掌編小説:烏の社
とある森の奥のことだ。そこには古臭い社がある。そこにはいつもたくさんのカラスが居て何かをついばんでいる。
その社の神のこと、もう誰も知らない。神の名を忘れてしまったがゆえにその社は烏の社と呼ばれていた。
いつしかそのやしろを題材としたいくつもの怪談ができた。もちろん全て作り話だ。
ある日妙に烏が啼く日があった。ハシブトガラスと言い都会で度々問題を起こす獰猛なカラスだ。ガーガーと耳障りな声で啼くのが特徴である。縄張りを犯されることを警戒して威嚇の意味を込めた啼き声を上げそれを無視したものを攻撃するのが特徴である。
さて、問題はこの先である。この社の前では度々動物の死骸が目撃されるようになったのだ。最初は明らかに致命傷を負った死体も多かったがそれは徐々に減っていった。
問題は致命傷にいたらない傷にも関わらず死んでいる死骸達だった。
人間たちはこれを怪談のたねにしてしまったのだ。
「聞いたことがあるかい?烏の社にはね、大烏という祟の神様が居るんだ。だから、気をつけたほうがいいよ。下手をすると祟り殺されるかもしれないから。」
こんなつまらない怪談がいろんなところで横行して来たのだ。
そのせいか夜な夜なその社に肝試しをしに行くという輩が増えた。当然、烏が原因のけが人が出るようになった。
それが原因で烏の社は立ち入り禁止となったのだ。
それから一月して行方不明者が出た。一週間の搜索の後にその行方不明者の遺体は烏の社の前で見つかったのだ。
以来、烏の社は二度と誰も寄らぬ無人の社となっている。今夜も社のそばではガーガーと烏たちの鳴き声がけたたましく鳴り響く。