中だけなんですけど一週間くらいずっとあるんですけど、できれば午後からお暇ならちょっとお時間を私に割いてくださっていただけないかなーみたいななんて」
「いいよ」
「即答アンドオーケーですかっ!? 夏休みなんて溶けてるから無理って言われると思ってたんですけど!」
本当に、ぐでーっとパンダみたいに微動だにしないものと思っていました。外出とは無縁ですし、授業だって私に付き合ってサボってくれるくらいの省エネ主義者ですから。
「家にいるより勝山さんと一緒にいる方が楽しいし」
「あっ……」
私は、不自然なくらいに顔を背けてしまいました。だって、あまりにも。
ええ、不自然にニヤけてしまいました。あまりにも、嬉しいと思います。
「……合理的っ! 合理的すぎて素敵ですよミッコさん!」」
楽しいから一緒にいる、なんて意外と分かりやすいところもあるんだなぁ。
ミッコさんのことを知れて嬉しくなると同時に、私と一緒が良いと言ってくれたことがとても嬉しくて。
「補習かー。補習ねぇ」
ぼんやり呟くミッコさんが、私が妙にドキドキしてることに気付いていないことを祈りながら、小さくガッツポーズをとりました。
さて、夏休みも間近。
ミッコさんの成績は私を一回り上回っていました。体育のみならず、全部。お世辞なら充分賢いと言えるくらいの成績でした。
「ミッコさん成績……うわ、いいですねー。すごい、養ってほしいですねー」
「かつや……うわ、すごい」
私の成績は、良くない方のすごいでした。言葉で飾る必要もなく、ただ悲しいですね。
「ええええーん! 私これじゃおバカタレントしか未来がないんですよー!」
「大丈夫だって勝山さんたぶん勉強以外の何かできるから」
「勉強の方諦められてませんか!? わああああーーん責任とってくださいよミッコさーん!」
「うん、うん、面倒みるから」
「えっマジですか!?」
冗談で泣いたふりをして、冗談で乙女の売り文句のようなものを言ってみたら、まさかの展開です。
「補習の後、うちくる?」
「えっえっ、ちょっと……いやー時期尚早というか流石にそれは気が早すぎるという気がしなくもないのですが」
そんなすぐに責任を取ってもらうことになっても、というか責任といってもミッコさんは何も悪いことしていないのに、というかミッコさんは私のことをそういう風に想っていたのでしょうか、などと、などと考えて。
「受験勉強に早いとかはないんだって」
「はい?」
「いや、勉強」
「ですよねー! お邪魔させていただきますね!」
勉強を見てくれるだけでした。とりあえず笑っておきましょう。
一体、何を、考えていたのやら。
ただ、ただですね。
補習の後は適当におでかけ、あわよくば、でぇぇぇぇぇ……と、みたいな、イメージをしていたのに、私はミッコさんの家に行くことになってしまったのです。
一大イベントです。大体二週間の補習、毎日ミッコさんの家に行くなんて、もはや通い妻といっても過言ではありません。過言ですけど。
ごく普通の一軒家です。夏の太陽が燦々照り付け、節足動物がミンミン、ジジジ、アスファルトがじりじり焼き付く中の住宅街です。
「ここ」
「……はい」
早乙女家は普通です。
ただ、今のミッコさんは、太腿もももも露わなホットパンツに肩も鎖骨も丸見えのキャミソーーーォォゥルなんかで外出して先導してくれて一緒にいてくれて、私が親ならそんなふしだらな格好で出かけてはいかん! と一喝していました。
ただ私は友達なので眼福アンド目の保養と皮膚細胞一つさえ見逃すまいと焼きつけながら、彼女の部屋へと向かったのです。
ありがとう、補習、です。
「勉強疲れました! ご褒美とかそういうのないですか!?」
「はいポテチ」
「あ、うまうま。ってわんこそばみたいに渡されても胃袋が限界ですよ!」
問題終わるごとにポテチをあーんしてもらって、それは悦びですが。
補習課題の山を手伝ってもらうのも、本当にありがたいです。ミッコさんには何の利もないでしょうに、こうして家に呼んでお菓子とジュースまで振る舞ってくれて至れり尽くせりです。
でも楽しくないですね……ミッコさんと一緒に居られる夏休みは素敵ですけど、勉強で押し潰される青春というのは実に味気ない。無味乾燥です。湿潤ですけど。
「にしても勝山さんノリツッコミうまいよね」
「そうですか? あ、お笑いコンビでも組みませんか? それなら学力要りませんし。私がツッコミ、ミッコさんがボケで」
「えー。ボケって元気いるじゃん」
「いえいえ。おかだますだとか、ハラーイチとかツッコミの方が元気なコンビ多いですよ? あ、現実み帯びてきましたね……将来芸人になりましょうよ!」
そしたら社会人になってもずっと一緒ですね。この成績では、どうも大学まで一緒なんてことは想像つかないです。
「いやーないない」
「ですよねー!」
正直わかってました。無気力な感じの芸人さんもいますけど、ミッコさんは芸人という空気ではないですから。
だけど二人の未来、というのは少しだけ心躍るものがあるのでした。残った慙愧がチリチリと胸を焦がします。
補習三日目のこと。
「っていうか、補習サボりたいんですよねー……」
まあ限界です。勉強、毎日毎日、というか頭脳を使うのはたいへん疲れます。それはもうミッコさん休憩を毎日挟んでもたまらないものです。だって勉強しなくてもミッコさんはここにいますし。
「サボったら進級できないんじゃ?」
図星で一番痛いところです。ミッコさんが先輩になるなんて……いえ、それはそれでありですけど。
差し出された麦茶をごくごくと飲み干します。よく冷えてて、気分が思わずオヤジになりますね。
「べらんめーですよ! 留年が怖くて授業がサボれるかってんですよ! いや、怖いですけど……」
ミッコさんと離れるのはとても恐ろしい。また、前のようになってしまう。
出会って間もないのに、もうミッコさんがいないというのはとても考えたくないことでした。
本当に、気が付けばミッコさんが生活の半分にもなっているような気分です。もうミッコさんがいないときのことを思い出せないほどに。
「割と同じクラスになりたかったりしたんだけど」
「えっマジですか? 頑張ります頑張ります」
とんだご褒美発言に思わずノートを開きます……が、頭には入ってこない。ミッコエナジーを注入されても身体が限界を迎えているような気分です。目の前にミッコさんと同じクラスというニンジンがぶら下がっているのに、届かないのでしょうか。
「きっちり全部出席したらご褒美あげるよ」
麦茶の入れ物に手をぽんぽんと置くミッコさんは、そのようなことを言いました。
「えなんなんですかその突然のフラグみたいなの」
ご褒美と言えば、なんでもありでしょうか。なんでもしてあげる的な。それならできればずっとこれからも友達でいてくださいみたいな、いやいやもっと欲張りましょう、一緒に住むみたいな、いえ、なんというか、私は逆にヒートアップして何も考えられないような心持です。
「応援してるから」
少しはにかんだ、優しいミッコさんの笑顔は、いつもより私の心をほっと安心させるような温かみを帯びていました。
それを見ているだけで、尊くて、自分には過ぎた贈り物のようで。
「あー、その応援だけで充分ですよ……みたいなかっこいいこと言いたいですけれどもらえるものはなんでももらえっていう家訓なのできっちり補習終わったらとびっきりのプレゼント期待させていただきますー」
少し、かっこつけようかとも思いましたけど、やっぱりミッコさんから何かを頂きたいものです。それはきっと、ミッコさんと一緒にいられなくても私の心の支えになるでしょう。
ミッコさんと一緒にいるのが楽しいのに、もうミッコさんと別れることまで考えてしまうなんて自分でもかつてない考えっぷりに、何故考えるのかということを考えるほどのアリ地獄。
それでも考えずにはいられないのです。まあ、今は勉強しますけどね。
補習の最終日、地獄のような二週間が終わりました。
「あ、お勤めご苦労様」
「おうおう出迎えご苦労じゃけのー。……もっと言い方なかったですか?」
私はオジキでも若頭もありません。けどミッコさんに評判のノリツッコミは、気恥ずかしいですけれど期待に応えたようで嬉しいです。別に笑ってもなんでもないですけど。
「何欲しい? 千円以内で」
「えーなんでもなのに月のお小遣い未満じゃないですかーもうちょっと食い下がりますよー」
プレゼントというのに、その微妙なお値段はよろしくないでしょう。ミッコさんは表情を陰らせました。
「え……じゃあ六千円くらいまで……」
「いやいややめてください。ガチな感じはやめてください。ごめんなさい冗談です」
ミッコさんが私に払えるギリギリの金額みたいなのを垣間見てしまって逆に悲しみます。でも六千円って財布に入ってる一杯くらいな感じはしますね。それだけを使おうと思ってくれた、と考えると少しだけニヤついてしまいます。申し訳なさ半分の嬉しさ半分です。
陰った表情はすぐに楽しそうな笑顔に戻っていました。ミッコさんも冗談半分だったんですね。
「ま、折角ですしらーーーーーーーめんでも奢ってもらいましょうか」
「なるほど。伸び伸びラーメン」
「いえ、普通ので」
そんないつもの楽し気な会話をしながら、私はいつも家族で行くようなラーメン屋にミッコさんと行きました。
学校と近いところで、女性二人客なんてのはめったに来ないでしょうけど、店員さんは私とも顔見知りなので特に遠慮はありません。
ここはラーメンもおいしいですが、お父さんがよくおつまみにしている焼き鳥が絶品なのです。スパイシーで、けれど焼き鳥もラーメンも味が濃くて打ち消し合うことがない。体には良くなさそうですけど。
「あの……お金……」
「ラーメン一杯分だけは奢ってもらいますよ。焼き鳥の分は私が払いますので」
まず、ミッコさんに食べてほしかったのです。私の記憶に根付いた深い深いおふくろの味のように、ここの屋台はいつも家族で来ていたものですから。
少しでも、一緒の記憶を持ちたい、という感じでしょうか。ここの味にハマってくれれば、いつか別れてもここで再会する、なんてロマンスもあるかもしれないので。
「ミッコさんって外食とかしないんですか?」
「しなくもないけど、あんまりしない」
「はー。家族に愛されている感じですか?」
「家出るのが面倒臭いだけじゃないかな」
「いやいや。食器洗いとか料理する手間に比べたら外食のが楽ですって」
言ってみますけど、ミッコさんはぼんやりしています。別に私は愛されていない、なんて思ってませんけど、それでも毎夜毎食料理を作るのは大変そうだと思います。うちのお母さんはよく愚痴りますし。
と、話していると焼き鳥やラーメンが来ました。ミッコさんはチャーシュー麺を見て、うぇ、と驚いていますけど。
「よーし、食べましょう食べましょう! さ、ミッコさんも遠慮なく!」
気おくれさせないように、先にラーメンをずるずるっと啜ります。暑い夏ということを忘れて少し口の中をやけどするかと思いましたが、この濃厚なスープの味わいを思えば何のそのです。
「ラーメン、好き?」
「普通」
うっ、心配になって尋ねてみたらミッコさんはそれだけ言って醤油ラーメンを食べ始めました。これは、ちょっと失敗だったかもしれません。
「満足した?」
「はいそれはもう! ……ミッコさんは、ラーメンお嫌いですか?」
「や、普通だって」
「あ、そうでしたー。ははは」
なんででしょう。私が楽しむ側……なのはそうなんですけど。私へのプレゼントという名目だったんですけど。
食べ終わってから、どうもミッコさんの様子が気になります。いわば私のホームグラウンドにミッコさんをお招きしたわけですから、少しくらいは楽しんでもらえたのか、心配になります。
「どうかした?」
「え。あ、いやー、別にそんなに大きな話じゃないっていうかお耳に聞かせるようなことじゃないんですけどー」
「いいから」
「あー、いや、その……ミッコさんの方はご満足していただけたのかなー、と……」
楽しかったかどうか、なんて聞くのは愚策というものです。普通楽しいと答えてしまうのが人なんですから。それでも聞いてしまう自分の弱さを今は素直に嘆いています。
「私? 別に勝山さんのご褒美なんだから気にしなくていいのに」
ミッコさんは当然のようにそう言います。もてなす態度には見えませんでしたが、ミッコさんは楽しもうという気概はやはりなかったのです。それが、ほんの少し悲しい気もします。
「いや、そうはいかないですよ。誘った以上はやっぱり楽しんでいただかないと」
「あー……ラーメン食べてる勝山さん可愛かったよ」
「え! なんですかいきなり!」
「思ったこと」
「え、え、や、やだもーなんですかそれ本当に急に。口説いてます?」
「いや思ったことだって」
「…………そ、そうですかー…………やー、困ったなーもー」
頬が朱に染まったと確信します。それを見せないように、またこれ以上ミッコさんの顔を見ないように下を向いて歩きます。心なしか、速足にもなります。
なんだか可愛いなんて言われただけでドキドキしてしまいます。普段も可愛いと言われないことはないです。小さいし、ちょこまかしてるから。なんて侮蔑のような意味ですけど。
それを言ったらミッコさんの言う可愛いだって似たようなものかもしれないんですけど。
でも、それでもミッコさんの言う可愛いはそれらの百万倍も強い力があって。
「あ、あのー……、ミッコさん、そっちから私にしてほしいことみたいなのってないですかねー?」
前を向きながら、ミッコさんの方は見ずに尋ねます。私がこれ以上もらうのは罰が当たるというものでしょう。少しでも、恩返しをしたいものです。
「してほしいこと? なんで?」
「いえ、私に付き合ってもらったお礼に私もお付き合い差し上げれたらと」
「うーん……」
「ああー外出とか苦手でしたもんね勉強も私教えられませんしなかなか思い浮かばないですよねー」
そもそも、ミッコさんが私にしてほしいことなんて、あるとも思えませんでした。
「これからも一緒にいてよ」
「…………は? えプロポーズですかプロポーズか何かですか?」
「私他に友達いないから」
「ですよねー。ま、いいんですけど、いいんですけど!」
そういえばそんなことを言っていた気がしました。私は私だけが一人だったかのように思っていましたが、ミッコさんも私しかいない、のでした。
その瞬間なんだか目の前がぱちぱちと弾けるような気持になりました。
これからもミッコさんと一緒に、私は思わずその腕に抱き着きました。
「いいですよずっと一緒にいますよ。……私、重くないですかね?」
「え、軽いでしょ? あー、でもいっぱい食べるもんね」
「人との距離感測れてなーい! ま、いいんですけどいいんですけど」
今、どう考えても体重の話じゃないのに! というボケなんでしょうか? ミッコさんはそういうの分かりにくい感じですけど。本気っぽいような。
「まずちゃんと進級してね」
「勉強教えてくださればよゆーです、よゆー!」
こんな時にも勉強の話というのがまた!
けれど、けれどやってやりますよ!
不肖、勝山駆、ミッコさんのためならえんやこらです! えいえいおー!