望まれなかった王太子
アラベスクです。
暇潰し程度にどうぞ
それはとある夏の日のことだった。
太陽の日差しが地を差し、コンクリートの地面が熱を持った暑い日だったのを覚えている。
その日は営業の仕事で人混みに揉まれながら外に出ていた俺は、一人の少女を救い、トラックに跳ねられた。
骨が砕ける音と女性の叫び声を聞き、女性が無事だったという安心ともう死ぬんだという残念さを感じながらゆっくりと意識を失った。
享年25歳。実にあっけない最期だった。
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どうやら俺は転生したらしい。生まれ育ってから数年が経ち空を見ながらふとそう思った。
赤ちゃん時代はまともに脳が働いておらず転生したという事実を理解することが出来なかったみたいで今初めてそう思った。
それと同時にここは何処だと、俺は誰だと疑問に思った。
いや、此処が何処で自分が何者なのかはわかっている。
此処はリフェーズ王国という所で俺はこの国の第3王子であるエドワード・リフェーズだ。
しかしそういうことじゃない、俺の記憶が確かなら地球の歴史上にリフェーズ王国なんて国は存在しないし、エドワード・リフェーズなんて男も存在しない。
しかも何故か俺が死んだ時よりも文化レベルがかなり下がっているのだ。これはもしかして
「異世界転生ってやつか?」
思わずそう呟く。
ネット小説などにはよくあるものだが、まさか自分が体験することになるとは。あくまでも異世界っていうのは、可能性ちゃあ可能性なんだがほぼ間違いないだろうと思ってる。
なぜならこの世界には地球じゃありえない魔法というものが存在し、他にもモンスターや魔族といった者も存在するからだ。
これで実は昔の地球なんです、なんて言われたら今までの人生ってなんだったんだろうと思うこと間違いないだろう。
そんな前の世界よりも命の危険が多いこの世界だが、それ以上に俺にとってマズいことを思い出す。
............一言で言うならば俺が王様になりそうなのだ。
第3王子なのに?と思うだろうが俺は第3王子でありながら王位継承権が第1位なのだ。
これにはいくつか理由がある。
まず始めに俺の母親、現正妃は元々平民の出だったのだが、父親............現国王が若かりし頃に彼女を見初め、王位を継いだ途端国王としての権力をフルに使い正妃にしたのだ。
当時婚約者だった、リユース公爵家の女性を第1側妃に降格させてまで。
当然リユース公爵家は怒り狂い、国が二分する事態になりかけた。それにともない、物価がかなり上昇し経済が破綻仕掛けた。もし本当に内戦が起きた場合この程度ではすまなかっただろう。が、そんな事態にならずに済んだのは裏切られた筈の公爵令嬢自身がリユース公爵家を抑え出たことに他ならない。
ホント彼女がそうしてくれなかったら国は崩壊し俺は生まれることもなかったのだというのだから感謝の念しかない。
しかし、ウチのバカ両親は国が二分仕掛けたことも第1側妃がそれを抑えたことにも気付いていなかったらしく後宮でイチャコラしてたらしい。ホントバカ両親め!!!
おっと、話がズレた。
とまぁ、結局何が言いたいかと言うと、俺は国を崩壊させかけた両親の息子で、本来なら王太子になる筈だった者から無理矢理その位置を奪った悪魔のような子供ということになっているのだ。
それを理解した時思わずうへぇ、となったのは仕方ないだろう。
確かに本来の王太子、現第1王子ーーアルフリード・リフェーズは俺の二つ上で、学問や剣、魔法とありとあらゆる面で優秀な人物でしかも性格も良いという完璧超人間。
それに比べ俺は学問はともかく魔法が使えず、剣の才能も全くない。ホント泣きそうになる。
そんな俺だからか城で働く使用人にも
「ほら、あの子よ」「あぁ、あれか。ホント顔だけはいいな」「なんであんな子が」「第1王子の方がずっと優れていて相応しいのに」「しっ、聞こえるぞ。あれはあの両親の子供だぞ、聞かれたら何をわからないぞ。」
と、陰口を叩きまくる始末である。極め付けに
「セリア・リユースです。どうぞよろしくお願い致しますわ」
この婚約者である。この少女どう見ても俺のことが嫌いである。話し掛けたら適当に逸らして逃げ、視界に入るとそっと視界から外れるように動く。
そもそもリユースって、第1側妃のリユース公爵家のことである。
絶対これを提案した奴はバカだろう、第1側妃を不当に貶めた彼等の象徴とも言える俺と婚約させるとか何考えてるの?
もはや、ただの嫌がらせである。彼女に対しても俺に対しても。
ここまで言えば分かるだろうが俺は誰にも王位を望まれてないのだ。
周りは敵だらけで味方は存在せず、婚約者にも嫌われている。しかもこの原因の殆どは親のせいときた。
ホントやってられない。
だから決めた。
もともと俺自身王になりたいとも思わないし、どちらかと言うと平民として過ごしたい質だ。だから現国王をなるべく早く退位させて、アルフリード兄上を王に据えさせよう。
俺自身は適当な理由をつけて王位継承権を放棄して市井に降り平民として生きればいい。
多分これが最も平穏で一番良い方法だろう。
目指せ平民!待ってろ自由な生活。
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どうしてこうなった。思わず膝つきそうになる。
あれから十数年間、二十歳になった俺は現在国の玉座に座っていた。そう、玉座にである。
つまり、まぁ、なんというか俺は王になった。
ハァアアアア!?と思っただろうが俺が一番そう思っている。
あれから俺は、国王を廃するより前に国が崩れてもらったら困ると思い、幾つかの現代知識を使い経済を立て直し、国を腐敗させる一部の貴族を証拠を揃え叩き潰し、優秀な人材を手に入れるために貴族とは別のタダで入れる平民の学校を作ったりした。
そして大まかな問題が全て片付たのが二年前、十八になる頃だった。ちょうど良いと思い学園を卒業すると同時に俺は現国王を廃し、王位継承権を放棄した。
これでようやく平民に降れると思い満足していると、何故か周りの人達に慌てながら止められ王太子を止めることが出来なかった。
彼等曰く
「貴方以外が王になるなんてあり得ない」らしい。
「アルフリード兄上がいるだろう」と言うと
「そのアルフリード様も他の王族の方々も貴方以外あり得ないとお告げになったのです」と、返してきた。
訳がわからなくて首を傾げていると、この十数年ですっかり美しくなったセリアが目の前に立つ。
「今までのエドワード様の功績を誰もがお認めになっているのです。前国王によって崩壊仕掛けた経済を立て直し、さらに腐敗した貴族を粛清し、今まで埋もれていた者達を救い上げました。その結果下を向いていた平民は上を向き、自身に自信がなかった貴族は己に誇りを持つようになりました。私自身、狭い視野を捨て、広い視野で持つようになりました。これも全てエドワード様のお陰です」
ですので、自信をお持ちください、そう告げるセリア。
「いや、だが、しかし」
思わずどもりそうになりながらと否定の声を出そうとする。そんな俺をわかっているのかセリアは俺を抱き締める。
「エドワード様、どうか我等の王になってください。ここにいる誰もが、否、この国の誰もがそれを望んでおります。」
セリアのその言葉に反応するように周りの人々が声を揃え、俺の名を呼ぶ。それを呆然と見ながらセリアに問いかける
「なぁ、セリア」
「はい」
「俺は王になってもいいのか?」
「はい」
「俺はこの国を崩しかけた原因の息子だ」
「それを救ったのも貴方です」
「俺は魔法が使えない」
「些細なことです」
「俺は剣が使えない」
「些細なことです」
「俺は出来損ないの王族だぞ」
「それでも貴方はこの国を救いました」
パッと顔を上げセリアを見る。
「貴方は魔法が使えません」
「貴方は剣が使えません」
「貴方は出来損ないかもしれません」
「それでも貴方はこの国をお救いになりました」
「エドワード様、もっと自信を持ってくださいませ」
「今この国があるのは」
「今この国が豊かなのは」
「全て貴方のお陰です」
「貴方以上に王に相応しい者などおりません」
「エドワード様貴方は私達に必要なお方なんです」
セリアの言葉が脳に染み渡ると同時に頬に一筋の雫が伝う。
必要、そう言って貰えたのは初めてだった。前世でも今世でも俺は今まで一度も必要とされたことはなかった。
「なぁ、セリア」
「はい」
「俺はここに居てもいいのか?」
「もちろんです、我等の王」
この日俺は自分の居場所を手に入れた。
二年前のことを思い返した俺は顔を上げる。
そうだ、二年前俺は欲しくて堪らなかった自分の居場所を手に入れた。
そしてこれからは俺が国民にその居場所を作っていく番なのだ。
一人一人が必要とされる居場所を。
玉座から立ち上がり、セリアと共にバルコニーに出る。
「余はリフェーズ王国国王エドワード・リフェーズである!!」
国民の歓声が鳴り響いた。
お読みになってくださりどうもありがとうございます。
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思ったよりも異世界転移は悪いものじゃないらしい
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