第三話 衝突
キャラクター紹介を兼ねた回なのですすみ具合は亀です
この国の土地は沼やら湖が広がり季節の変わり目になるとそれが凍りついたり半解凍になりものすごく足場が悪くなるので大軍を動かすのには天然の要害になり得るのだ、それに自分で自国をこうして自虐するのはどうかと思うが資源もそこまで無し、いるのは俺のような皮肉屋に軽いノリで失敗する連中位だ。
神の恩恵よりも明日の酒のつまみを望むような事ばかりを考えているなんてのは流石にふざけすぎかもしれないが…
取るものが無いと言うのは他の各国の間でこんな冗談混じりに言われる程に何にも無い国なんだけどココ最近連邦がきな臭い動きを見せているし今後ここの国は苦難が待っているのではないか…なんて言ってみても今回の敗北にはあまりに関係ない話をしているのだが、自分の国の事くらい話せないのは軍人としてどうなのかと思ったからである。
「さて、敵本陣に攻めもうとした結果として拠点の攻略に失敗し、前線が崩壊した結果としてなしくずし的に隊が壊滅していったのなら戦況的に問題ないし仕方ないとしてだ…なんで自陣地への侵入を防げなかった上に守備隊が突破されて自陣地の占領負けとか言うカッコ悪いを通り越して無様に負けてんですか、説明を求めたいんですが幹部候補生様?」
いやいや、いきなり感情を抑えきれない子供みたいな台詞から始まってしまって恐縮なんだがこれは俺は悪くないと予防線を張っておくぞ?
俺は保身には余念がないからな、軍人辞めた後でもツテを使って一儲けする位のビビりなんで隊員から嫌われて「一発なら誤射ですよ」とか「軍人の半分くらいの死因は流れ弾なんですよ?」
みたいなくそったれな感じでは殺されたくないので俺は隊員に波風を立てるのは極力避けている…のだがこの浅黒古王国人には試験が幾ら出来ても実地や部下の信用無くては戦争はできないと言うことをしっかり教えてやらなくてはなるまい。
因みに古王国は大陸の西のせり出した半島に位置する国で古くは沈まない国と呼ばれていたそうだが…最近はめっきり話題にならない、最近は王権分裂で不安定してるとはいってもまだ影響力は依然として存在して…いるよきっと。
多国籍軍で言語が通じるのはこの大陸全体の古語が未だに活用されているからであるが、正直に言うと母国語の他に特定の外来語を取得するのが大半で訛りがあったとしてそれとなく通じるのである。
「ええと、話が長くなってしまって恐縮なんだが相手一人に対して奇襲攻撃を受けて二人ともあえなくノックダウンね…え、何やってんの? 今回の自陣地かなり熟考してから決定したと思われるんだが?」
苛立ちと怒りのだった区別が曖昧な程に俺は感情的になっていた、だがしかし誰だってチェックしていたと思ったらチェックメイトされてたなんて話ならそうなるだろ?ばつの悪い顔するとか態度で申し訳なさそうにするなら分かるんだが…
「それはなんと言うか…たまにはそんなこともありますって、
隊長さんはあまり気に病まないでいかないと実戦前にアップアップになっては仕方ないだろう、な?
」
西古王国の幹部候補生はフェリペというこの少年はその国の貴族の御曹司らしくこの訓練基地を兼ねているここの上層部とも仲良くしているそうで…(あくまでこの情報は噂の域を出ないのだが)
俺が小隊を率いていても、たとえ俺が尉官で奴が准尉だとしてもほくそ笑みながら口には出さない嘲りを背中に感じている…昼間は実践形式の訓練に加えて夕方まで座学で、就寝時間までは今回の反省を行っている。
会議は踊る、されど進まずとはよく言ったものだが敗因に加えてこの隊の問題点と言うのは明らかなのだ…俺はぼやっとしたことが嫌いなのでさっさと結論から言ってしまうぞ…この面子はあまりにまとまりが無さすぎるんだよ!!!
「防衛線を敷いた意味がありませんわね、少なくとも作戦がうまく行かなかったという印象操作早めておいたほうがいいと思いますがいかがですか?」
こんな場面で意見を言えるやつが居てよかったとビクトリアの静かなだが熱のこもった声は俺にとって心強く思えた、これに続くのはこの「勉強会」について面倒くさがっていたターラーだったことには少し驚いたがな。
「ま、訓練が全てというわけでもなし少なくとも我が強い奴ばっかりの俺らの小隊にも10回目にして闘う形が見えてきたんだ、隊長さんの元で闘うには心もとないって独断で動くことは有るまぃ?」
階級を考えるとビクトリア中尉が隊長であるべきなんだけどなぁ、なんで少尉である俺何だか…
此処で小隊員の各員の簡単な紹介をしておくとしよう。先ずは…ビクトリア少尉は金髪碧眼をかなり伸ばしているし祖国でいい生活をしている証拠に他の女性陣に比べて疎いというか世間一般と外れているし…これ以上は他の女の子に対して失礼に当たるので止めておこう。
サルライネン軍曹あたりに読心術を使われてサラッと広まりそうで怖い、ビクトリアはフェリペと同じく貴族の階層出身だそうだが彼女にそのことを聞いたら親の敵でもみるような目で見られてからはその話題というのは極力避けている、
口数はそこまで多くないしどちらかと言うと落ち着いた感じだが勝負事には全力な上に強いし物事はハッキリと言う、というのが俺の主観だ。
…そうだなターラーとフェリペは別にこの後でも紹介する機会があるだろうし正直男の事情やら性格とか分析したくないわ面倒くさいのでスルーで
「はい! 今回のペナルティはどんなことさせられるんですか!!」
勢いと元気よく手を上げたのはアスラ伍長か…よしそれではアスラ伍長についても説明していこう。
とはいえアスラ伍長とルイネン上等兵はなんとなく姉妹っぽいんだよな…血縁関係こそ無いのだが、アスラはライトブラウンの髪を頭の後ろでポニーテールにしていてこの小隊の中で一番身長が低く学生と言っても通じるんじゃないかと言わんばかりに童顔で言動まで明るくムードメーカーとしてターラーとともに楽しくからかったりするものだがへそ曲がりである。
言い過ぎると訓練中の彼女に総スカンを食らうのでかなり精神的に来るものが有る、ターラーが悪い。
ルイネン上等兵は青みがかったブロンドの髪を肩まで伸ばしてよくカチューシャをしている姿を見かけるが…今は髪下ろしてるな何でだ?
ルイネンは因みに公国出身の公国育ちだがアスラは一度南西にある共和国に養子に出ているが詳細はまだ聞いたこと無いので不明なんだがそしてルイネンははこの隊の数少ない常識人枠であり注意こそしないが曲者しか居ない小隊の良心とも言えよう。
慎ましやかで控えめなところは正に男の理想のかn…個人的な感想ではなく一般論だからなあまり深くは考えないでおこう。
さて、隊長としてアスラ伍長の質問に答えてやるとしよう。
「それはな、明日の訓練がが休みになったと同時に明日の予定が夜間哨戒訓練となったんだってことでよろしくな」
俺だって全く吝かじゃないし、本当に勘弁してほしい。
女子諸君に夜中起きてほしくはない、なぜかと言えば睡眠不足は美容の敵だからなって言うのが建前で本音は夜勤明けの苛々している諸氏に対してターラーが余計な一言を言って以来夜間哨戒訓練は嫌いになった。
だってさ、隊長である俺に向かって刺のある言い方を次の日ずっとルイネンやアスラにされてなんかもう泣きたくなったよね。
普段いい子なだけに隊長のメンタルはずたぼろになって…いやこれ以上は言わないでおこう。
そういえば夜が好きなもの好きがこの小隊には居たんだったな
「夜はみんな静かだから別に苦じゃない」
何時も銀色の髪をツンツンと逆立たせているので世話焼きなルイネンがその癖を直そうと試みたが本人の無抵抗とは裏腹に全くそれが言うことを聞くことはなかったと言う…
隊員とは距離をとっているようには見えないが彼女の作り出す独特の雰囲気に近寄る猛者が今のところいないのである。
ターラーが「あんな眠いなかで何時間もあっち行ったりこっち行ったりは勘弁だぜーー?」と肩をすくめていうのをため息混じりに眼鏡はずして椅子に座り直すのは先の作戦において俺と共に行動したルイーズだ。
暗めの茶髪をボブカットにして、いつも不機嫌なのか目が悪いのか鷲の様に目を光らせているが眼鏡をしているし兵役試験を突破しているのでそれ目が悪いわけでもなく元々目付きが鋭いんだろう、俺に対してずっと睨んでるんじゃないかなっていうのは俺の被害妄想なんだろうなうん!そういうことにしよう!
少なくとも戦場に出て血やら火薬にまみれるのを良しとするタイプにはおおよそ見えないし、どちらかと言うなら研究室で白衣を着ているのが容易に予想できる程に体つきは華奢だぇ口数も多くないが隊長(俺)に対してやたら注文をしてくるが辛口な良薬だと俺は思っている、いざとなれば命を張り合ってお互いに助け合わなくてはいけないのだ、信頼関係くらいは作っておかなくてはまず話にならない…って何の考察をしてんだかなと思いつつ俺は会議室の一番奥から各隊員を観察してみたがこの小隊…色々とレベル高いんじゃ…?
「訓練と言っても教官が付くわけでもないし何も起こらなければただ定時の報告をすればいいだけの話だからそこまで気にする必要は無いんじゃないか」
ペナルティとは言っているものの、春のこの時期は気温も流石に氷点下までは下がることもあんまりないし…
隊員達がそれぞれ自国の愛国心や他国批判などやり始めると収拾がつかなくなる事があったが俺が変にリーダーシップを発揮しなくてもまとまりを持てたので俺の存在意義と支配力はほぼ皆無と見ていいな、
不満不平を漏らすのは別に構いはしないが己を省みずに浅はかな責任転嫁をする人間は器が小さい人間だと思っているので…うちにはそんな人間はいないと信じたい。
「それにしても10敗目だなんて、寄せ集めこ傭兵団でももう少し統率力ありますわね…」
高貴で物憂げな御姉様素敵!
じゃなくてポジティブにやり過ごそうとした見たくなかった現実を叩きつけてこないでくれるかなビクトリア中尉、俺泣くぞ?
「自己主張が強いのは…」
このメンバーの国籍を見れば一目瞭然だと思うんだがと言いかけたが俺は要らぬおとを言うと争いに発展すると言う持論があるので開きかけた口を閉じることにした。
「人は共通事項が現れないとまとまらないのは自明の理」
サルライネンの哲学的思考が飛び出すが一理あるしこれにより他の意見が生まれても共感が生まれるのはじつにいいことである。
「現下の大問題は言論や多数決によってではなく、鉄と血によって解決される」
ルイーズがサルライネンに対抗してか誰かの名言をぶつけてきたがいったい誰のだ?俺は学があまり無いからわからないぞ?
「オットービスマルクですわね」
オットービスマルクというとルイーズの国か新帝国のかつての宰相であったはずだが自国の君主に対してもあまり思い入れがないので俺はそんなの分かるわけもない。
エリザベスは他国の宰相の言葉まで咄嗟に出てくるのか、
「ビクトリアさん流石ですね」
当たってんのかよなんで分かるんですかね…
ルイーズ上等兵、貴様インテリジェンス組か?!
「はぁぁ、地頭がいい才女様かぁー隊長さんよ、結婚とかするんだったら頭が良くて自分が適当していたって財布の紐締めて「あんたはこうしてばいいの」って世話焼きな子がいいよなぁ?」
そんなの反応しづらいぞそれ、おいフェリペ俺に同意を得るようににこやかに笑みを浮かべるんじゃない。
「そうだな…少なくとも今は嫁さんとかそんなんまだ考えたことねぇよ、
俺らは戦争屋、真っ当な人生設計なんて立てたとして上手くいくはずもないと俺は思っているよ」
悲観的だなぁと自分でも思うがフェリペが何も言ってこなかったので少し不思議に思ったが
「せ、戦争が起こるなんて誰も思ってないよ!
20年前だってなんとか平和に解決したじゃない?」
ルイネンの言うことは希望的観測にしかすぎないだろじゃなかったら公国のお偉い方が列強の人材登用して軍内部の主導権争いに介入させてるかって話なんだが…
軍事技術の競争がいくさきには国家に対して軍の意向が反映される様になり暴走の結果、泥沼の戦争にひた走る未来しか俺には見えない。と否定と現実を見せるべきなのか俺にはいまいち厳しさが足りないように思えた。
「ま、20年前と今とでは勢力図も違うし、この国は良い国だけど連邦が自分の国のなかではなくて外に目を向け始めたとしたら…この先は誰にも分からない展開になるんじゃないかな?」
フェリペまたお前は一言要らんことを言うな…意味深長な情報ばかり断片的に与えられても人は混乱して立ち往生してしまうぞ。
「共和国に居たときには仮想敵国は色々候補があったみたいで新聞に書かれていたこともありましたが公国は入ってなかった気がしますよ!」
えっとな、多分共和国はまさかこの国が共和国に対抗する勢力になるうるのかとは元から考えていないと思うぞ?大陸内とは言っても相当距離の方は離れている訳だし、アスラ伍長は元気だなぁ癒し系だよね。
「この大陸の国際情勢の話ならカフェテリアで珈琲を片手に語っているがよろしいかと、机を囲んで自分のその事実に基づいていない観測で行われたシェイクスピアも腰を抜かす駄作の悲劇をするのであれば私自室に戻らせていただきますわ」
ビクトリアは俺を見下しながら皮肉と刺を含んだ一撃を小隊員に向けた。
彼女は恐らく自分の所属するこの小隊が演習訓練が上手くいっていないことが悔しいんだろうなってのは流石に俺でもわかるが…
「まぁまぁ、そんなに怖い顔しないでくださいよ、そうですね今回の反省を隊長サンにお願いしたいのですが隊長なにかありますか?」
規定された階級に従うならばこの小隊はこいつとビクトリアが副官になる訳なのだが、俺には事実上の指揮権は形骸化しそうだなと頭の隅で想像しつつ俺は今回の反省をすることにした。
「初回の演習訓練に比べてしまうのは簡単だけれど俺たちの目指すのはもっと先にある、国も言葉も違う俺たちであっても平和を守ることに誇りを感じるからこそここに来たのだと思う、
今回の俺たちは要衝である高台を攻略したことで確かに優位に立った、だが相手も一筋縄にはいかず
防御を固め更に反撃に出たことにより俺たちの攻めていたアドバンテージははなくなってしまった。
上手いことこちらの策を流し致命傷を避け賭けに勝った。
小隊の動きは日に日に良くなっているしこの国の気候等にも早くなれて欲しい、自分にもやれることは限られるしそれは皆に言えることだ。
負けて悔しいと思っているのなら俺たちは駒を進められると思う、最低限の連絡の伝達のみならず皆には是非とも信頼を各々で勝ち取れるよう節度と親しみを持った行動を期待する、直接戦闘を避けすぎたこちらにも責任はあると思うので反省していきたい以上だ。」
自分でもこの言葉が皆の士気をあげるかは期待していないが俺の小隊はともあれ女子がいるので他の小隊の男どもから集中砲火を浴びさせれらたり士気が異常なまでに高いからぼこぼこにされるのではないかと言う俺の予想はあながち間違いではないとふとそんなことをメンバーを見ながら思ったのである…
「だって女子面子は皆綺麗だったり可愛らしい子ばかりで俺があんまり前に立たせたくないなんてのはあいつら相手言えないよな?」
その後も私語や演説飛び交う会議室から断りをいれて出てきた俺はため息混じりに独り言を吐いた 。
外の廊下には点点と灯りが落ちているが全てを照らせていない、背後に人の気配がして慌てて振り向くもそこには勿論誰もいるわけ…
「隊長? いつからそちらに?」
正面に戻るとサルライネンが少し不思議そうな顔をしていたときには俺はもう心臓が止まるどころの騒ぎじゃなかったのは勿論秘密である、突然出てくるなよ…