さよなら 1
その後、今回の件に関しての経緯を聞いた直樹は呆然と、思考が自分から離れてしまったかのような体で片桐の事務所へと連行された。
このような事態を引き起こすに至った理由 ――――。
この日、片桐からの命令を受けたにも関わらず、それを無視するように事務所を出て行った直樹を怪しむ者が1人いた。
その男に、直樹はずっと尾けられていたのだ。
直樹の行為は、その報告を受けた片桐の逆鱗に触れた。
しかし直樹の立場はというと誰の子分でもなく、破門・絶縁といった形が取れるわけもない。
自らの手では、処分できない。
腹に据えかねた片桐は、東に相談した。
が、その話を聞いた東の答えは「実に頼もしいやないか」という、片桐の期待を裏切るものだった。
客人という身分でこの組織に居た直樹。
今回の件に関しては、片桐の怒りの矛先になることで済まされることになる。
「ワレ、殺したらシャレにならんことになるらしいのぅ。せやったら二度とワシの目ェ見れんようにしたる」
ゴルフクラブでもって、頭以外のあらゆる箇所を殴られる。
怒りの余りか、正常に呂律の回っていない片桐の暴言の中で理解するに、東が言った『頼もしいやないか』という一言は、片桐の癇に障った以外の何物でもなかったようだ。
ボクッ!
ガンッ!!
ガキッ!
鈍い打撃音と同時に更に強張る筋肉は、痛みをやり過ごせない証。
それでも、僅かでも衝撃を和らげようと直樹は体中に力を込める。
果てがないと思われるほどに続く暴行を正座で堪えていた直樹だが、その内耐えられなくなり、床へと横転してしまった。
「この期に及んで、何でワシがお前みたいなモン飼うとかなアカンのや!」
硬いゴルフクラブのヘッドを食らいながら、直樹はもっと堅かったタケシの顔を思い出す。
……話をしよう。
タケシ。
言い訳とちゃうで。
謝罪も含めて、報告がある。
そう思えば、片桐のこの暴行にも耐えられた。
直樹はただひたすらに体を丸め、奥歯を噛み締めて片桐の気が済むのを待ち続ける。
そうしながら、以前言われた「二度とワシに逆らうな」という言葉をぼんやりと思い出した。
どのくらいの時間、殴られ続けたのか。
やがて腕が疲れたのか、それとも自制が効き始めたのか、片桐はようやくゴルフクラブを振り上げる手を下ろし、直樹を解放した。
……どうやら3度目の猶予が与えられるようだ。
今回の件で直樹が失ったものは多大なるもの。
何としてでも直樹が死守したかったお金は、直樹が死ぬ前に片桐に取り上げられてしまった。
この日、記帳のためにたまたま持ち歩いていたスカウト活動で稼いだお金、第2の預金通帳を片桐に引き渡すことで、今回の話はついたのだ。
……生きていれば、また稼ぐことはできる。
何とかそう自分に言い聞かせ、できない納得を心に押し付けた。
直樹は沈みそうな体を引き摺って、事務所を出る。
全身、あらゆるところが痛い。
腫れ上がった各箇所を見るに、体重まで増えてしまったんじゃないかと思うほどの膨らみ方をしている。
動ける状態ではないが、しかしこの日はどうしても帰らなければならない。
車の運転は諦め、タクシーに乗り込み、後部座席で横になってマンションへと向かう。
激痛の走る体を庇い、ポケットから鍵を取り出して玄関を入ると、美奈子が出迎えてくれた。
「アレ、秋月くん。…え、何なんその顔!」
廊下の鏡を覗き込み、今日初めて自分の顔を見た。
自分で思うほどに、別人のような顔になっている。
「今日はお兄ちゃんも早いんやで。もう帰って来てるんやで。……アレ、ひょっとして2人、ケンカした?お兄ちゃんも顔、こーんなになってるんやけど」
「………」
何とも答えがたい現状。
タケシの顔をああしたのは俺なんだけど……
そう考え、白状してしまいたかったが、何とか思い止まる。
壁に手をつきながらリビングへ向かうと、タケシはコタツに入り、そこに座っていた。
……ちゃんと話をしなければ。
自分がタケシにしてしまったことを考え、自分がこれから言おうとしていることを交えたとき、何が先行するのか。
……アレもコレもソレも、全て、美奈子の体を治すため ――――
俺たちの願いはソコでしかない、と。
タケシも先行する部分はソレでしかない。
そう信じてはいたが、話をするまでタケシからどういうリアクションが返ってくるのか心配でならない。
胡坐をかいて座っているタケシ。
こちらを見ることなく、何も置かれていないコタツの上をじっと凝視している。
膝を曲げるのも辛く、臀部も痛い。
座る体勢すらままならないが、ここで自分が横になるのは余りにも不謹慎。
直樹は何とか痛みを押して、タケシと向かい合うようにコタツに腰を下ろした。
「「………」」
もちろんと言わんばかりの沈黙が落ちる。
タケシの表情から、毛が逆立ったような、そんな血色でいるようには見えなかった。
だけど今回の俺の行動は、謝って許してもらえるレベルではないのかもしれない。
ここに来て、そんなことを考えてしまう。
しばらく黙々と時間が過ぎて行く中、やがてタケシがリビングの入口に立っていた美奈子に目を遣り言った。
「美奈子、ちょっと俺ら話あんねん。部屋行って音楽でも聞いとってよ。話聞こえんように。美奈子に聞かれたないねん」
「えー!私、今日見たいテレビあんねんけど」
それを聞き、直樹も口を開くのはこのタイミングしかないと、振り返る。
「美奈子ちゃん、ごめんな。スゲェ真面目な話せなアカンねん。ビデオ録っとくから」
「……分かった。じゃあ今日は我慢するわ」
美奈子はそう言って、自室へと入っていく。
部屋のドアが閉まる音が、静かに聞こえてきた。
それを確認し、直樹は口を開く。
「タケシ、……今日はごめんな」
最初に謝罪の言葉が出てきたのは、自分が今から言おうとしていることが何とか言い訳にならないようにと、そう考えていたから。
「実は俺な、あの事務所に入って結構経つねん。コンビニのバイトとか、大分前に辞めとってん。……あ、嘘吐いとったのもごめんな」
「………」
じっと動かないタケシ。
言わなければならないことを加えながら、直樹も合わせるように静止したままでいる。
長い沈黙の後、タケシがようやく口を利いてくれた。
「……お前な、ごめんとちゃうで、マジで。俺はもう、ほんま……何が何やらもう、こんがらがってもうて、ワケ分からへんのやからな」
「うん……ごめんな。俺もな、どっかで大きな路線変更せな思うてな。短期間にドンと稼ぐんなら、ああいう仕事しかない思うたんよ。……あの後、大丈夫やった?」
「大丈夫なワケないやんけ!梶さんが帰ってきて大ごとよ。何があったんや言うて」
「梶さんってどこにおったん?なかなか戻って来んかったやん」
「あのな。梶さんに言えるわけないやろ、お前のこと!あん時、電話するフリして誤魔化しとったんや。なんぼ梶さんやいうても……なんぼお前のこと知ってる言うても、許さへんやろうからよぅ」
「でも、電話してないならしてないで、マズイんちゃうん?……マズイよ!」
「まぁ、せやけど……その辺はうまくやるよ」
「……そうか。何か、全部ごめんな」
「………」
「………」
そしてまた、沈黙が訪れる。
その内、タケシがおもむろに立ち上がった。
「風呂溜めとってん。ちょっと待っといて。湯、止めてくる」
そう言って、リビングを出て行く。
……思ったよりも怒ってないのか。
先ほど直樹の言った『大きく稼がなければならない』という言葉に何の反応もしなかったタケシに、少し苛立ちすら覚える。
いつまでも外様でいるつもりはねぇ。
直樹はここで決めた。
包み隠さず、全て話をしようと。
風呂の湯を止め、タケシがリビングに戻ってきた。
無言でコタツに入ろうとしたタケシが座る体勢を整える前に、直樹は口を開く。
「おい、お前一体いくら貯まってんだよ?」
「えぇ?何でや?」
「何でって、理由は一つしかないやろ。トボケんな。別に他意はない。ちょっと計算せなアカンのや」
タケシは座るのをやめ、タンスの中に仕舞ってある自分の通帳を取り出して直樹の前に広げて見せた。
「あんまり貯まってへんのやよな……」
そう言いながらタケシが指し示した通帳の数字を、直樹は身を乗り出して覗き込む。
以前タケシの給料がどれくらいなのか、聞いたことがある。
それを踏まえた上で羅列した数字に、直樹は立派だと思った。
昼間の事務所でのタケシの様子を見て、コイツはペーペーの身分で、その体制に甘んじているらしいことを理解した。
俺のようにしろとは言わないが、お茶なんぞ淹れている暇があるんなら、やれることがあるだろう。
あの状況の中、頭の端々でそんな思考を巡らせていた。
しかしこの通帳の金額に、直樹は思うのだ。
自分のできることをやっているのが、タケシ。
その大半が、買いたいものも買わず、やりたいこともせず、我慢で占められているのだと。
タケシの事情と現状を飲み込んだ上で立派だと思った直樹だが、ここで一つ口を出した。
「少ねぇ。何やってんだ、お前」
そう言って、直樹も立ち上がる。
「はぁ?」
というタケシの声を背中で聞きながら。
直樹も自分のタンスの引き出しから、2冊の通帳を取り出した。
それを開き、タケシの目の前にズイッと突き出す。
「俺はもうすでに、お前の倍以上を貯めとる」
示されたその数字を見たタケシが、不審そうな顔で直樹に問う。
「……お前、コレどうやって稼いだんや?」
直樹の頭の中で、意に反した数々の罪と、それに対する罰が交錯した。
全て話そうと思ったが、これは言わなくていい部分。
「どう稼ごうが、金は金よ」
直樹はそうとだけ答える。
そして、勝手に話を進め始めた。
「えっと、まずタケシの○○○万やろ。ほんで俺のコレやろ。ほんでパクウも貯めとんねん。で、パクウが大体○○○万ある言うとったから、……タケシ、もう美奈子ちゃんの手術、できるぞ」
直樹の言葉に対してタケシは何の返事も発さず、固まったままただ通帳のみを見つめている。
「今回な、お前んトコにいっぱい迷惑掛けたけど、明日っからタケシや梶さんトコがどういう風になるんか、俺のせいやけど俺も分からへん」
直樹は指で通帳を指し、何度も数字の上をトントンと叩きながら、
「でも俺らの目的って、コレしかないやろ。人なんて、生きてナンボやろ」
そうタケシに投げかけた。
ずっと黙ったままのタケシの様子を見て、直樹はやがて指を引っ込める。
「……まぁ、……梶さんには悪かったって思うてるけど……」
「………」
沈黙の多い、今日のこの時間帯。
黙り込んでいたタケシも、言葉を選びながらゆっくりと話し出す。
「パクウは……パクウはお前がヤー○やってるの、知ってるんか?」
「言えるワケないやろ。怒られるの分かってるやん。俺はパクウに怒られるのが一番嫌なんや。だから黙ってた。ほんでタケシはアホやから、お前に言うたら絶対パクウに言うと思ったから、お前にも言わなんだ」
「……そうやな。アイツは中途半端アホのくせに理屈で来るから、怒られたらごっつームカつくんよな、って、誰がアホで口が軽いんじゃ!」
「………」
核心を突こうとする直樹と、それを受け流そうとするタケシ。
この話の反りが合わないと。
直樹はこれまでの計画を決定事項かのようにタケシに伝える。
「だからよ、あともうちょっと金貯めてやな、ほんで俺とな、タケシはどっかへ逃げるんや。ヤー○なんて、辞めます、ハイそうですかってできんやん。だから逃げるんや。2人で4~5年、ナリを潜めてモグラ生活するには、少なくとも400~500万は要る思うてんねん」
「………」
「まぁ、実はその金も貯めてたんやけど、今日のことでな……アイツに取り上げられてしもうてん。だから、」
タケシはここまでを聞き、直樹の言葉に割って入った。
「お前らに!……お前らに迷惑は掛けたないねん。特にゼニ金なんて、そんな面倒見てもらうワケにいかへんし、これは俺が何とかせなアカンのや」
核心を突こうとしたタイミングで、直樹にとっては戯言でしかない正論をのたまうタケシに苛立ちを隠せない。
「誰が迷惑掛けられてんねん!そんな風に考えないよ!それに、お前にピーチクパーチク言われる筋合いはない!俺は美奈子ちゃんのために金を使おうとしてるんや。お前はオマケや、オマケ!!」
ここまでしてきた苦労を水の上の泡にされているようで、直樹は今持っている苛立ちをタケシにぶつける。
しかし相変わらず俯き加減のタケシ、まだ折れることをしない。
「……実はな、俺も大きい仕事があんねよ。ソレが終わったらな、手術代全部持ってくれるっていう話やねん。だから……大丈夫やねん。お前らの金使わんでも」
それを聞いた直樹は一度冷静になり、テレビの方へと視線を向けた。
「……お前、その大きい仕事って、テレビの裏のアレとちゃうよな?」
その言葉には反応せざるを得ないタケシ。
「……隠してんの、知ってた?」
「うん。掃除のときにな」
「………」
「………」
直樹は今回のこの沈黙が嫌いだと、自分の中で決定を下す。
その認識と同時に自分の苛立ちに耐え切れず、いささか声のトーンを上げてタケシに言い放った。
「あのなぁ!そんなことしなくていいよ!もう金はあるんや!俺が、パクウがエエ言うてるモンをやな、誰が咎める権利を持っとんねん!?お前、寝惚けてるんやったら先に言えよ!お前の妹が生きるか死ぬかの話をしてるんやぞ!?」
「………」
「俺な、お前がお父さんとお母さんの話、愚痴みたいに言うてるの聞いたことがない。スゴイと思うてんねん。尊敬してんねん。
このご時世に、何が悲しゅうて16歳で家族のために生きていかなアカンのや!?そんなのってないやろ!お前が言わんから俺が言うたるよ!お前の父さんと母さんはクズじゃ!!
だけどな、お前は立派や!俺みたいなモンには理解できんくらいの苦労をしてる。尊敬してんねん。その人のために何かしよう思うてる俺は間違ってるか!?
生きてナンボやぞ!?世の中、生きてナンボやねん!!
死ぬほど辛いの乗り越えといて、その後生きんでどうすんねん!なんぼお前がアホや言うてもバカや言うてもマヌケじゃ言うても、これくらい本能の中で持ち合わせとるやろ!
いいか!美奈子ちゃんもな、お前も俺も、この後ずっと生きて行くねん!変な意地張って、お前ら兄妹で首絞め合うな!!」
大きな声で。
美奈子にも聞こえてしまうかもしれない。
しかし、そんな気遣いには構っていられぬほど、直樹は本音で話をする。
「タケシ!タケシ!!自分が許せんのやったら、全部終わった後にパクウと俺にちゃんとお礼を言え!ほんで今すぐ俺にお願いしろ!自分を許せるんやったらせんでいい!でも許せんのやったら、ちゃんとお願いしろ!」
完全に俯き、黙り込んでいるタケシ。
その肩は小刻みに、時折大きく震えている。
2人だけのこの空間で、言うべきことは言った。
ここが決め時。
半歩たりとも、引くつもりはない。
直樹は息を詰めて、タケシの動向を待つ。
やがて顔を上げたタケシは、その顔をくしゃくしゃにし、声を押し殺し、溢れ続ける涙を拭いもせず直樹に言った。
「……ほんまに、ほんまに、エエんやな?すぐにでも手術できるんやな?……秋月、美奈子を……美奈子を、助けたってくれ…!!」
「――――……ッ」
瞬間、直樹は腰が砕けるほどに全身の力が抜けた。
その場にどさっと座り込む。
「……まぁな。エエよ」
直樹はちょっと笑って、そう返事をした。
これでようやく心配事が一つ抹消される。
そう確信した。
自分がかなぐり捨てたものが、ようやく実を結ぶ。
そう感じずにいられない。
それから2人は今日あった出来事を笑い話に変換し、夜遅くまで笑いながら話をした。
次の日の朝、タケシ・美奈子・直樹はコタツを囲んで話し合いをしていた。
議題はもちろん、美奈子の手術について。
前置きが済み、本題に入ったときの彼女の表情は、実に微妙ではあった。
ただ感慨深いところから来るものなのか、それとも恐怖からなのか。
直樹はそんな美奈子に声を掛ける。
「タケシもパクウも俺も、何があっても駆けつけて一緒におってあげるから、全然怖くないぞ。寝てる間にちゃっちゃと終わってしまうんやから。そのちゃっちゃで、心配事が一つなくなるんやぞ?スゲェな。良かったな!」
「………」
直樹の言葉の後、しばらく3人は黙り込む。
やがて向かい合わせに座っていた美奈子が、声を震わせながら話し始めた。
「……お母さんがな、ごっつーお金掛かるから手術は諦めぇ言うてん。だからね、子どものときから毎日毎日、死ぬのを待ってる感じやったよ。……これって、ほんまに治るん?ほんまに治してもらってエエん?」
そう言った美奈子の顔は無表情と言っていい。
しかしその目からは涙がぼろぼろと、止まることをしない。
「そうやで、美奈子ちゃん。治るんや。治んねん、これが。ほんまに良かったな。あとは美奈子ちゃんが手術のときに、ちょっと頑張るだけでエエねん。なぁ、タケシ」
「……秋月がな、協力してくれんねん。パクウも協力してくれるらしい。悪かったな、美奈子。えらい遅うなってしもうて」
一見重々しく見える、この光景。
しかしそれは、この場にいないパクを含めた4人の希望の光景だった。
美奈子に手術の話をした後、直樹はすぐにパクに電話をした。
大事な話があると。
『何やねん、朝イチから。怖いなー、大事な話って。それは良い大事か、悪い大事か?……まぁ、会うたときに聞くよ』
パクは今から出張で出掛けるらしい。
ここまで話が進んだからには一刻も早く行動を起こした方がいいのだが、どうしても直に会い、一から十まで説明したい。
パクが出張から帰るのは、明日の夕方。
明日の夜、いつもの居酒屋で3人で会う約束をして、直樹は電話を切った。
―――― この俺が、自分で表するのも何なのですが、結構頑張ったと思います。
もうひと頑張りしないといけないのですが、頑張った方だと思っています。
二度捨てられたこの命が役に立てたと思うと、とても嬉しい以外の表し方が見付かりません。
俺が今回、あの2人に対して使おうと必死で貯めたあの紙切れが、血で、涙で、反吐で汚れていようが、何を吸っていようが、俺には関係ありません。
あの紙切れは、俺が随感するがままに邁進した結果なのですから。
あの紙切れが何でできていようと、2人が笑っているので関係ありません。
世の中から、世間の人たちから見たら、俺が頑張ったと表する今回の経緯は、吸い込んで吐き出しても気づかないような微粒子でしかないのかもしれない。
そして、それに関してのこれまでのことを披瀝し、そのときばかりは怒られるのなら甘んじてそれを受け、言われるがままに怒られよう。
その後笑って過ごせるのであれば、俺が怒られるなんてのはそれこそ微粒子と表してやればいい。
彼女の体が心配でしょうがない毎日。
それと、人の生活を無尽蔵に繰り返されると表する、ああいう輩と『さようなら』できる日が待っている。
ここに来て思ったことなのですが、この後待っている生活をモグラ生活と表するのは如何なものかと思い始めた。
聞こえが悪いし、気が滅入りそうだ。
……水禽と表しようか。
それなら世間は見えるし、いつでも飛んで行ける。
これがいいと思う。
水禽生活と表しよう。
その先に待っているのは、ふんだんにパステルカラーを用いた生活であるに違いないのだから。――――




