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 二〇一四年、謎の病原体、『ヴォラ・ウィルス』が流行した。

 アフリカから広がったそれは、驚異的な感染力と致死性を持ち、世界は混乱で満たされた。

 人類の半数以上が死に絶え、事態を重く見た議会は、アメリカを母体とした世界連合体『ユニオン』を設立した。

 ユニオンは細菌研究機関『センチュリオン』を設立。ウィルス研究を背景に、ワクチンを開発、量産し、人々からの支持を集めた。



 数多くの犠牲を出し、人類は、やっと団結したかに思えた。


 センチュリオンが非人道的な実験を行っている事が公に出るまでは。




「最近のユニオンはどうなっている?」

 高級そうなソファにずんぐりと、その巨躯を腰掛けつつマット・ボウイは聞いた。

「どうもこうも、いつも通りだよ。政治家どもは、毎日ステーキでその腹をさらに肥えさせ、軍の連中はそんな政治家共に、発情中みたいに尻尾をブンブン振りまくっているのさ」

 そう言って、リカルドはゲラゲラと下品に笑った。

 マットは、ふん、と鼻を鳴らすと、ノート式のパソコンを開いた。

「何を見るんだ?」

 リカルドは聞く。

「今日の戦死者さ。ユニオンに未練などないが、あそこに属する人のすべてを捨てたわけではないのだぞ」

 マットはそう言いながら、キーボードを打った。

 画面上に戦死者の一覧が出る。すごい量だった。

「…………これは」

 一覧に目を暫く走らせ、マットは驚きの声をあげていた。

「どうした?」

 リカルドの質問には答えず、マットはパソコンを閉じ、ソファから腰を上げた。

「どこに行くんだい」

「食堂だ。ビールを飲んでくる」

 リカルドの問いに放心状態で返しながらマットは、自室から出て行った。



 インドにあるアジトの中、食堂のベランダで、自販機で買ったビールを開けながらマットは柵に背中を預けていた。

 ベランダは他に利用している者が居ず、がらんとしていた。

「あのデヴィッドが戦死した……か」

 ビールを一口呷り、マットが独り言ちる。


 反連合(ユニオン)を掲げるテロ組織『ジーズニ』にマットは所属していた。しかし、マットはかつてユニオンの精鋭隠密作戦部隊『騎士団(ナイツ)』に身を置いていた。

 デヴィッドはマットのかつての仲間だった。いや、盟友と言っても過言ではないほど、二人は強い友情で結ばれていた。


『本当にいいのか?』

 ユニオンから完全に離反する前日、デヴィッドがそう言ったことを思い出す。

 支度をしたマットはゆっくりとデヴィッドの方へ振り返った。

『あれだけのことをされて、もう私はここには身を置けないのだよ。デイブ』

 マットはそう言った後、『すまんな』と謝った。

『すぐ、謝るなよ。お前の悪い癖だ』

 そう言ってデヴィッドが笑い出す。

『自分が感じたこと、信じたことを貫けばいい。そうじゃないと、お前らしくもない』

 そう言ってデヴィッドは笑った。よく笑う男だったのだ。

『お前はどうするんだ? デイブ』

 マットが聞く。

『ここに身を置くよ。俺はもう失うものなんてないしな。明日からは、お前と俺、敵同士ってわけだ』

 マットがそれでこそだ、とでも言いたげに笑った。デヴィッドも笑う。

『死ぬなよ、デヴィッド』

『お前も元気でな、マット』

 二人はこうして別れた。


 夕焼けが霞んで見え、マットは開いた方の腕で顔を拭っていた。

「司令官!」

 後ろから部下の声が聞こえ、マットは振り返らずに「なんだ!」と答えた。

「ワズ・アームス社襲撃作戦の会議を行います。ブリーフィングルームへ」

「すぐに行く」

 返事をしたマット残っていたビールを飲み干すと、やや赤みの入った目を部下の方へよこした。

 それを見た部下は一瞬、驚いたような顔を見せたが、すぐに「はっ!」と敬礼すると、大股でベランダを去っていった。


 現実に戻されたマットは、ビール缶を握りつぶすと、踵を返しベランダの出入口に向かった。

 デヴィッドのことを考えるのは作戦の後でもいいだろう。


 まだ自分たちにはやることが残っているのだから。

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