改めましての第一歩
叫んでも、泣いても、怒っても、謝っても、誰も助けになんて来なかった。ひょっこりと「ドッキリ大成功〜!」の看板を持った人が来ないか期待したが来なかった。
夢かと思って頰をつねったら普通に痛かった。泣くのも疲れたし、叫んだ喉も痛い。
どうやら、これは現実らしい。
「もしかしてさー、異世界トリップとかじゃないよね??」
中学の頃なら喜んだだろう。厨二病で夢見がち、テキトーに生きてた頃なら。でも、今の私には無理だ。
3月生まれの19歳。
調理製菓の専門学校に通う製菓2年生。
既に内定を貰って働き先が決まったし、国家試験に合格して製菓衛生士の資格も勝ち取った。
パティシエとしての第一歩を踏み出す筈だった。
目の前に広がる自然豊かな森。
それだけ見たら、ドッキリとかだと思うけど光差し込む頭上。ずっと無視してたけど
「なんで太陽が二つもあるのさー!!」
もう、明らかにおかしい。大小ある太陽が二つ寄り添ってた。
理解できない、ありえないことが起きている。
しかし、どうにもならない事はどうにもならないと私は開き直った。それは諦めであり、立派な自己防衛だった。
まず、使えるものを探す為リュックをあさる。
筆箱、折り畳み傘、教科書、ルーズリーフ、実習ノート、クッキー、ペットボトル、化粧ポーチ、実習着に実習靴。 あとは、持っていたツールケース。そこには商売道具が入っている。
「とりあえず、食べ物や飲み物は大事にしよう」
次に自分を見る。
コート、ジーパン、丁シャツ、パーカー。
「暑いわ!つか、冬だった筈なのになんでこんな暑いんだよ!夏か!」
コートを脱ぎ捨て叩きつける。
「1月だよ⁉︎ なんで雪がないの!もうバッカじゃねーの!!!」
ダンッと足を下ろし、怒る。つかれた。深呼吸。
すっと拾い、丸めリュックの中にいれる。
膝の傷は、血は出てないがジンジンとするし、痛いものは痛い。泣き叫んだ時に叩いた手はすっかり固まってるけど血が出てた。、
「あっ、絆創膏!」
ツールケースをあさる。怪我したとき用に絆創膏を入れてたのをすっかり忘れてた。
そして、目に入る刃物。
「ペティナイフ……。どうしょう、手に持っていた方が良いかな? 」
3分悩んだ。
「うーーん、やめよう!」
使いきれる自信がないし、正直無理だ。
つか、ペティナイフは果物切る用だし、血で汚すとか本当に無理。勘弁して欲しい。
「うん、何も解決しない!!」
目の前には道。奥に行けば行くほど、明るくなってるのが見える。
後ろにも道。奥に行けば行くほど、森が深くなっていくのが見える。
「前に進むかー、むしろそれしかない」
どう考えても、後ろはバットエンドだ。
死ぬ未来しかない。
道があるということは人がいるということだろう。
希望はまだある。