泣き虫神様【読了3分】
あるところに泣き虫な神様がいました。神様は暗い社の中でいつもひとりぼっちでした。神様はそれが寂しくて、毎日泣きました。
それはときどき雨となって、里を潤しました。
ある日神様は社から出ようと試みました。しかし、社から出ることは出来ませんでした。
いつしか神社を訪れる人は減り、人々の信仰が減って、神様は消えそうなほど薄くなってしまいました。
神様はこのまま消えてしまうことを悟り、また暗い社の中で泣きました。
ある日、神社に男の子がやってきました。賽銭箱に五円玉を入れて、お参りをしていきました。それから毎日男の子はお参りをしにやってきました。神様はそれをずっと社の中で見ていました。
(これは……お百度参りじゃ)
神様は神様なので当然、男の子の願いを知っていました。しかし、
『なんで!なんでかみさま!?なんでお母さんはしんじゃったの?ちゃんと……ちゃんとおさいせんもいれたのに!ちゃんと毎日かよったのに!』
神様にはどうすることもできませんでした。神様にもできることとできないことがあります。人の生き死には、干渉できないのです。
男の子は泣きました。社の前で泣きました。
神様は泣きました。社の中で泣きました。
それからも毎日、男の子はお参りにやってきました。その願いは少しだけ変わっていました。でも、やっぱり神様にはどうしようもできないことでした。人の生き死には操作してはいけないのです。
神様は泣きました。たった一人の純粋無垢な信者の為に。
いつしか神様は寂しさのせいで泣くことはなくなりました。
その日も男の子はお参りにやってきました。五円玉を賽銭箱に入れて、スズを鳴らし、手を合わせ、願いました。お母さんが帰ってきますように。
神様は、意を決しました。そして男の子に、神託を与えました。
神様は男の子に告げました。死んだ人間はよみがえらないことを。過ぎたことはどうにもならないことを。
男の子は知っていました。そんなこと分かっているつもりでした。でも、神様ならどうにかできるかも、とそう楽観的に考えたかったのでした。男の子は泣きました。もうお母さんは帰ってこないのだと。
神様は、目の前で男の子が泣いているのを見て、やりきれない気持ちになりました。そして泣きました。大声で泣きました。
いつの間にか男の子は泣き止み、神様が泣いているのに気がつきました。その泣き声は社の中から聞こえました。不思議に思って男の子が観音開きの扉を開けると、そこには朱色の着物を着た、白い肌で白い髪の緋色の瞳の女の子がちょこんと座っていました。神様でした。
――どうしてないているの?
――儂はお前が不憫でならないのじゃ。
男の子は神様が自分の為に泣いていることを知って驚きました。そして神様の手を取って、社の外まで引っ張り出して、優しく抱きしめました。
神様は社の外に出られたのと、男の子に抱きしめられたのとでびっくりして泣き止みました。そして嬉しいのと恥ずかしいのが混ざったなんだかあたたかい気持ちになりました。
――ぼく、おいしゃさんになる。
男の子は神様に宣言しました。
――もうぼくみたいなこどもをふやさないようにする。
それは揺ぎ無い決意でした。
――もうかみさまがだれかのためになかなくていいようにする。
それは大きな決意でした。
神様はあたたかい気持ちのまま胸がいっぱいになりました。胸があたたかい気持ちでいっぱいになったので目からあたたかい涙が溢れ出ました。
神様は初めて喜びの涙を流しました。
あるところに神様がいます。ときどき、社から抜け出しては里に遊びに来るそうです。そして、里に来たときには必ず、村のはずれの養生所に立ち寄って、そこの先生と仲良くおしゃべりするそうです。