他人事のニュース速報
『タッタッタ』
私は出張先で電車に遅れそうになり先を急いだ。
私が出張している場所は、すごい田舎で1日に数本しか電車が走っていない。
この電車に乗り遅れたら次の朝まで電車はないので乗り遅れるわけにはいかないのだ。
私は車両整備士だ。
そのため電車には詳しい。
将来電車を運転してみたいものだ。
街灯が少なく薄暗い中必死に走っていると、やっと駅が見えてきた。
駅は無人駅なのだが、ホームには人影が1つ見えた。
すると向こうから電車が来るのが分かった。
私は全力でホームに向かい改札を飛びだした。
『トン』
どうやらギリギリ間に合ったようだ。
私はイスに腰かける。
『プシュー ガタッ』
腰かけて間もなく電車は走りだした。
「ハァハァ」
久しぶりに走ったものだから息が切れて仕方がない。
少しめまいもするし気分もすぐれない。
目的の駅は終点だから少し寝むることにした。
うとうとしながら辺りに目をやると、この電車に乗っているのは私だけのようだった。
あれ?
駅のホームに人影が見えた気がしたのだが気のせいだったのだろうか。
この電車は1両しかないので他の場所にいる可能性はない。
そういえば乗る時何かにぶつかった気がした…
そんなことを考えているうちに睡魔が私を襲った。
「お客さま終点ですよ。」
車掌に起こされて私は目を覚ました。
どうやら熟睡してしまったようだ。
次の日の朝、私はニュースを見て驚いた。
昨日私が乗った駅のホームで電車が人を引く事故が起きていたのだ。
しかも事故を起こしたのは私が乗っていた車両だった。
ニュースではあの車掌が人を引いたのに気付けなかったことに謝罪している。
・・・
私の背中はじんわりと汗をかきはじめた。
まさか昨日ホームで見た人影はやはり見間違いではなかったのか。
急いでホームに走ったものだから私が突き落としてしまったのかもしれない。
私の顔は青白くなり、1日仕事に身が入らなかった。
午後のニュースで事故にあった男性からアルコールが検出され、事故死だと報道されていた。
私は少し安心したがやはり心は重たかった。
会社を終え、家に帰ると新薬のサンプルが送られてきていた。
ビタミンだのカルシウムだので体の疲れが取れるらしい。
試しに飲んでみることにした。
体に効くかは分からないが今は気分的に落ち込んでいるからちょうどいい。
その日の夜のこと、私は不思議な体験をした。
ぐっすり眠っているはずなのに頭は冴え、目をつぶっているはずなのに私の部屋を見渡すことができる。
まるで起きているかのようなのだが私の体はベッドに押し付けられピクリとも動かない。
これが金縛りってやつなのだろう。
背筋が凍るような寒気を覚える。
そしてしばらくすると部屋の扉がゆっくり開いてきて、そこから黒くてモヤモヤした何かが部屋に入り込んできた。
それはゆっくりと私の上に覆い被さると私の体をガシガシと揺らし初めた。
そして頭の中に声が聞こえてくる。
「お前が 殺した 今度は俺がお前を して やる…」
私は鳥肌が立った。
コイツは駅で引かれた男性の霊に違いない。
私にホームで押されたことを覚えていて私に復讐をしにきたのだ。
体にかかる重さは次第に強くなっていく。
私は冷静に物事を考えられなくなっていた。
助けてくれ。
何度でも謝るし、どんな償いもするから命だけは見逃してくれ。
っと言おうとしたが口は動かず心で思っただけだった。
私の上にいる男性の重みはどんどん増してくるばかりだ。
何時間たったのだろうか…
カーテンから光が漏れ初めた時、スッとその男性の重みは消え去った。
その瞬間金縛りが解け、体の自由を取り戻した。
「助かったー。」
私は心から声を出したが、一晩中緊張状態だったためその声は小さく体は疲労でいっぱいだった。
会社でも仕事に身が入らずまた霊が来るのではないかと休憩時間に仮眠を取ることすら怖れた。
午後のニュースでは電車事故の再発防止処置が進められていた。
最近のニュースは殺人事件のものばかりだ。
しかも金持ちや権力者を狙った殺人だ。
やはり金持ちや権力者は憎まれる存在なのだろうか。
それとも他に理由があるのか…
そしてまた、夜がやって来た。
今日は大丈夫だと疲れきった体をベットに押し付けた途端、また金縛りに陥った。
そして頭にはまた同じような言葉が入ってくる。
「お前が・・・お前を・・・」
私はまた一睡も出来なかった。
次の日もそのまた次の日も私のもとに男性は現れた。
私は病院にも霊媒師にも助けを求めたが効果は無かった。
テレビのニュースに取り上げてもらいたいくらい必ず起こる現象だったが、非現実的だとテレビの会社は掛け合ってくれなかった。
どうせ私が呪い殺されでもしないかぎり感心を示さないのだろう。
私は衰弱し食事ものどを通らなくなっていった。
もうあれから何日が経ったのだろう。
私の思考力は無に等しかった。
私は何もする気が起きず、ぼーっとして目を閉じると心なしか体が楽になった。
今までの疲れがとれ、水の中を泳いでいるような、空を雲のように漂っているかのような感覚がした。
すると頭の中にまた声が聞こえてきた。
「我は死神だ。
貴様はもうすぐ死ぬ。
人間は死期が近づくと次の人生のために準備をする。
貴様はすでに転生のつるぎを作ることが出来る。
そのつるぎは今から貴様が死ぬまでに、そのつるぎで誰かを殺せば次の人生で殺した人間の人生を送れるものだ。
金持ちを殺せば金持ちに
権力者を殺せば権力者に
貧乏人を殺せば貧乏人に
小さいころこんなことを思ったことがあるだろう。
なぜ私はこんな不幸な生まれのもとに生まれてきてしまったのかと。
それは前世の貴様が怠慢をしたからだ。
人間は昔から権力者を殺すことで名をあげてきた。
これは人間の本能的行動なのだ。
だから人間は大頭領の暗殺を企み、有名人を妬むのだ。
我は死神だ。
まぁせいぜい頑張ることだな。
殺せなければ次の人生はないぞ。」
それを聞いた瞬間、私は急いでつるぎを作った。
そして私の夢である人を殺す決断をした。
その後、もはや人生に疲れたから早く転生したいので自殺しようと心に決め外に出掛けた。
私の今の思考力に躊躇は存在しなかった。
「これでやっと楽になれる。」
・・・
「ふぅ。
やっとアイツは死んでくれる。
よくも電車に突き落としやがって。
死んだ後も、幽霊となって生者を殺れば来世に転生できるとは上手くできたシステムだ。
これで俺の来世はアイツ並の人生を送ることができる。
会社に疲れ酒に溺れる日々とはおさらばた。」
「ふふっ」
今ごろあの乗客は死んだ悪霊の呪いかなんかだと思っているのだろう。
俺の電車で事故を起こしてくれた罪は重いぞ。
おかげで1カ月間謹慎処分なのだからな。
でもまさか事件を起こしたのが出張で来ていた車両整備士だったとはな。
あの日はあの駅でしか乗客は乗り込んでいないんだ。
アイツがやったことなんてすぐわかるさ。
俺にかかれば身元を調べるなんて簡単なことだ。
体を縛る薬が効いて悪夢を見ているということはやはりやった自覚があり、罪悪感があるようだな。
あの薬は幻想を見せる効果はない。
人間の思い込みが夢で投影されているだけなんだ。
幽霊や呪いなんてあるはずがない。
これでアイツへの復讐は終わった。
しかし最近見た死神の夢はなんだったのだろうか。
俺の死が近く、転生のつるぎがなんだかと言っていたが…
『ピンポーン』
はて、誰だ。
ー数日後一
午後のニュースの時間です。
車両を点検しに出張していた会社員が最近人身事故を起こした電車の車掌を刺し殺した後に自殺する事件が発生しました。
凶器は自作したと思われるつるぎだと判明。
現在彼らの因果関係を調査中とのことです・・・
ーENDー
駆け込み乗車はダメ絶対!