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神隠しのその先に~妖兵日誌~  作者: 照喜名 是空
神隠しの先のスローライフ
2/19

居留区

HALは一つ一つ手短に俺の疑問に答えていった。


ここはどこか?

リゾームと呼ばれる妖怪の隠れ里。

なんと世の中には妖怪が存在し、その大部分が人間には認識も出入りも不可能な不可視の結界を張って秘境に隠れ住んでるらしい。

この隠れ里は世界中に存在し、それぞれが魔術的なゲートによりつながっている。

連中は人間が電車に乗るより簡単に都市間でテレポートを行っているらしい。

このゲートにより結合した無数の隠れ里によって出来た一つの異世界。

それがリゾームと呼ばれるもので、俺はそこに神隠しにあったそうだ。


お前は何者で、なぜ俺を助けたのか?

非公式政府機関 AYXZアクシズ局長「HAL」

本名パトリック・R・ハルマン。

世界には妖怪や神隠しといった超常現象が存在し、それに対抗するための機関の一つだそうだ。

奴によれば公になっていないだけで世界には週間単位で世界の危機が訪れているらしい。

超常現象、魔道犯罪、超科学技術。そしてそれらの産物はひとたび間違った形で世に出てしまうと世界は不可逆のダメージを受けてしまうそうだ。

そういった超危険物を取り締まり、犠牲者を救済する機関、それがAYXZであり、その職員がHALらしい。

俺を助けた理由は民間人救助の一環だそうだ。


そのほかにもいろいろと聞いたが、奴が語った事だけがすべてというわけではないだろう。

奴が必要ないと判断した情報は巧妙に隠されていたように思う。


ともあれ、さまざまな質問と回答からひとまず俺はこいつを信用してみようと思った。

今のところは。



「それで、俺はどうなる?」

「現在、救出交渉をしていますが、三ヶ月ほどかかるでしょう。

その間は人間の居留区でお過ごしください。

なお、この端末をこの世界の人間、および妖怪に見せることは推奨されません。

本ナビゲート機能を持っているものはこの世界の人間にとっては敵対勢力と見なされるからです」


バイクを走らせていると見えてきた。茅葺屋根の江戸時代の農村みたいな代物が。


「おいおいナビゲートしてくれるんじゃないのかよ……

それで?どうやって人里に保護を求める」

「私とその卵、ニグレド・オーヴァルのことを伏せてありのままに保護を求めればいいでしょう。

ここの存在や居留区の場所についてなぜ知っているか聞かれたら襲われた妖怪にいわれたとでも言ってください。

どうやって逃げ延びたかと聞かれたらバイクで幸運にも逃げ切れたというように。

他には……」


そういってHALはありとあらゆるシュミレーションとソレに対する回答を俺に聞かせた。


「どうも親切にありがとうよ。それだけ聞けばよっぽどの盆暗じゃない限りは受け入れられるだろうな。

あとは俺の演技力しだいか?」

「さようでございます。では、幸運を」



そうしてついに居留区の門が見えた。

居留区はフェンスで囲われ、まるでインディアンのソレのように見えた。

追い詰められ、保護させてやっている、生かされている代物。

みじめな、ちっぽけなかりそめの領土。


門の場所には門番らしき人間が銃を持って二人立っていた。


「止まれ!何者ですかい」

「道に迷ったんだ。ここはどこだ?あの化け物は何だ!?助けてくれ!」


俺は出来るだけあわてた様子で助けを求めた。


「解りやした、その乗り物から降りてゆっくりとこっちへ来なせい。

あわてずにですぜ、「神隠され」か。災難でやしたね」

「ああ、ひどい目にあった」

「お前さんは幸運な方でさあ。それも信じられないほどのね」


門番は何かの札を俺の前にかざすと安心したようにため息をついた。


「よし、妖怪じゃないようでやすね。門を開けてくだせえ!「神隠され」を保護しやした!」


俺は銃を向けられながらゆっくりと門の中に入っていった。


「おいおい、俺のバイクはどうなる?」

「後で返しますわ、お前さんは俺たちの長に会ってもらいやす」


居留区の風景はのどかな農村、といえばほめた方だろう。

ほとんどが茅葺で、まるで前時代の東北の寒村のようだ。

少なくとも三ヶ月という居留期間をうんざりとした気分に変えさせるには十分な困窮振りだ。


やがて通された村長の家だか何だかはちょっと大きめの農家といった感じだった。

土間を渡り障子をあけ、擦り切れた畳の部屋で待つこと数十分。


「待たせたな、私はこの居留区の守護者をしている「開路かいじしえじ」という。


現れたのは頭に頭巾を被った長身の女性だ。


「昼神太陽だ、よろしく。

悪いがいくつか尋ねさせてもらう。ここはどこだ?俺は元の場所に帰れるのか?」


「そうだな、その説明が先か。君も体験しただろうがここは君のいた世界ではない。

うむ、一種の隠れ里のようなものだ。狐狸妖怪が人の世を隠れて住む化け物の世界「リゾーム」だ。

ここはその中でわずかに残された人間の居留区と思ってくれればいい。

ここでは妖怪に襲われることは無い」


ここで一泊起き、しえじは再び話し始める。


「元の場所に帰ることだが……すまない、われわれでは難しい。

手段はあるし、不可能ではないが相応の金とコネが必要になってくるだろう。

すまないが、かなりの時間ここにいる事は覚悟してくれ」


しえじの説明は真剣で誠意に溢れた態度であり、一見して信用してもよさそうな感じだった。


「わかった。だがここで生活するにしても俺には何も無い。

どうすればいい?」


しえじは澄んだ瞳をまっすぐに見つめながらはきはきとすばやく答える。


「それは安心してほしい。こういう時のために積み立てたいわば準備金がある。

それを渡すし住居はなんとかする。仕事も世話をしよう。

気にする必要は無い。君が持ってくる外の情報だけでもその価値はある」


一見して真面目で誠実な性格だと解る態度だった。


「すまない、世話になるな。じゃあ当面の生活は心配いらないわけか」

「そうだ。それにしても君は度胸が据わっているな。普通君のような遭難者……

「神隠され」は取り乱しているものだが」


いかん、素で対応してしまった。やはりもっと取り乱した演技をすべきだったろうか。


「鈍いだけさ。クソ度胸だけが自慢でね」

「力も強そうだな。それだけの偉丈夫ならばすぐに仕事も見つかるだろう」

「そりゃどうも。あんたは親切な人だな」

「一応、長をしているからな。まあ……なんだ、リゾームへようこそ。

煤けた所だが、なあに住めば都だ」


カラカラと笑う声には一抹の虚しさが含まれていた。


「こっちこそよろしく」

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