お菓子はここにある
「そろそろ行くか。」
クッキーを食べ終えたヴァニラは立ち上がりながら言った。私もそれに続く。お腹は満足したし、疲れも取れた。
小屋を出る。ヴァニラがふと、手を出してきた。
お互いに手を出し、手を繋ぐ。そんな年齢じゃないけど不安だからそのままだ。
ヴァニラは手を引き、此方を見ながら言った。
「ハッシーはさ、どこから来たんだ?あのクッキー、親が作った物か?」
来た! そう思った。
見るからに怪しい私。 嘘は厳禁。きっと、いつかはボロが出る。でも、真実を話すほどヴァニラを信頼出来ない。全ては話さない。誤魔化しきる。その為に必要なのは勢い。
「えっと、ヴァニラごめん!」
頭を下げる。目を見て、立て続けに話す。必要なのは嘘をつかない事、誠実であるように振る舞う事だ。
手をさり気なく両手で握る。
「私、親と一緒じゃないの。あのクッキーは私が作った。甘いお菓子を作る仕事を私はしていた。でも、いつの間にかあの森に居てヴァニラに出会った。」
「え? ハッシーが作ったのか?? 親と一緒じゃないって……。」
狼狽えるヴァニラ。漬け込む隙は十分だ。
畳み掛ける。
「ヴァニラがいてくれたから私、助かったわ! お礼をしたいけど、私は迷子でお金もないの。」
目を晒す。悲しげに辛いことがあったのだと言うように。事実、今の私は辛い状況にある。
「でも、お菓子を作れるのは仕事になると思う。ヴァニラのお父さんはお菓子作りも得意かしら?そうでないなら力になれると思うの!!」
顔を上げ、目を見て訴える。
人は疚しいことがあると、目が泳ぐという。それを逆手に取る。
ヴァニラは慌てた。そして、衝撃の事実を告げたのだ。
「待てよ、ハッシー! 父さんは確かにクッキーのような甘いお菓子は作れない。でも、それは他の人も同じだろ?誰もお菓子は作れない。ハッシーが嘘を言ってるようには見えないけど、お前がお菓子を作れる筈がないんだ!!」
雷が落ちたかのような衝撃。
身体が震え、足元が覚束ない。呼吸が浅くなり、声が震える。
「ど、どういうこと…? お菓子が、作れない??ヴァニラも、食べたでしょ? 私が作ったのよ、あのクッキーは……。」
それは私の知らない世界の常識だった。
お菓子が作れない?? ヴァニラが何を言ってるのか分からない。
涙が溢れる。
「食べたし、確かに美味しかった!! でも、あり得ないんだ。お菓子を作れるのは最高の料理人以外にあり得ない!」
やめて、私からこれ以上奪わないで
それは私の生きる意味なのに
私の世界を壊さないで
ああ
恨むよ、神様