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未完小説です。現在この続きは予定しておりません。
土砂降りの雨の中、一機の垂直離着陸輸送機が、雷光の走る空を滑空飛行していた。
向かう先にあるものは、黒塗りに稲妻が落ちる果てしなき闇。
VTOLの機内では、体中の傷口からおびただしい量の血を流している男を、市街地迷彩で身を包んでいる隊員達が手当てをしていた。
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「脈拍が弱くなっている! ショックを与えるぞ! チャージ! ……スリー、トゥー、ワン……!」
自動体外式除細動器から発せられた電流による蘇生処置が行われるが、心電計の脈拍数は低下の一方を辿っていた。
「ダメか! クソがっ!」
その反応を見てナイツ隊員のハリー・マーフィーは毒づいた。いつもは『捻くれ者のハリー』、『シニカル・マン』と評される男も、今際の際の仲間に激しい焦りを浮かべていた。
その仲間……デヴィッド・ワーズは、先刻から、うぅ、と蚊の鳴くような声で唸っていた。
「デヴィッド、大丈夫だからね」
唯一の女性隊員であるレイラ・ロビンスは、つとめて冷静を取り繕った声音でそう言うものの、デヴィッドの息は弱くなっていく一方だった。
「もう一度やる! 離れろよ!」
泣きそうな声でヒステリックに言うハリーだが、その肩にポンと誰かの手が置かれた。
振り返った先にあった、アルフレッド・タテノの、諦めに近い表情を見たハリーは「クソッ」と一言毒づいた。
「デヴィッド……」
レイラはデヴィッドの名を力なく呟き、彼の顔を覗き込む。
心なしかその表情は徐々に安らかな顔に変わっていった。
「レイ……ラ……」
デヴィッドは手をレイラの方向に差し出した。ごく自然で、やんわりとした動作だった。
レイラがその手を握る。すると、デヴィッドは笑みを浮かべた。
「クイーン……となれ、レイラ」
デヴィッドがそう言った時であった。
ピーっと心電計が鳴り響き、その時を告げた。
その場に居る隊員達が、悲しみに満ちた表情でデヴィッドを見ていた。
「クソ……クソ……なんで、どうして……!」
ハリーだけは、デヴィッドから目を背け、泣いていたが。
レイラはデヴィットの頬に手を添え、ゆっくりと撫でる。
その場の全員が、悲しみに暮れる中、デヴィッドの顔だけが微笑んだままだった。
★
VTOLが光る空を疾駆する。
走る先に見えてきたのは、静寂に包まれた建物群だった。
その、全部同じようにしか見えない建物たちは、こう通称されている『|ニューヨークだったモノ《ロストNY》』と。