バニラじゃなくて、ヴァニラ
「よろしくね、バニラ!」
無事に自己紹介も終わり、街に向かおうとした時、バニラが言った。
「なぁ、ハッシー。」
「なに、バニラ。 今更、面倒見れないなんて言われても困るんだけど。」
「いや、それは言わねーけどよ。いいか、ハッシー。俺の名前はヴァニラだ。」
「えっ、うん。 バニラでしょ?」
何言ってんだこいつは。聞いたばかりの名前を間違えるほど馬鹿じゃない。なのに、バニラは言う。
「微妙に発音が違う。 ヴァニラだ。」
「だから、バニラでしょう?」
「バ、じゃねぇ。ヴァだ。」
マジか、ウに点々の方かよ。日本人にその発音は難しいつーの。でも、流石に名前をきちんと呼ばないのは今後に関わるよね。
「バ、ヴァニラ!」
「ちゃんと呼べるじゃん、次からは間違えんなよ!」
「わ、分かった。」
スッキリとした顔で前を向いて歩くヴァニラ。
「ねぇ、ヴァニラ、街ってどこの街に向かってるの?」
手を少し引き、前を歩くヴァニラに声をかける。
彼は私より背が高く、歩く歩幅が違う。少し、早足で追いかける。
「どこって、ガトーに決まってるだろ? 」
「ガトー? 美味しそうな街ね。 」
「ああ、大きい街だし、様々な美味しいが集まってる。1番は父さんの食堂だけどな。」
「そうなんだ。」
「だから、安心しろよ。直ぐにハッシーの家族も見つかる。」
励ましてくれるヴァニラに曖昧に微笑む。
何で、人気のある食堂だと直ぐに見つかるのかな。つか、家族と一緒じゃないとか今は言わない方がいいよね。あー、考えるとお腹減る。
「ハッシー、あそこで少し休もう。」
ヴァニラが指差す方には小屋が見えた。中に入るとテーブルとイス。どうやら休憩所みたいだ。
「歩くの早かったか? 悪い。 もう少しで着くから頑張ろうな。」
「うん、ありがとう。」
疲れてきたから、凄く助かる。ヴァニラが年下に対する接し方でも許せる。それにしても、幾つに見られてるんだろう。まあ、ヴァニラより小さいし化粧も大してしてなかったら年下に見えるか。聞かれるまで黙っていよう。
それにしても、お腹減ったな。今何時だろう。携帯とかあんのかな。確定じゃないなら、出さない方がいいよね。
「ねぇ、ヴァニラ。いま何時か分かる?」
「今はお昼頃じゃねーの。時計持ってねぇから正確には分かんねえけど。」
「そっか、ありがとう。」
時計があるのか。なら、ある程度の文明は発達してるな。時間の概念がないとかだったらやばかった。
「もしかして、腹減ったのか? 悪いけど、食べ物は持ってねぇわ。街に着くまで我慢してくれ。」
「えっ、うん。お腹は減ったけど、大丈夫だよ!」
「ごめんな。いつもなら何か持ってんだけど、今日はお昼頃には帰る予定だったから持ってきてねぇんだ。」
「大丈夫だって! お世話になってる身だし、我慢出来ないほどじゃないもん。むしろ、私の方がごめんね。何かお礼できるものとかあればいいんだけど…。」
「それこそ、気にすんな。困ってる奴がいたら助けねぇとな。」
おおう、眩い笑顔。カッコイイなヴァニラ君。モテそうだ。本当は君よりお姉さんなのにごめんね。お礼は後でちゃんとするから!!
何か他に持ってなかったかなー。
あれ?そういえば、クッキー持ってなかったけ?
昨日作ったバニラクッキー。学校に持って行ってみんなと食べようと思ってたけど無理そうだし、案内してくれるヴァニラにもお礼にあげよう。
「ヴァニラ。私、クッキー持ってたわ。一緒に食べよう。」
「はっ?クッキー??」
「うん。クッキー。」
リュックを漁り、出てきたクッキーは大量にある。40枚ぐらいある。大量に作った方がうまくいくんだよね。だから、多くなりがちだが学校に持って行くと直ぐになくなる。みんな、甘味に飢えてるからなー。
「はい、バニラクッキーだから、ヴァニラにぴったりだね。」
笑って渡す。5袋ぐらいに分けてあるため1袋8枚ずつ入ってる。1袋はヴァニラにあげて、1袋は自分。3袋はまた後でだな。
「うん、美味しい。」
流石、私。
チョコチップは気分じゃなかったから入れなかった。だから、シンプルなクッキーになったけど、バニラの風味豊かなサクサクとしたクッキーで美味しい。
ヴァニラがクッキーを凝視したまま動かない。
「ヴァニラは食べないの? もしかして、甘いの苦手だった? アレルギーとか?」
何か不味かったかな?時計があるぐらいならそこまで酷い食生活とかじゃないと思ったんだけど。
ガトー
フランス語、ガトー(gâteau)
小麦粉に卵や砂糖、バターを加えてオーブンで焼き、ナッツやフルーツ、チョコレートなどで装飾された菓子のこと、または焼き菓子の総称。