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神隠しのその先に~妖兵日誌~  作者: 照喜名 是空
神隠しの先のスローライフ
5/19

ハンティングにいこう1



それから一週間ほどは訓練をしてすごした。

射撃や武器の取り扱い、符丁やグループでの連携などが主な訓練内容だ。

単純な筋トレ的鍛錬もしたりしたが、これは今のところ頭打ちだ。

すぐに結果がでるようなものではない。

とはいえ、さらに筋力と敏捷力は上がり、鉄板を豆腐のようにスライスするくらいはできるようになったが。


……自分でも異常だとは思う。

だが悪いことではない、受け入れよう。

真相というものはいつだって虚無的なものだ。そんなものは気にするだけ損というものだ。


ある朝、杏がいつものように陽気に言った。


「それじゃあ、もうそろそろいいかもしれないな。

昼神、狩りに行こう」

「狩り?動物でも狩るのか」

「それもあるけど、ここで狩りといったら妖獣さ。

妖気を吸って妖怪化したばかりの害獣はとても危険で人に害をなすことが多いんだ。

だから僕らが定期的に駆除するのだよ」


ふと、いくつかのアイデアが頭に浮かぶ。


「ふと思ったんだが、そいつらが狩りで生き残って妖怪になったらお前らを憎んで弾圧したりしないのか」


杏の答えはシンプルなものだった。


「知性が芽生える奴とそうじゃない奴がいるのさ。

恨みを覚えて復讐するような奴には基本的に手を出さない。

もっとも、こっちが襲われたらそれは正当なる決闘であり、生存競争サバイバルだ。

だけど、僕らが相手をするのは基本的に知性の無い獣が主なのだよ」


兵団の窓の無い宿舎にも清浄な朝の空気が来る。


「でも、君の言うとおり恨みを覚えて復讐に来る奴も一人二人は必ずいるものだけどね。

僕らは妖怪を恨み、妖怪は僕らを恨む。血で血を洗う悪循環さ」

「……救われないな」


俺たちは準備をしながら話す。

もう一週間もすれば慣れたものだ。


「まあ、いざという時はこれが物をいうのさ。

いかにも男の世界って感じで僕は好きだけどね。かっこいいじゃないか。

なによりわかりやすい」


杏は銃を掲げながら言った。


「あんたは女だろう」

「力があれば認められる、それがこの世界の美点でもあるのだよ。

多分、唯一の」


俺たちは適当に銃を装備し、リュックを背負って兵団から出た。


「さあ、くさくさしたことをいつまでも言ってても仕方ない。

では、狩りに出発だ!」

「ちょっと待ってくれ。俺の記憶じゃ狩りってのは4、5人でやるもんだと思ってたがここじゃ違うのか?」

「それは……」


そこにラナが声をかけた。


「その通りです。狩りは必ず三人以上で行くのが鉄則ですよ。

ちょうどグエンさんと高石さんが空いてます。

彼らを連れて行ってください」


杏はしばらく考えた後仕方なさそうに肩をすくめてうなずいた。


「……わかったよ。独断専行が僕の売りなんだけどな」

「売りになりませんし、長生きできませんよ」

「ああ、手柄をあせるよりも生き残ることだ。

知った風なことをいうが、経験則でな」


杏はしばらく黙ったままで、わずかに不穏な空気が流れた。

それからグエンと高石の鍬次郎がやってきて俺たちは4人で狩りにいくことになった。


重厚な門を抜け、ダンプカーに乗り野を超え山を越え、たどり着いた狩り場はゴミ捨て場だった。

いや、埋立地といった方がいいだろうか。とにかくごみ山だ。

ところどころにパイプが埋められ、発酵によるメタンガスが噴出している。


「ひどい匂いだな。まるでスカベンジャーだ。

たしかに獣はゴミに寄ってくるだろうけどな」

「まさにスカベンジャーなのさ。あれを見るといい」


そこにいたのは無数のモノとヒトの融合した小さなバケモノたち。

おおよそ1mほどの大きさでのたうったり、行く当ても無くうろうろとしてたりする。


「あれも妖獣なのか」

「憑喪神さ。捨てられたモノが妖気に当たってああなるんだ」

「ああ見えて強いのか?」


子供くらいの大きさのバケモノたちは不細工なマスコットキャラクターのようでまるで強そうには見えない。


「弱いよ。だから弾を無駄にすることは無い。近接武器でカタをつけよう」


杏は帽子からバットを取り出す。

血にまみれた薄汚れたバットだった。


「わかった、とりあえず殴ればいいんだな?」


俺は鉈を手に持って軽く振る。空を咲く音が鋭く聞こえた、いい感じだ。


「そういうことさ。さあ行こう!」


最初に犠牲になったのは鍋のバケモノだった。

鍋が複数あつまって顔を作り、その下に生々しい人間の足が生えている。

靴の代わりにフライ返しや鍋のふたをはいていた。


俺が鉈をふるうとあっけなく鍋の化け物は両断された。


鍋月グオーユエというんだ。君の最初の獲物だよ」

「そりゃどうも。あっけないものだな」

「まあ、最初はそんなものからさ」


そのほかにも滑稽でどこか悲しい異形のものたちを次々に狩って行く。


アンテナを背骨にして腐ったサメの頭がついたどこへもいけないサメ。

天線魚車ティアンシアンユシェー

脳みそに基盤や真空管が刺さっている代物、くっついているパソコンのモニターに叫ぶ男の顔が写っている。

真空電脳ゼーンコーンディエンナオ

犬の体に壊れた扇風機が頭としてくっついているもの。

風扇狗頭フォンスィンゴウトウ


その他その他その他。


20体を超えただろうか。

少し骨のありそうな奴がいた。

基盤やLED、HDDや砂鉄やガラス、包丁などでできた2mはある小型竜だ。


磁磚竜シズアーンロンだ。ラッキーだね」


肉食恐竜の胴体に東洋風の竜の頭をくっつけたようなフォルムをしたそれは俺の野生を駆り立てるのによさそうな相手だった。


「俺一人でやっちまっていいのか?」

「ああ、君に任せる。どこまでできるのか見せてくれ」


意識のギアを入れ替える。日常から刹那の世界へ。

竜の動きがひどくゆっくりとしたものに見えた。

俺は雄たけびをあげて渾身の力で蹴りを入れる。

それだけで竜はゆらりとぐらついた。


いける、自分の力がしっかりと相手に通じたことを感じる。


竜はこちらにあぎとを向け、咆哮した。

竜の口から紫電が走るが俺はすでにそこにいない。

飛び上がり竜の首に向かって思い切り鉈を振り下ろすとするりと刃は通って首を落とした。

着地し、振り返りざま回転してその勢いを叩き付けるように心臓部めがけて鉈を突き刺す。


そうして、竜はどうと倒れ動かなくなった。


「こんなもんか。倒した、ってことでいいのか?」

「そうだね、文句なしだ。さあ、このへんにして後は必要部位を剥ぎ取って帰ろう」


杏の指示通り解体していく。


「これは何に使うんだ?」


鍋月の頭を剥ぎ取る。


「金属部位は全部溶かして鉄として使うのさ。

妖気の度合いによっては魔術具の材料になったりするんだ

都市の鉱山だよ」


天線魚車の目玉をくりぬく。


「考えたくないが、こいつは?」

「干して魔力電池タリスマンにするのさ」

「食わずにすんでよかった」

「貧困層は食べるけどね」


真空電脳から脳と基盤を別々に回収する。


「食うのか?」

「煎じて飲むんだ。組み合わせれば魔法薬になる」

「基盤は?」

「パーツごとにバラして使えるようだったら売るよ。

風扇狗頭フォンスィンゴウトウは直して扇風機にする」


さて、いよいよ磁磚竜シズアーンロンの解体に取り掛かろうというそのとき。

無線が鳴った。



無線の声は逼迫したものだった。


<お嬢、鬼熊が出やした。現在西に1,5km。こちらに前進中でやす。

狩りやすぜ、覚悟はいいですかい?>


「……被害程度は?」


いつになく真剣な杏の声だ。

被害程度が0ではすまないとわかっているからこその確認。

それだけの相手であると声色が語っていた。


<あっしが腕を一本もっていかれたくらいでさ。気にせずおやんなさい>


鍬次郎の息が荒い。俺は、黙って聞いていた。


「わかった、僕が出るとも。君はグエンといっしょに封鎖を頼む」

<へっ、手柄はくれてやりますよ。存分に暴れなせい>


杏は振り返らずに俺に言った。


「聞いての通りだ。鬼熊という妖獣が来る。

こいつは一度人の味を覚えると何度でも狩ってくる危険極まりない相手だ。

普通の熊をさらに強くしたようなものだ。あと大きい。

時速80kmで走り、急所以外には弾丸は何の意味も無い。

防御力は装甲車並み、軽く触れただけで人がはじけ飛ぶ。

そういう相手だ」


その背中は小さな少女のものではなく、もっと大きな英雄の片鱗を見せるものだ。


「君は出るな、自分の身を守ることに集中しろ。

僕がやられたら……まあ、万一にもないけどね、一直線にグエンたちに向かって飛ぶんだ。

全速力で振り返らずに」


それは、故郷を守る戦士の背中だ。


「ここであいつを止めなきゃ街が食い荒らされる。なんとしても止める。君の任務は隠れていること。できるかね?」


俺はしばし悩んだ。ここででしゃばっても足手まといではないか?

だが、しかし。


「……正直に言ってくれ、俺では足手まといか?もし、違うのであれば俺は戦う

俺はそんなに頼りないか?悪いが、俺にも男の矜持ってもんがあってね」


杏は肩をすくめる。


「素直にいいなよ。女の子に守られるなんてかっこ悪いって。

ああ、足手まといさ、邪魔だ。

でもね、そういう誇り、僕は嫌いじゃないのだよ。

いいさ、胸を貸してやるとも。君が足りなければ僕が補えばいいだけの話さ。

鬼熊なんて君というハンデがあって丁度いいくらいだ」


くそ、かっこ悪いなあ、俺。

どこまで危機感が足りてないんだ。間抜けの見本だ。

おまけに、女にここまで言わせちまうなんて。

だが賽は振られた。ならば全力を見せるのみだ。


「……悪いな。感謝する」


にっと杏が振り返って笑う。


「だけど、途中で泣き言言うようなら僕は君を見捨てるぜ。

失望させないでくれよ!意地を張ったなら張り通せよ!

矜持に命を賭けるんだろう?男なら!」


ああ、いい女だこいつ。

こんな女と轡を並べて戦えるなら、悪くない。


「誰に言ってやがる。言うに及ばず、だ」

「いい返事だ!さあいっちょやってやろうじゃないかね!」

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