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おだやかな昼下がり  作者: 克辺 篤姫
2/2

その2

前回の続きです。

     *

「わたし考えてたんだけどね。」

僕が困り果てていると彼女が口を開いた。

「わたしたちって生きてるんじゃなくて、生かされているんじゃないかしら。」

「生かされているって?」僕は驚いて尋ねる。

「うん、なんかうまく言葉では言い表せないけど、生き物とかって誰にも教わっていないのに生きるすべを知ってるじゃない?それって、わたしたちの考えなんて到底及ばない存在の意志によるものなのかもって思ったの。」彼女はゆっくりと言った。

「それって神様のことかい?」

 正直なところ僕は神の存在など信じてはいなかったし、自分の人生が誰かに決められたものだなんて、まっぴらごめんだと思っていた。

だが、彼女の言っているのははそういったたぐいのものではなかった。

「ううん、違うの。星の意志というか、自然の意志というか、そんなものよ。わたしたちっていつかは死ぬじゃない。そしたらわたしたちのからだは土に還って、草木の養分になるわ。いや、今だってそうよ。わたしのからだを構成している分子だって絶え間なく新しく入れ替わっている。わたしたちは太古から続いてる原子の大循環の中にいるのよ。そうして、かつてわたしだったものたちがまた誰か、何かに変わってこの地球に存在し続けるの。」

 なるほど。地球上に存在する原子の数はほとんど変わらない、という話を聞いたことがあるがそのことを考えると、彼女の考えもあながち間違ってるわけではないのかもしれない。

「つまり、さっきまで僕だったものが、次の瞬間には君になっているということもありうるということかい?」僕は少し茶化していった。

だが、彼女は「大いにありうるわ。」と大真面目な顔で答える。

「そうだね。じゃあやっぱり君が生きることには価値があるんだよ。」

 僕としては彼女が元気になってくれたので、その考えがどうこうということはそれ以上言及しないで、そのあとはたわいもない話で午後の時間をつぶした。

     *

 お互いのカップの中身もなくなった頃、彼女が「そろそろ行きましょうか。」と立ち上がった。

「いろいろと相談に乗ってくれてありがとう。おかげで少し胸のつっかえがとれたわ。そのお礼と言ってはなんだけど、ここはわたしが払うわ。」彼女が言った。

「それではお言葉に甘えて。」

僕はそういって支払いを辞した。僕はこういったことは断らないタイプの人間なのだ。

「それじゃあ、今から僕の家でも来るかい?」

僕はさりげなくそう切り出した。

「あら、どうして?」

「種の保存のため、かな。」僕は言った。

「お断りします。」彼女はきっぱりとした口調で切り捨てて、先に店を出て行ってしまった。

 チェッ。僕は軽く舌打ちをして、彼女の後を追いかけた。外はまだ燃えるように暑く、もわっとした熱気に包まれていた。

僕の後ろで喫茶店のドアがちりりんと音を立てて閉まった。

                                         完


最後まで読んでくださってありがとうございました。

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