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ブレイヴウィングス-Brave Wings-  作者: 鷹尻 光
第一章 出会い・目醒め
2/5

第一節 脆い日常

枯石零時、それが自分の名前。

物心ついた時から、何かおかしい名前だと気づいていた。苗字は元からあったものなのだし、どうしようもない。しかし、零時という名前はどうなのだ。響きが不気味であることに加えて、痛々しい。俗にいう中二病患者が自分につける名前のようで気恥ずかしい。

しかし、こう15年も生きていると、そんな違和感は嫌でも消え失せてしまう。ほら、今だって_________「…時。おい、零時!」

「…あ、悪い。考え事してた」

話しかけていたのは俺の友人、佐鉛一哉だった。妙に俺に構ってくるので、付き合いを断りきれず、なし崩し的に友人となった。正直に言うと、ソッチ系かと疑ったこともある。

「全く…昨日徹夜でもしてたのか?」俺がそんな事を考えているとも知らず、友人は続ける。

「いや、大丈夫だ。俺は睡眠時間だけはしっかりとる男だって前に言ったろ?」俺は長年の修練によって会得した渾身の作り笑いを浮かべて答える。

「あぁ、そうだったか。お前がボーっとしてるのなんて珍しいから気になってな」

こいつは少し不良っぽい外見をしているが性格は良い。だからこいつと仲良くしているととても気分がいい。もっとも、こいつだって裏ではどんなことを思っているか______

「おっと、朝のHRが始まっちまう。急ごうぜ」

「…おう」

唯一の友人を疑ってかかる俺に、一点の曇りもない目を向ける一哉が少し眩しくて、俺は少し俯いた。


教室に入ると、いつもと何も変わらず全ての席が埋まって…?

いや、いつもと変わらないのなら、全ての席が埋まっている筈はない。

なぜなら、普段は窓側の1列目、1番後ろの席に人がいないからである。

それなのに、今日はその席に人が座っている。彼女は、めったに来ない女子、金蛇マコその人であった。

窓から射し込む日光に照らされたその髪は少し赤紫色がかって輝いている。スタイルは文句なし。胸部は主張しすぎないが小さすぎないベストサイズ。あ、ちょっとベストより大きいかも。ぐへへ。

顔は、暗い表情だ。でも、個人的な予想ではあるが、きっと…

______笑ったら、可愛いんだろうな。

その姿を想像し、少しニヤッとしてしまった。

そのとき、突然彼女がこちらをちらっと見た。

(やっべ、見られたか…?)

と内心焦っていると、彼女は再び俯いた。

俯く前に一瞬見せた表情は、何故か俺に驚いているように見えた。



朝のホームルームが終わり、今は休憩時間だ。

金蛇さんが久しぶりに登校したのだ、少しぐらい話しかけた方が良いだろう。体調を聞いているところを他の女子が見ていたら、ちょっとばかり俺のイメージも上がり、俺の行動がとやかく言われる危険性も減るかもしれない。

「よう、久しぶりだね金蛇さん。4月以来だよね、体の具合はどうなの?」

俺は先程も使った作り笑いを再び顔に貼り付けて言った。

他人と話すときは大体これを使っているため、慣れたものだ。

「ま、まあ…悪くはない、です」

「?そ、そう」

前はこんなによそよそしくはなかった気がするのだが…気のせいだろうか?

そもそも、金蛇さんは頑なに俺と目を合わせようとしていないような気がする。

よく見ると、唇を嚙んでいる。

なんということだ。どうやら俺は彼女に嫌われているらしい。

戦略的撤退だ!

「じゃ、じゃあまた」

「…」

俺は逃げ帰るようにして自分の席に座った。



それにしても授業は退屈だ。この緑白高校はそこそこ学力が高い進学校で、毎回の授業には予習復習が必須である。

親に言われるがまま、なんとなく受験勉強をし、ほどほどに頑張ったら何かの間違いで受かってしまった。あとから振り返ると、いささか頑張りすぎた感が否めない。途中から変なテンションで勉強していたからだろう。

そのせいで、入学してからの成績は悪化の一途を辿り、中の上ぐらいの今の学力に落ち着いた。正直俺はこの高校に入ったことを後悔していた。

昔から面倒な事が嫌いなのだ。

だから、交友関係を広げるのも気が進まない。その結果、人生における「お助けキャラ」ポジションに先程の友人、佐鉛一哉を置き現在に至る。

ぼっちでもなんら問題は無いのだが、便利な友人一人いるとより面倒事を回避できる。

もともと友人とは互いに利用しあう関係。俺が一哉を便利だとしか思っていなくてもあいつだって俺と近いことを考えているに違いない。だからおあいこだ。

俺は先程の一哉の目を思い出し、軽く首を振ってその思考を追い出した。



ぼんやり黒板を見て授業を過ごし、気が付けば帰りのホームルームだ。

担任・藍崎幻人は皆を見回した後、話を始めた。

「夏休みまで一か月を切ったぞ。そろそろみんな学習目標を考えておけよ」

そうか。ついこの前入学したと思ったら、もう夏休みなのか。

部活動をやっている生徒なら、夏休みは大会だの、合宿だのと忙しさがピークに達する時期であるが、生憎俺は帰宅部である。普通に勉強さえしていれば自由時間はいくらでも作れる。ただ、それは何もやる事がない時間が増える、ということでもある。

もともと特別な趣味があるわけでもなければ、アウトドア派という訳でもない俺は、

そのような時間を有意義に使える自信なんて毛頭ない。

この夏休みも、家の中でだらだらとネットサーフィンをしたりラノベを読んだりゲームをしたりアニメを観たり寝たりして、何の面白みもなく過ぎていくのだろう。



金蛇さんが久しぶりに登校した月曜日から数日が経過した。あれから金蛇さんは一度も休んでいない。どうやら彼女を蝕んでいた病気は完治したようだ。別にそれだけなら喜ばしい事なのだが、おかしい事が一つあった。

授業中に変な視線を感じるのである。その視線は、俺の勘違いでなければ窓側の一番後ろ…そう、金蛇さんのものだ。チラッと視線を返すと、すぐに顔を俯かせる。そのとき一瞬だけ彼女の目元がキラッと光っているような気がするのだが、それは流石に俺の目がおかしいだけだろう。…近々眼科に行かなければ。

今日こそは金蛇さんに真相を聞こう。いつまでも視線を一方的に浴びているわけにはいかない。授業に集中できないじゃないか!

まあ、元から集中する気はないが。

「よう!金蛇さァン!最近俺を見すぎじゃないかね!ひょっとして惚れたかい?」

深刻な話でもないので明るく話しかけようと試みたはずが、テンションの調整をミスった。

これでは、もはやウザい。てか俺、この前戦略的撤退したじゃん!すっかり忘れてたぞ…

「え…?今の声誰?」

「まさか枯石じゃないよね…」

クラスメートの一部がひそひそと話しているのが聞こえる。視線が痛い。

「そんな事はありません。自意識過剰なんじゃないですか?」

Oh...即答だ。

それにしても前話しかけた時より元気いいな。よろしいよろしい。

相変わらず直接話すときは目をこちらに向けてくれない。

「あ、そう?でも授業中にそっち向いたら目合ったんだけど…」

「偶然です。気のせいです。何かの間違いです。あなたを見る事で得る利益は皆無です」

「え、あ、その、ごめん…俺の勘違いだったようです」

…思わず金蛇さんにビビッて敬語になっちゃったじゃないか、ああ恥ずかしい。

俺は高速で自分の席に座った。俺の席は教室の真ん中らへんだが、今だけは廊下側の席に憧れた。すごく憧れた。



放課後。帰りのホームルームが終わり掃除の時間だ。

今日は金曜日。俺は掃除当番だったので、俺に対する印象をキープするために真面目に取り組む。

「ゴミ箱のゴミ、俺が捨てとくから皆先帰ってていいぞ」

「お、マジ?悪いね~」「ではお言葉に甘えて~」「じゃあな!」

クラスメイトがいそいそと帰る準備を始めたのを横目に見ながら、俺はゴミ庫に向かう。

教室は4階でゴミ庫は1階。これが結構遠いのである。当たり前ながら時間もかかる。

「この行動が未来の俺に幸せをもたらすと信じて」具体的に言うと彼女…いややっぱり面倒臭そうだからいいです。



教室に戻ると、もう既に人はいなくなっていた。皆それぞれ部活や勉強等があるのだろう。

「人生ガチ勢は大変だなぁ…」しょうもない独り言を漏らしながら帰る準備を始める。

忘れ物がないか机に手を突っ込む。中には、返却された小テスト、いらないルーズリーフ2枚と、


______________________見覚えのないメモが1枚。


「ん?」

裏返すと、そこには

「屋上へ来てください。」とだけ書かれている。

「屋上?屋上は開いてないだろ」この高校の屋上は閉鎖されているはずだ。第一、どの学校だって、今時は閉鎖されているのが普通ではないか。

俺はこのメモの意図がさっぱり掴めなかったので、さっき中身を捨てて空になったゴミ箱にメモを捨て、教室を出た。

すると、

「あのメモ、私です。屋上閉鎖されてるの忘れてて…」廊下に金蛇さんが立っていた。



「そんな事も覚えてないとか、自分の記憶力のなさが恥ずかしいです…」うっすらと頬を染めて俯く金蛇さん。

か、可愛い!前の不愛想な態度が嘘みたいだ!反則だ!

しかし、冷静になってみるとおかしい。

「お前、前の態度と違いすぎない?金なら貸さないからな」ニヤけそうになる顔を無理やりしかめて言う。

「そんなんじゃないんです!目を合わせて話すのが恥ずかしくて、それで…」金蛇さんはますます顔を赤らめながら殺傷能力抜群の上目遣いを発動する。そして、

「私、好きなんです」

金蛇さんははっきりと言った。

だが、よく分からない。

「好きって、何を?」

「枯石、くんが…」

「!?!?!?!?!?」

今度は俺が顔面真っ赤になる番だったようだ。

き、きっとこんなことを言って、俺を騙す気なんだ。そうに違いない。

「こんなの本当なはずがない。何が目的だ」と低い声で言いさえすれば、すぐさま黒い本性が姿を現すのだ。

しかし必死に声を出そうとするが、

「え…?ほ、本当に?」この位しか言えなかった。

「はい、大好きでした」そう言いながら彼女は俺の方に歩み寄り、

______________俺に抱きつき、唇を合わせてきた。

予想外の展開すぎる。ほぼ放心状態である。

柔らかい唇。

周りが見えない。目の前の彼女しか見えない。

もう何もかもがどうでもいい。どうなっても構わない。

何も考えられない。




しばらく経つと、金蛇さんの右手が俺の背中から離れる。この時間が終わってしまうのは少々寂しいが、これからもっと幸せな経験ができるかもしれない。ぐへへ。


そんな妄想に浸っていた俺は背後に現れた新たな気配に気づかなかった。



ズブッ

「あ、れ?」





2017/4/5 サブタイトルを変更しました。

全体的に表現を改め、描写も追加しました。

また、区切りを変更し、前回の更新の更に先の展開を加筆しました。

2018/3/14 細かい表現や言い回しを修正しました。

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