3 友情! 努力! ハレンチ!
李小五は目を覚ました。
まったくもっていつも通りの朝である。母と兄嫁がせわしなく朝食の支度をし、甥姪がかしましく騒いでいる。
小五も普段と同様に、母に急かされるまま水汲みに駆り出された。家の前の畑では、父と長兄が作物の手入れをしている。
この李小五という青年、農家の末弟に生まれたばかりに、夢も希望もない人生を送っていた。
明けても暮れても畑仕事ばかり。また身長も平均値、顔面の出来もそれほど良くはなく、性格は内気。飛びぬけた学もなければ華やいだ話術もない。近所の女どもからの評判は、当然芳しくなかった。
日がな一日畑で過ごす人生。いずれ両親が死ねば、田畑は長兄が受け継ぐと決まっている。末弟の小五はきっとずっと下働き、一生小作人暮らしだろう。
鬱屈していた。悲観していた。日常には諦念が蔓延していた。
以前は小遣いを貯めて、しばらく読み書きの手習いに通っていたりもしたが、文字が読めたところで何の得もない。すっかり飽きてしまった。
水桶を吊るした天秤棒を肩にかけ、青年はうつむきながら道を行く。肩にずっしりと感じる重みは、これからの行く末を暗示しているようで。
そんな小五青年の眼下にハラリと、それは突然舞い込んだ。
一枚の紙だった。
たった一枚の奇妙なチラシ。この紙ペラ一枚をきっかけに、小五青年の人生観は変わる。そう、希望に満ち溢れたものへ。
紙に書きつけられていたのは、檄文だった──。
『集え、童貞諸君! いまこそ我らの力を結集するとき!』
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スケベ忍軍の結成を誓い、巽と子堅は手を組んだ。
まずは仲間を集めんと、子堅が檄文の原案を考え、巽が木行の道術を使い版木を制作し、木版にて募集チラシを大量生産。
巽は子堅のもとを訪れる前から、忍軍に加わりそうな亮州近辺の若者もしくはオッサンに目を付けていた。
そんな彼らの目につくように、チラシを配る、配る、配りまくる。
檄文にはスケベ忍軍の趣旨、募集要項と、それから三項目が付け加えられた。
全身黒の覆面装束を用意すること。
他言無用であること。
読んだ檄文は火にくべて、一片たりとも残さず焼き捨てること。
「ほんとにこんなんで人が集まるのか?」
自身で檄文を考案しながらも、子堅は半信半疑だった。こんな馬鹿馬鹿しい考えに賛同するバカ者など、自分の他にいるのだろうか。
果たしてチラシの効果たるや。
結果、亮州の男はバカばかりだった。
「おぉ……!」
「こいつぁ壮観だな!」
チラシを配った翌日。目の前の光景に、巽は大満足、子堅は仰天の面持ちで臨んでいる。
ここは亮州城外、街や村からほど離れた廃寺の境内。檄文の賛同者の集合場所に指定した地点だ。
境内には黒ずくめがうじゃうじゃうごめいていた。ざっと数えただけでも五十人ほど。遠目から見ると虫みたいで気持ち悪い。
「はっはっはー! やはりスケベの力は偉大なり! 同じ志を持つ者たちがこんなにもいるとはっ!」
「うわぁ……我が亮州にこんなにもバカがはびこっていたとは……!」
境内にたむろしている約五十人は、一様に全身黒の覆面装束を着用している。スケベ忍軍参加の条件なのだが、まるで巽が大量に増殖したかのようだ。
さて、童貞軍の正面、寺の伽藍の前に立つ首謀者二人だが、巽はともかく、子堅まで黒い覆面装束に身を包んでいる。
お陰で誰が誰やらまったく分からない。かろうじて立ち位置により、せいぜい巽と子堅が事の首謀者であると判別できるくらいだ。
「よく集まった、童貞諸君!」
おもむろに巽は声を張り上げる。黒ずくめ達、突然の大音声にざわめきを鎮め、巽の方を見た。
そしてニンジャ、威風堂々ぶち上げる演説。
「諸君、俺は女体が好きだ! 大好きだ!」
変態、続ける。
「俺はおっぱいが好きだ! おっきいおっぱいが好きだ、ちっさいおっぱいも好きだ、もちろん普通のおっぱいも分け隔てなく好きだ!」
荒野にぽつねんと建つ崩れかけた廃寺に響く、阿呆の極みの主義主張。
「そしておしりも大好きだ。くびれ! ヘソ! うなじ! ふとももにふくらはぎに二の腕に! とにかく俺は女体のすべてが大好きだ!」
しん、と静けさが広がる。
誰も口を開かない。しかし呆れているのではない。黙し、直立する童貞の軍は、首魁たるニンジャの魂の叫びに、沈黙をもって同意しているのだ。
「そう、俺は女体が好きだ。だが、さる事情により触れることは叶わない。女体に触れたことはこの生涯、一度たりともないのだ。ゆえに童貞。諸君らもそうだろう、この中に女人の素肌に触れた者はいるか! なお親きょうだいは除く!」
巽の問いかけに、やはり沈黙が返ってくる。しかし境内の黒ずくめ達の覆面の内は、一様に悔しげな表情。
そして手を挙げる者は誰もいない。
「諸君、なにも恥じることはない」
巽は静かに、しかし熱のこもった口調で続けた。
「むしろ誇るべきだ! 諸君らは確かに、これまでの半生の中で女性に選ばれることは無かったかもしれない。だが、それも昨日までの話」
ニンジャは群衆へ指を突き付けた。そして語りかける声は朗々と。
「諸君! 諸君らは選ばれた! そう、このスケベ忍軍に! いいか、女体に焦がれるだけの日々はもう終わりだ。これより以後は忍術の習得に励み、持てる知力体力技術の数々をハレンチ行為へ活かすべきなのである!」
聴衆はじっと目前の首魁へ視線を注いでいる。その眼差しを、熱く熱くほとばしらせながら。眼を血走らせながら。
「想像したまえ。地を駆け影に忍び、懐からは暗器を放ち。街中の女の子を地の果てまで追っかけ、物陰からは着替えを覗き、ひとたび手裏剣を放てば路上だろうが衆目の中だろうが女人の服を裂き、いつでもどこでもはだか見放題! そう、諸君らは選ばれた! 世に思うさま跳梁し、ハレンチを跋扈させるために! 誇りたまえ、諸君らこそハレンチの尖兵なり!」
「…………!!」
空気が変わった。
一同の目つきが変わった。
中には感極まって涙を流す者もいた。琴線が股間にでもついているのだろうか。
「なんだこれ」
趣旨に賛同したくせに、子堅はひとり呆れている。しかしそんな相方に構わずハレンチスケベの伝道師、拳を天へ振り上げ声を張る。
「さあ問おう! 諸君らは何がしたい! 忍術を極め、何がしたい!」
巽の問いに童貞軍、声を揃えて三唱。
「ハレンチ! ハレンチ! ハレンチ!」
「よろしい、ならばハレンチだ!」
いまここに、黒ずくめの変態共は一体となった。
童貞の軍勢は、スケベ忍軍となったのだ。
「いいか諸君。我らスケベ忍軍、総員一身これ胆となし、女体という女体をくまなくあまねく蹂躙し! 時に奔り時に隠れ時に脱がし時に眼福! さあ! この世をば我が世とぞ思え、望月の欠けたることなきが如く!」
「うおおおおおお!!」
野太い歓声が上がる。ある者は歓喜、ある者は狂喜、またある者はなんとなくのノリ。ともかくスケベ忍軍これにて結成。
「ほんとなんだこれ」
歓声にかき消される子堅のつぶやき。
歓声の収束を待ってから、巽は付け加える。
「だがしかし、いまから言う注意事項を諸君、よくよく守ってほしい! すなわち! 女性にはお触り厳禁! もちろん乱暴狼藉は法度である! いわんや子作り行為に及ぶなどもってのほか、そんな抜け駆け……じゃなかった、悪行は当忍軍でも禁止なのである!」
オホン、とごまかすような咳払い。
「いいか諸君。女の子の服を剥ぐならまだしもだ。犯すー、だとか凌辱ー、だとかは絶対にダメだぞ。マジ犯罪だかんな!」
そもそも服を剥ぐ時点で犯罪である。ニンジャ、論理が破綻している。
「それから、俺のことは今後、頭領と呼べ!」
「オッス! 頭領!」
かくして童貞たちの熱き日々が始まった。
スケベ忍軍構成員は、各々日中は普段通りの生活を送り、日が沈めば黒ずくめの装束で闇にまぎれ、件の廃寺に集合し。
「よーっし、忍びの道はまず、体力づくりから! 走り込みはじめっ!」
「オッス! 頭領!」
ハレンチ行為をするにも、知力体力忍びの技が要るというもの。忍軍は夜の闇の中、えいさほいさと廃寺の外周を走り込み。
「次! 忍者の基礎は跳躍力! この若木をどんどん飛び越えるのだ、我が同朋たちよっ! 俺が木氣送ってちょっとずつ成長させていくかんな!」
「オッス! 頭領!」
境内に植えた木を順番に飛び越え跳躍力を鍛え。
「いいか! これが秘伝の手裏剣術! よく狙え、的は巨乳のお姉ちゃんだと思え!」
「オォッス!! 頭領!!」
衣服を着せたわら人形を的に、伝授されるは秘伝の棒手裏剣。
頭領・巽の指導は厳しかった。人畜無害の童貞どもを、短期間で忍術使いの精鋭へ仕立て上げねばならないのだ。熱血指導は苛烈を極めた。
しかし、人には向き不向きがあるもの。
「た、大変だーっ! 頭領ーっ!」
「どうしたーっ!?」
走り込みの最中に、それは起きた。突然クソニンジャへ駆け寄ってきた忍軍の一員は、焦った様子で報告する。
「と、頭領のツレが……!」
「ツレ?」
なんのこっちゃと、彼に案内されるままそちらへ向かった巽。
廃寺の外周、路傍でうずくまり、なにやら小刻みに震えている黒ずくめは誰あろう、崔子堅で。
一部始終を見ていた、報告者の黒ずくめが言うに。
「聞いてくれ頭領! この御仁、走ってるだけで肩の関節を脱臼しちまったんでさぁ!」
「どゆこと?」
「ぐ、ぐおぉ……肩が……肩が……」
子堅、このあと巽の骨接ぎ術により事なきを得る。
などと落伍者を一名排出しながらも、スケベ忍軍は修行に明け暮れて。
「おーいみんなー。ここんとこ暑いからな、水分補給と塩分補給、ちゃんとしろよ。ほれ、水とおにぎり」
「オッス、頭領……!」
時に休息し。
「なあなあ。お前らはさ、どういう子が好みなの?」
「お、おっす……頭領……」
時に恋バナに興じ。
「おーい、みんなで渾名付けあおうぜー。お前農家の五男なんだっけ? じゃあ五男坊な!」
「オッス! 頭領!」
時に友情を育み。
「あ、そうだ! おい色白モヤシ! お前さんにも渾名をつけてしんぜよう!」
「その色白モヤシとかいうのが既に渾名だろ! どうせ付けるんなら、孔明とか子房とか、知的なやつにしろ!」
「分かった、関節大納言!」
「しね!」
時にはケンカもちょっとだけ。
かくてスケベ忍軍、数日にわたる友情、努力の末……。
「さあ、時は来たれり!」
「オッス!! 頭領!!」
勝利、いやハレンチに興じるため。
一同朝焼けを背に、廃寺を発つのであった。
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「ふぁ~あ……」
早朝の清流堂。いつものように顔を洗い、黄雲は醒めぬ眠気に大あくびを放っていた。
中庭に出ると、涼しく澄んでいて心地のよい朝の空気。雀の縄張り争いの声音が、チュンチュンとのどかに響いている。
いつも通りの朝だった。
黄雲は伸びをして、今日の朝食へ考えを巡らせる。といっても、菜単はいつもの通り。粥と青菜の湯に、油条を添えるだけ。
「さーて、そろそろ取り掛かるかぁ……」
黄雲は厨へ向かい、踵を返す。と、そこへ。
「ふぁ~あ……おはよう黄雲」
弟子そっくりのあくびをかましながら現れたのは、清流堂人。珍しく朝から起きている。
「どうしたんです、珍しいですね早起きなんて」
「ああ、今日は伯世殿の屋敷に新しい魔除けを施さねばならんからな」
「なるほど、それで」
師匠の言に納得し、黄雲は意識を朝食へ戻しかけるが。
ふと、思い出した。昨晩深夜、厠へ行った時のことを。
「……でも師匠、昨日は夜遅くまで起きてたんじゃありません? 部屋の明かりが灯っていましたが」
「ああ」
もう一度あくびをしてから、清流は疲れた様子で告げる。
「調べ物だよ。いま、方々から霊薬に関連ありそうな書籍を集めていてな。精読している最中なんだ」
「ええ!? 師匠まじめに調べてたんです!?」
弟子、驚愕の声。庭にいたスズメがバタバタと空へ散っていく。
そういえば最近、よく部屋にいると思っていた。てっきり飲んだくれているものだと思っていた。それがまさか。
「どうしたんですか師匠。気でも狂いましたか」
「その言葉、そっくりそのままお前へ返すぞ黄雲。お前は何か手掛かりの一つでも掴んだのかな?」
「いえ全然。金儲けに忙しいです」
「はぁ、このバカ弟子め……」
黄雲が師匠に呆れられているところへ、さらに歩み寄ってくる影が二人分。
「おはよう、清流殿に黄雲少年。良い朝だな」
「うぃーっす」
「二郎真君に那吒どの。おはようございます」
今朝から美貌麗しい、神将の二人だ。見目麗しいだけで、現状ただのごくつぶしである。
「おーい、朝飯はまだかよーっ」
「まだですよー。まずは今月分の入居費をお支払いください」
「昨日払ったわボケ! 忘れると思ってんのか、脳漿ぶちまけんぞ!」
「あーあー、朝から血の気の多いこって」
朝から元気な那吒に、黄雲は少々辟易とした表情。さてそんな少年たちをよそに、大人たち。
「清流殿、ひとつお聞きしたいことがある」
「なんでしょう?」
二郎真君の真面目な顔に、清流は眠たげに応じた。そんな彼女へ真君、続けて曰く。
「この街で一番うまい酒を商っている店を教えてほしい!!」
至極どうでもいい質問。この神将、また街を徘徊するつもりである。それはともかく。
「酒ですか。二郎殿の好みは確か──」
答えを述べようと、清流道人があごに指を添えて考え込んだ時だった。
スパン。
その一撃は、どこからともなく放たれた。空を裂くは、一本のお箸の如き棒手裏剣。軌道は清流の体側を袈裟懸けに、ちょうど腰帯を切り裂くように。
「あ」
「あ」
「ほう」
「あいやぁ」
かくて黒衣ははらりと地に落ちて。
男三人の目前へ露になる、たわわな果実。そして禁断の領域。
「…………」
静寂が訪れた。
「うわああああああ!!」
静寂を破ったのは、黄雲と那吒の悲鳴だった。
「なっなっ、なに脱いでんですかいきなりー! この痴女! クソアマ! 濁流!」
「うわーっ! うわーっ!」
弾かれるように視線を逸らし赤面し、純な反応を見せる銭ゲバと美少年、そして彼らとはうらはらに。
「で、それより清流殿。おすすめの酒屋を……」
「うーむ、そうだなぁ……辛口がお好きなら……」
「服を着ろ、服をーーっ!!」
当事者の清流と二郎神は、顔色も態度も平常そのもので。
黄雲と那吒は手のひらで目を覆いつつ。
「ばっ、やめろ! なに普段通り会話してんだ! おい兄い!」
「なんで平気なんですか二郎神ーー!!」
目前の全裸の美女に対し、二郎真君。
「悪いが女性の裸なら飽きるほど見た。いまさら騒ぐことのほどでもない」
「クッソ! これだから美丈夫ってやつぁ!」
さてさて、突然巻き起こった桃色騒動に心乱されつつも、黄雲はすでに犯人へあたりをつけていた。
推理するほどのことでもない。
「ったく! 朝からあのクソニンジャは盛りやがって!」
清流へ視線が触れないよう注意しながら、中庭の木々の上を見上げてみる。
しかし、近辺によくよく覚えのあるうわっついた木氣は漂っているが、件のクソニンジャは相当巧妙に姿を隠しているらしい。姿が見当たらない。
いや、それよりも。
(なんだ……もう一人気配がある?)
辺りには巽のものだけでなく、弱々しいがもう一人分の氣が感じられる。
通行人なんかじゃない。巽の氣と同じく、こちら側、清流の方を伺っているような気配だ。なんだか覚えがあるような、ないような。
しかし、彼らが何か仕掛けてくるような兆候はなく。巽たちの気配はひとしきり清流の裸体を堪能した後、ふっとその場からいなくなった。
そんな氣の動きに注意を配っていたのは、なにも黄雲だけではない。
「……やれやれ、巽の仕業か」
素っ裸のまま、清流が呆れたように髪をかき上げる。彼女、羞恥心が薄い質で、突然脱がされたことについて特段気にするような素振りはない。
「あのクソニンジャ、もう一人連れてやがったな」
「友達でもできたのか、あいつ?」
友達。黄雲の推測は当たらずとも遠からず。
彼らには知る由もない。清流の裸体が、スケベ忍軍早期加入特典であったことなど。そしてもう一人のツレが、崔家の自称・秀才長男であったことなど。
「というか、あいつが女人へ狼藉を働いたのに、雷が落ちていませんが。二郎殿」
「うむ、そうだな」
「いや、そうだなじゃなくて。職務怠慢じゃないですか?」
「そう言うな少年。天網恢恢、疎にして漏らしたまでのこと」
「いや漏らさないでくださいよ……年寄りの小便じゃないんだから……」
さて、そんな現場へ駆けつける足音が一人分。
「どうしたのみなさん! なんだかすっごい叫び声が聴こえてきたけれどっ!」
「あ、お嬢さん」
そして一足遅れて駆け付けたのは、狼牙棍を構えた雪蓮で。
中庭に出るなり、箱入り娘の視界へ飛び込んだもの。
全裸の清流道人。
「き……」
きゃああああああ!!
雪蓮の叫び声、朝の空へ高らかに。
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「おいおいおい! 上出来じゃねえか! 棒手裏剣!」
「へ、へへ……」
清流堂から逆方向へ、走る走る黒ずくめ二人。
ともに走りながら、巽は隣の子堅を誉めそやしていた。
先ほどの清流道人すっぱ事件。下手人は他の誰でもない、このムッツリ書生。
子堅は変わった。スケベ忍軍に入ってから。
走るだけで、重いものを持つだけで脱臼していた体質は少し改善され。
他の者に比べて体力膂力は格段に劣るものの、棒手裏剣の腕前には光る物があった。
「なんだろう……私は思うのだ。こう、狙いを定める系統の武芸なら、他のものに比べてとっつきやすいんだ! お陰で清流殿の裸形が拝めた! 一生の思い出だ……!」
「そうか……良かったな、関節大納言!」
「その呼び名やめろ」
早朝、誰もいない路地裏を抜ければ。
「頭領、お待ちしておりました!」
「おう、全員そろったようだな!」
日当たりの悪い、ちょっとした空き地。そこへ詰め込まれるようにごった返している、黒ずくめ総勢五十人。
スケベ忍軍、今か今かと始動の時を待ちわびている。
「待たせたな、諸君!」
巽はご近所の迷惑にならぬ程度、声を張り上げた。
「行こう。スケベ忍軍、いざ進撃開始だっ!!」
藤原道長「解せぬ」
少佐「戦争」




