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神隠しのその先に~妖兵日誌~  作者: 照喜名 是空
神隠しの先のスローライフ
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ハンティングにいこう2

杏が帽子を逆さに振ると無数の紙を切って作られた人形が落ちる。

ヤッコサンみたいな形に呪文が書かれた紙は式神だ。

紙が舞い、紙粘土みたいな質感でできた白い武者姿の戦士たちが姿を現す。


「式神展開、戦線構築」


さらに帽子の中から出てくる無数の重火器。

そして魔女の箒と杖。

トネリコでできた杖が彼女の周囲に浮かび、さっと一振りされる。


「ヨハネの福音書にて言及されし夜の女王ノクティルカよ!

我は契約と、祈りと、儀式による嘆願に基づき汝の助力を請わん!

わが眼前に薔薇の生垣を、地を抉りその足を奪う堀を我とわが敵の間に!」


杏が呪文を唱え、何かの草の干物を投げるとあっという間に強靭な薔薇の生垣が生え、杖で地面を一突きすればたちまちに塹壕の穴がぼこりと空いた。

それらは規則性を持って戦術的に考案された形だった。


杏がさっと指で印を切ると紙で出来た兵士たち-式神たち-は杏の帽子から出てきた武器を手にとって戦列を築いた。


これにてわずか30秒の早業で塹壕を含めた陣地と即席の軍隊が出来上がった。


「こいつはすごい。まさに魔法だ」


杏は帽子を被りなおして笑う。


「僕だってこのくらいはできるのだよ。驚いたかい?」

「ああ、驚いた」

「そりゃ光栄だね!魔術師にとって驚かれるって言うのはなによりの喜びだ。

命を賭ける甲斐があるってものだよ。さあて、馬鹿話は終わりだ。

君には術者の僕自身を守るフルバックをお願いする。このグレネードランチャーを持ちたまえ。

最終防衛ラインだ。しっかり頼むよ。さあ、来るぞ!」

「応」


そいつは、二本足で歩く熊だった。

だがばかでかい。5mはある。

ちょっとしたビルが動くような有様だ。


「第一陣、制圧射撃、勅!」


式神の持ったAKが弾幕を張る。

しかし鬼熊は巧みに動いてダメージを急所から外す。

爪の一薙ぎで塹壕は埋まり、式神たちが吹っ飛ばされる。


薔薇の生垣を気にすることなく踏み越え、ものすごいスピードでこちらに向かってくる。


「第一陣、復帰せよ、RPG用意、勅!」


式神たちは転がりながら起きてRPGを構え発射する。

一瞬びくんと止まるが背中が焼け焦げただけでそのまま進んでくる。

接触まであと数秒もない。


「昼神、僕と後方へ全速力で後退しながら急所を狙って打ち続けるんだ!

まずはAKでけん制!急げ!」


俺たちは空に浮かび上がり時速80kmほどで遠ざかる。

しかし鬼熊はぴったりと後をつけてくる。

それも二本足で全力疾走しながらだ。綺麗なフォームで腕を振っていた。


俺は頭部を狙ってAKを発射し続ける。

弾丸が当たり、爪楊枝でさしたような穴が鬼熊の顔に開く。

しかし、弾丸は骨まで到達せずに見た目どおりの効果しか発揮しない。


杏がここでようやく弾丸を撃った。

それは尾熊の眼球に当たり、鬼熊は苦痛のうめき声を上げた。

咆哮がびりびりと空気を揺らす。雷のような大音声だった。


「今だ!グレネードランチャー!」


俺は咆哮を上げるその口めがけてグレネードランチャーをぶっぱなした。

鬼熊の口の中で爆発が起こる。

鬼熊は妙に人間くさい動作でぺっと歯を吐き出すと爪を振り回した。

嫌な予感を感じてとっさに回避する。時速120は出てたと思う。

すぐ横をソニックブームが空気を切り裂くあの音を立てて通り過ぎていった。


「あれだよ。一撃貰ったら死ぬと思いたまえ。撃ちまくれ!弾装赤装備!昼神もだよ!」


式神たちがじわじわと包囲し、AKを撃ちまくる。

俺も赤色をした魔法弾を装備して撃つ。

着弾点からガソリンでもぶちまけたかのような火炎が噴出しあっというまに鬼熊の全身をなめる。


だが鬼熊は火炎に包まれたままで爪を振る。

右に左に、上へ下へ俺たちは切りもみしながらそれを避ける。

一撃当たれば死ぬドッグファイトだ。

全速力で後退しながら飛んでいるが一向に差は広がらない。


「僕はカイティングで鬼熊をひきつける。昼神はできるだけ差を広げてグレネードを撃つんだ。

頭部じゃないと意味が無いよ」


俺と杏は目線で合図すると分かれて左右から挟み撃ちにして撃ちまくる。


何度、グレネードを食らわしただろう。何度、危ない場面があっただろう。

1時間はたったと思う。


とうとう鬼熊は倒れた。山が崩れるような音がして地面が揺れる。

全身血まみれ、火傷まみれで弾丸を頭部に何百発もくらい、グレネードによる爆撃を数十発耐え、ようやく失血死した。

それでもしばらくはもがき続け、俺と杏は頭部の一点に集中射撃をして動きが止まったのを確認した。


「昼神、用心しながら頭を鉈で切開してくれ。

穴が開いてるなら先にAKで弾装一つ打ち込まなきゃだめだね。

いつでも飛んで逃げられるようにするんだよ」

「わかった。止めを刺すんだな」

「そうさ」


俺はしずしずと近寄って頭部に開いた穴に近寄る。

1mはある。深さもそのくらいだ。ところどころ破損した骨が見えるが、開いた穴はわずかに10cmほどだ。

そこから血が湧き出てきた。


俺は腕を突きいれAKをぶっ放す。

脳漿が跳ね返ってひどい有様だ。

さらに鉈を5度6度斧のようにたたきつけて穴を広げる。

正直、鉄板より硬かった。

そこにグレネードをぶち込むと、鬼熊はびくん、と動いて死んだ。


「死んだか?」

「多分ね、油断はできない」


それから俺たちは心臓を切開し弾丸を撃ち込み、プラスチック爆弾で心臓を吹き飛ばした。

心臓は切開するまでわずかに痙攣していた。

危ないところだった。息を吹き返すかもしれなかったのだ。


なんにしろ、妖怪というもののすさまじい生命力を知らされることになった。


止めを刺す作業が終わったとき、俺たちは全身赤いペンキを浴びたようになっていた。


「とんでもないな、妖怪ってやつは」

「こういうのを相手にするのが僕らの仕事さ。ようこそ、兵団へ」

「ああ、よろしくな」


杏が呪文を唱えると水が杖の先から噴出して俺たちの血を洗い落とした。


「さあ、村の皆も呼んでこよう。おめでとう、狩りは成功だ

今夜はお祭りだよ」

「こりゃあ、しばらく肉には困りそうに無いな」

「まあね、燻製にしたり干し肉にしてこれで今年も冬を越せる」


それから居留区の住人総出で鬼熊の解体に当たった。

まるで鯨の解体か、建築作業のようだった。


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