プロローグ~少年のはじまり
少年は、廊下に広がる血だまりの中心に倒れていた。
そして、正常に働かない思考で自分という存在を見つめ直していた。
いったい自分は何を間違ったのか。何がいけなかったのか。
そんな意味のない疑問が脳内を支配する。
実を言うと、少年は昔から、本当の意味で人間という生き物を信用したことはなかった。自分に関わる人間は必ずどこかで自分を利用するつもりだと考え、裏切られる瞬間を思い常に怯えていた。
理由は、自分でもわからないし、いつそんなことを考えるようになったのかも覚えていない。
あるのは、過剰で根の深い人間への不信感のみ。
当然、自分も人間なのだから、自分さえも信じられなかった。
それ故、自分が信頼されている、などと思ったこともない。たとえ何かの間違いで自分が高い評価を受けることがあっても、自分が失望され、否定される瞬間が来るのが、恐くて怖くて仕方がなかった。
これは、人間不信の詰めが甘かった故の結果なのか。それとも______________
(逆…だろ…)
自らも人間なのにもかかわらず、かかわりを持った人間を心から信用しなかったツケが、今になって回ってきた。と思った方が自然だろうか。
これは天罰で、目の前の人物は、自分を裁くために神様から遣わされた者。
ああ、そう考えるとすべて納得できる。人間不信の俺がなぜ今回に限って人を信じてしまったのかも。天罰からは逃げられない。そういうことだ。
自分には、この世界に生きる権利なんて最初からなかったんだ。この結果は、それがばれるのが15,6年遅かっただけの話。
いない方がいい、自分なんて。
そこまで考えたところで、彼は笑った。
傷の痛みに口元を歪めただけかもしれない。しかし、これを第三者が見ていたとしたら、こう表現するに違いない。
まるで己を嘲笑っているようだ、と。
そうして、目の前の人物を虚ろな目で見つめながら、彼の意識は暗闇へ堕ちていく。
世界がひっくり返る。
風が止む。
人形を縛り、操る糸はどこかに消え、人形は自由に動き回る。
意識をなくす直前、少年は目の前の人物にどのような感情を抱いただろうか。
感謝した?
命乞いをした?
救いを求めた?
否。彼が抱いた感情は、
ひどく暗く、哀しかった。
スイッチは切れず、切り替わる。
2017/4/5 全体的に表現を改め、描写も追加しました。
2018/3/14 細かい表現、言い回しを修正しました。