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4 地下室

 神将のお陰で、二度目の踏破はあまりにもあっけないものとなった。

 二郎真君、指一本で襲い来る岩玉を粉砕し。飛んだり跳ねたり、あんなこといいなできたらいいなを不思議な神通力で叶えてみせて、傾く通路だの奈落を挟んだ道だのをあっという間に楽々突破。

 昨日は心底苦労した黄雲、複雑な心境である。

 そんなこんなで三人は瓦礫の前に立っている。目の前にバラバラと散らばっているのは、陶器でできた人形の残骸だ。昨日、黄雲と雪蓮が連携して倒した、傀儡軍団のなれの果て。

 

「ふむ、これは……」


 数ある仕掛けの中でも、この元陶製兵士にひときわ興味を引かれたらしい二郎真君。しゃがみ込んで破片を一つ手に取り、ためつすがめつ観察し始める。


「何か分かりますか? 二郎殿」

「ふーむ……」


 術の痕跡でも探っているのか、二郎真君がうむむと唸っていると。

 

「二郎殿、黄雲! 何やら気配が……!」


 清流道人が、にわかに緊張に満ちた声を上げる。その視線の先から。

 

「………………」


 現れる一体の傀儡兵士。古臭い甲冑を纏った、陶器の人形だ。

 

「んなっ! 生き残りか!」


 思わず黄雲と清流は身構えた。傀儡は白刃の大刀を振り上げて、戦意に満ちた素振りでこちらへ近づいてくるが。

 

「おっとどれどれ」


 二郎真君、二人を追い抜かし、つかつかと鷹揚に歩み寄り。

 

「ふむふむ」


 振り下ろされる白刃を素手で受け止め()つ、無傷で。二郎真君はまじまじと傀儡を観察し始めた。

 しばしそうして傀儡を上から下まで眺めていたが。

 

「なるほど」


 詳細を把握したのか、真君は傀儡の額に指を当て。何かしら氣を籠めると、傀儡は動きを止める。大刀を持っていた腕がだらんと垂れ下がり、陶製の兵士は立ったまま全ての機能を停止した。

 

「……なにか、分かりました?」


 事が終わったのを確認して、黄雲が問えば、二郎神。

 

「防衛機構だな、彼らは。先ほどまでの仕掛けもそうだが……」

「防衛機構?」

「うむ。この遺跡に侵入した異物を、排除するための」

「異物……」


 言うまでもなく、いまこうしてここにいる、黄雲たちのことだ。ここの主は認識阻害の術を仕掛けてまで、この遺跡に誰かが入ってくることを拒んでいた。しかし。

 

「だが、防衛機構には例外が設定されている。特定の氣の波長を持つ者は排除の対象外となるようだ」

「特定の氣の波長……」

「すなわち、霊薬(エリキサ)


 二郎真君の言葉に、黄雲と清流の喉は揃ってゴクリと固唾を飲み下す。

 そういえば、と黄雲は思い出す。昨日、傀儡の兵士達は黄雲にばかり襲い掛かり、雪蓮には目もくれなかった。

 しかし、いま考えてみれば合点がいく。この遺跡は雪蓮の氣に応じて認識阻害の術を解き、初めてこの世界に姿を現した。

 やはり待っていたのだ、遺跡(ここ)は。霊薬(エリキサ)の到来を。

 

「ちなみに、いまこの傀儡(かれ)は完全に機能を停止したわけではない。術式の経路を遮って、一時的に動かないようにしているのだが……」


 言いつつ、二郎真君がすぅっと息を吸う。すると彼の纏う氣の質が変容する。氷室に置かれた、霊剣のような冷たさの氣質に。

 真君が真似たのは、雪蓮の氣の(かたち)だ。

 

「清流殿、黄雲少年。なるべく自身の氣を抑えつつ、少し離れて頂きたい」

「え、ええ……」


 二人が防衛術式の感知圏外へ出たのを確認して、二郎神は傀儡の額から指を離す。術式が再び稼働し、そうしてまた動き始めた傀儡は。

 

「んなっ……!」


 三人の見ている前で、膝を折り。雪蓮と同質の氣を纏う二郎真君へ、うやうやしく跪いた。まるで主へ拝礼するかのように。


「ご覧の通りだ。この傀儡は……遺跡は。やはり霊薬(エリキサ)のために造られたものに間違いはない」

霊薬(エリキサ)……」


 遺跡を進むごとに、二郎真君の解析を経るごとに。霊薬(エリキサ)との関わりを、この空間はよりはっきりと示して見せる。

 ふと、黄雲は思い出した。この月亮島にまつわる伝承を。

 

「そういえば、この島は確か、嫦娥(じょうが)の生まれ故郷として伝わっているんですっけ」


 黄雲が突然月の女神を話題に挙げたのは、特段とっぴな思い付きというわけではない。なにしろ嫦娥の伝承には。

 

「なにか関係あるんでしょうか。嫦娥の伝説にある、不死の霊薬との関わりは」


 彼の言う通り、不老不死の霊薬なる存在が伝えられている。

 黄雲、いままでは嫦娥が盗んだ不死薬なんて、単なるおとぎ話の構成要素だと思っていた。しかし、状況が状況だ。こうなってくると、おとぎ話の不死薬と雪蓮に宿った霊薬(エリキサ)との間に、何かしらの関連性を見出さずにはいられない。

 少年の言葉に、二郎神も清流も「ふむ」と思案の声を漏らす。


「なるほど、良い着眼点だとは思う」

「そりゃ光栄。で、どうなんです二郎殿。嫦娥について、なにかご存知のことは?」


 黄雲の問いかけに、二郎真君は(かぶり)を振った。

 

「それがな。嫦娥という神格は確かに存在するのだが、私は会ったことがない」

「会ったことがない?」

「うむ。私なぞよりも遥かに古い神だ。月へ昇って以降ずっと月宮にお籠りになられ、姿を現すことは一切ないと聞く」


 また彼女に関することも、おおよそ下界に伝わっている内容とほぼ同様のものしか知らない。そう二郎神は言い添える。

 

「つまり、二郎殿はかの女神に関して、僕らとほぼ同程度の知識しかお持ちではないと」

「……概ね、その通りだ。彼女の仔細を知る者があるとするならば、玉皇大帝や嫦娥と同世代の神仙、もしくは……」


 真君はしゃがみ込み、手を差し伸べ。今度こそ本当に傀儡の機能を停止させ。

 少しだけ師弟を振り返りつつ、静かな、低い声で告げた。

 

「……鴻鈞道人(こうきんどうじん)


 その名に、黄雲も清流も黙り込む。霊薬(エリキサ)を巡り暗躍する謎の天仙。夏の過日、都の王宮で玄智真人(げんちしんじん)の密偵が目撃したのを最後に、彼は消息を絶っている。

 黄雲はかの金髪碧眼の、胡散臭い美男の顔を思い出す。いついかなる時も優しげな微笑を湛えたあの男は、いまどこで、何をしているのだろう。

 実はやはり、昨日会った老爺に身をやつしていたのか。この遺跡との関わりは。

 この地に伝えられる嫦娥(じょうが)娘娘(にゃんにゃん)とは、何かしら関連があるのだろうか。

 そして。

 

「鴻鈞道人は、霊薬(エリキサ)をお嬢さんに宿らせて、一体何を企んでいるのでしょう……?」

「それが分かれば苦労はない」


 黄雲の疑問をさらりと流し、二郎真君は通路の先を見据える。

 

「ともかく。この遺跡はやはり、霊薬(エリキサ)を迎え入れるためのものだ。そしてこの施設の目的は、最奥に安置された龍吟なる宝剣と接触させること」


 すっくと立ちあがり、二郎神は黄雲を見る。

 

「昨晩、きみが雪蓮殿とかの宝剣との接触を阻んだことは、正しい判断だったと思う」

「そうでしょうか……なんとなしに、嫌な感じがしただけなんですが……」

「そういう勘は往々にして当たる。道士とは、この天地を成り立たせる(ちから)に一際敏感な者だ。そういう存在であるきみが良くない予感を覚えたということは、すなわちそういうことだ」


 ともかくとして。

 

「雪蓮殿に宿った霊薬(エリキサ)を巡るこの顛末。やはり、最奥に秘蔵された宝剣が鍵を握っていることは、まず間違いないようだ」


 つぶやきつつ、二郎真君はひれ伏したままの傀儡の脇を通り、瓦礫を踏み越え先へ進む。

 

「行こう、お二方。龍吟のもとへ」


----------------------------------------


「よっと!」


 黄雲の部屋。長持ちの下にあった地下室へ、巽はひらりと降り立った。その後に、雪蓮も同様にして着地する。身体能力に優れたニンジャと武芸娘、これくらいわけはない。

 さて、地下空間は真っ暗で、視界は不明瞭だ。雪蓮は頭上の入り口の穴から入り込む光を頼りに、じっと室内へ目を凝らして見る。

 令嬢が目を細めている前で、巽はさっさと歩き始めた。忍びたる者、暗い場所には慣れっこだ。

 とはいえ、巽は懐から携帯用の蝋燭立てを取り出して、照明の用意をする。彼自身は照明を必要としなくとも、雪蓮にとっては周囲は暗闇。ニンジャからのちょっとした気遣いだ。

 

「ほれ、見えるかせっちゃん?」

「まあっ! ありがとう、巽さん」


 ほわりと橙色の灯りが部屋を映し出す。むき出しの土に上下左右前後を囲まれた空間が露わになった。さっそく雪蓮は好奇心に任せて、周囲をきょろきょろ見回し始める。

 

「わあ……これは……!」

「めっちゃ貯めこんでやがんな!」


 部屋の概況に、二人は思わず感嘆の声。

 地下室の壁にはあちこち棚が設けられ、みっしりと壺やら何やらが詰め込まれている。近寄って壺の封を開けてみれば、案の定ぎっしりどっさりの銭、銭、銭。

 しかもただ無造作に壺の中へ詰め込まれているだけではなく、およそ百枚ごとに銭通しに通してまとめるという几帳面ぶり。黄雲の隠し財産であること、まず間違いない。

 試しに他にも二つ三つ壺を開けてみたが、同じくとんでもない量の銭である。うなるほどの銭である。

 少なく見積もっても、亮州郊外に庭付き一戸建てが買えるほど。

 予想以上の埋蔵量に、巽。

 

「こりゃほんとのほんとに埋蔵金だな……! うひょー! こりゃしばらく遊んで暮らせるぜ!」


 などと欣喜雀躍の狂喜乱舞。やったぜ裸見放題! とニンジャは浮かれているが。

 

「だ、だめよ巽さん!」


 そうは箱入り娘がおろさない。

 雪蓮は巽と壺との間にしゅたっと割り込んで、むむ! と眉間にしわを寄せる。

 

「このお金は、黄雲くんが頑張って貯めたものでしょう! やっぱりよくないわ! 人のものを勝手に盗るだなんて!」

「でもせっちゃんもノリノリだったっしょ?」

「わっ! 私は! お金は取らないから! ちょっと覗き見するだけだから!」

「ハイハイ」


 少女の言い訳に肩を竦めて見せつつ、巽は思案する。

 正直、銭は少々拝借したい。返す予定もつもりもないが、とりあえず拝借したい。盗んだ銭で女の裸が見たくてたまらない。目的を果たすためには、この良識人気取りは少々邪魔だ。

 しかしながらクソニンジャ、この単純明快お気楽娘の気を逸らすことなんて朝飯前。

 

「あ、これじゃね? クソ野郎の出納帳」

「ほんと!?」


 巽が隣の棚を示しながら放った一言に、雪蓮、やにわに食いついた。少女の視線が棚に置かれた書物へ移ったのをこれ幸い、クソニンジャは壺から銭を鷲掴みにして音もなくさりげなく、さっさかちゃっちゃか懐へ着服。

 

「わあ……たくさんあるのね」


 そんなクソニンジャに気付くこともなく。雪蓮は好奇の眼差しで棚を見上げていた。

 壺の隣の棚には、おそらく数年分と思われる出納記録の紙束が、これまた几帳面にピッチリ綴られて、何冊にも分けて保管されている。

 おそらく一番最近のものと思われる一冊を取り出して、雪蓮はそっと紙面をめくってみた。

 銭の収支だけでなく、何かしら、日常の記録が残っていたならば。

 

(私のこと、書かれていないかしら……?)


 乙女はドキドキと、期待に胸を高鳴らせつつ書を開く。金目の物を無音で物色している背後の巽へは、一切注意を払うことなく。

 開いた文面は、ふた月前のある日の記録だった。文字は確かに黄雲の筆跡。

 細々(こまごま)とした銭のやり取りの記録の余白に、覚え書きのような書き込みを見つけたとき。少女はえも言われぬ高揚を覚えたのだが。

 

『本日快晴、売上好調。特記事項なし。お嬢さんが遊びに行きたいとうるさい』

「うるさい……」


 自身のことが書かれていたのに、嬉しくない雪蓮である。

 めくってまた次の日。

 

『天気晴朗なれども護符売れず。ただでさえ気が滅入っているのにお嬢さんがうるさい』

「またうるさい……」


 また次の日。

 

『雨。師匠の晴れ乞いの祈祷を手伝ったらそこそこの駄賃を貰った。懐は潤ったけれどお嬢さんがうるさい』

「定型句かしら?」


 常日頃からそんなにうるさくしているだろうかと雪蓮、少々自省の念に駆られるような、なんとなく虚しいような。

 また別の日は。

 

『大儲け! またしても財が増えてしまう嬉しさよ! それはそうと小吃(しゃおちー)小吃(しゃおちー)ってほんっとうるさいなお嬢さんは!』

「…………」


 などと、ほぼ毎日「うるさい」の連続である。

 

「ようせっちゃん。何か収穫あったかい?」


 物盗りに飽きて後ろから覗き込んできた巽に、雪蓮、口をつぐんだまま首を横に振る。

 そしてバシン! と乱暴に出納帳の紙面を閉じ、少女はぷりぷりと怒り始めた。

 

「もうっ! 黄雲くんったら! 私のこと毎日毎日、うるさいって!」

「ふーん?」


 ご機嫌ななめの令嬢が放り出した出納帳を手に取り、巽はパラパラめくってみる。

 さらさらと文面を走り読みして、巽は一言。

 

「でもさ。これ、銭のこと以外はせっちゃんのことばっかりだよ? 書いてあるの」

「!?」


 クソニンジャの一言に、ご機嫌鋭角だった夢見がち娘、目からうろこ。

 

「い、言われてみればそうね!」

「だろ? この日なんか俺が庭にすけべな形の木を生やしまくってたのに、せっちゃんのことしか書いてねえ」

「ほんとだわっ!!」


 雪蓮、にわかに元気になる。

 

「黄雲くん……」


 そして夢見がちは怒り顔から一転、乙女の表情。

 そんな彼女から視線を外し、「それはそうと」と巽は三白眼を細めた。

 

「なあせっちゃん。上の黄雲の部屋、着替えが無かったじゃん?」

「そういえばそうだったわね」

「いまさ、色々調べてたらあったんだわ。着替え」


 言いつつ巽は、部屋の隅にあったつづらを手繰り寄せ、開いて見せる。

 中には、折りたたまれた衣類。雪蓮の見覚えのある寝間着も入っている。

 

「ほら、これ下着ー」

「きゃあっ!」


 何はともあれ、どういうわけか黄雲、地下室に着替えを保管しているということで。

 

「どういうことかしら。黄雲くんは、毎日この地下室で着替えているということ?」

「……って、考えた方が自然だよな」


 頷きながら、巽の三白眼は着替えのつづらがあった付近を見遣る。大きなたらいに手桶、おそらくは湯浴みに使っているようだが。壁際にはわざわざ、排水用の溝と(あな)まで設えてある。おそらくは清流堂北側の水路へ排水しているのだろう。

 

「うーむ、寝起きは上の部屋でしているようだが、着替えと湯浴みは地下室ってことか……。ったく、誰も野郎の着替えなんざ見やしねえってのに」

「ふしぎねえ……」


 守銭奴の謎の生態に、二人はしばし首を捻るが。


「しかし……どうりであいつが着替えてるところ、見たことねえわけだ。湯浴みまで隠れてしてやがるとは……」

「えっ?」


 巽の不意の一言に、雪蓮は目を(しばたた)かせる。

 なんとなく、このニンジャが黄雲の着替えだの湯浴みだのを気にしている雰囲気に、令嬢の眼差しは怪訝の色を帯びる。


「巽さん……?」

「あ、あー、えーと」


 どうやら巽にとっても、不用意な発言だったらしい。ごまかすようにコホンと咳払い。「それはこっちの話」と横に置く仕草をしてクソニンジャ、無理矢理話題を転換、威勢を取り戻す。


「っつーかさ! やっぱ一番解せねえのはアレだよ! 俺いま結構頑張って探してるのにさ!」

「アレ?」

 

 雪蓮、巽の勢いに思わず、興味の矛先をアレなるものへ向けさせられる。


「どこにもねえんだわ! 『房中術』の書物がさあ!」

「ぼーちゅーじゅつ!」


 少女は思い出した。この隠し財産大捜索の動機となった、秘密の健康法だ。

 男女一組で、同室で。健康に良い体操をして絆を深める神秘の養生法。

 そうだ。元々の目的は、この秘術にまつわる書物を見つけ出すこと。そして書物を手に上目遣いで「これ、やってみたいの!」と懇願し、あわよくばより一層親密に。

 雪蓮の願う親密さと房中術のもたらす親密さとの間には、十万億土の隔たりがあるが。

 

「そうだわ! ぼーちゅーじゅつよ!」


 世間知らずは爛々と目を輝かせる。房中術の真の意味など知る由もなく。

 そんな彼女へクソニンジャ。

 

「ひとまず、いま目に見える範囲にはそれらしき書物は無いようだ。となると、もしかするとさらに隠し空間を作ってる可能性があるな」


 ギラリと光る三白眼。そして巽が語るのは、故郷・八洲(やしま)、忍びの里のことだ。

 

「俺たち忍びは、大事なものを隠したり、敵から身を守ったりするのに住居に仕掛けを作るのさ。隠し扉や、隠し戸棚」


 つまり、それに類するものがこの地下室にもあるのではないか。憶測を立て巽、雪蓮にも捜索の助力を乞う。

 

「いちお念のためさ、せっちゃんも探してくれないか? あいつのことだ、本当に大事なものはもっと警戒して隠していそうな気がする」

「ええ、怪しいところを探すのね!」

「頼むぜ。俺も房中術知りたい。後学のために」


 果たしてその後学、使う機会はあるのやら。

 ともかくとして、ニンジャと箱入り娘の大捜索は終わらない。

 巽は覆面を地面へこすりつけつつ床面を見、怪しい凹凸が無いかをつぶさに観察し。

 雪蓮は棚のものをどかしつつ、その奥の壁に何か隠されていないかを注意深く見極めている。

 やがて。

 

「こ、これは……!」


 重たい銭の壺をずらした時。雪蓮は思わず声を上げた。


「どうした、せっちゃん!」

「巽さん、これ……!」


 少女の示した先には。壁に忽然と開いている穴。その中にひっそりと置かれている、木製の文箱(ふばこ)

 

「これは……!」


 いかにも書物が入っていそうな雰囲気に。

 雪蓮と巽は、目を見合わせる。

 ゴクリ。

 二人分の固唾を飲む音が、地下室へ響いた。

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