舞台裏の一幕
その少し前、兵団の宿舎の中。
ラナと派手なスーツ姿の男が対話していた。
「ういっすラグゥちゃん、元気ぃ?」
客人の男はラナのことをラグゥと呼ぶ。
「オブリビオン……LUXの、いえLUXですらない、無頼のあなたがここに何の用です?」
客人の男はオブリビオンというらしい。
極彩色のスーツにシルクハット、トランプ柄のアクセサリーが目立つ。
オブリビオンはささやく様に煽る。
「鬼熊ちゃん来ちゃったねえ。ヤバいよねえ。昼神君にニグレド・オーヴァル使わせなくってよかったの?死んじゃうかもよ?
彼にも意味もたせようよ。また祭りが始まるんだからさ」
「また何か良からぬことをたくらんでるんですね」
オブリビオンはニグレド・オーヴァルを知っており、ラナもまた知っていた。
これは一体何を意味するのだろうか。
「俺?俺は何もしないけど?俺、祭りは準備が一番楽しいの。
あとは皆が楽しんでる姿を見て俺も楽しむからさ」
言葉とは裏腹に嘲笑する口調だった。
事実、その言葉はおぞましい意味がこめられているのだった。
「あなたは皆が混乱する姿が見たいだけでしょう?
人が絶望する姿を見て楽しんでる。悪趣味ですね」
「ものは言い様だなあラグゥちゃん。まあいいや、弾薬と武器置いておくからさ。
じゃあ、祭りがんばってね?」
オブリビオンは呪文が一面にかかれたカバンを置いた。
抱えて運べるほどのカバンだが、魔術的空間操作によりこの兵団が一月で消費するほどの弾薬が入るのだ。
オブリビオンは確認するように笑う。
「ねえ?するっしょ?祭り。嫌だもんねえ、ここの妖怪共。神様気取りでさ……
そーいうやつムカつくっしょ?だからさーこんなシケたボランティアじゃなくってパーッとやっちまわねえ?」
ラナは毅然と決意を述べた。
「……その戦いを避けるための戦いが私の選んだ道です。
あなたは、正直消せるものなら消したいですね」
殺意をこめてオブリビオンを睨む。視線が交差した。
一触即発の空気をしかしオブリビオンは笑い飛ばす。
「こええなあ、こええよ。長生きできそうになくってこええわ。
死んだらお姉さん悲しむよ?何より俺が君の命の意味がなくなって悲しいわ。
意味もたせなきゃさあ。何のためにあの蔵から出てきたの?
なんか成さなくっちゃ!ね?君の生涯に意味を持たせなきゃさ」
投げつけられる挑発の言葉にラナは怒りを胸に静めて熱を持った言葉を吐き出す。
「言いたいことはそれだけですか」
「ごめんね。おじさん、若い娘に説教したいこと一杯あるんだ。
けどまあそろそろ昼神君帰ってくるから俺も帰るわ。
彼にはサプライズを用意したいしねえ」
ぷらぷらと手を振り背を向けて帰り去るオブリビオン。
「……忌々しい」
実に、言葉通り忌々しそうにラナは吐き捨てる。
昼神が鬼熊と戦っている間、確かに何らかの密談が成されたのだ。
兵団の壁のしみだけがそれを知っていた。
今は、まだ。