告白 2
約束してしまったものはしょうがない。
破るのは心外だ。
久保さんとの待ち合わせは19時。
まずパクウたちと会って、その後抜け出せばいいだろう。
告白に関しては…自分で考えるしかないな。
えーっと……
『俺、久保さんのこと、大好きやねん!』
……これじゃ伝わんねぇか。
『俺な、受験頑張って良い高校・良い大学出るよ』
……『あ、そう』って言われそうだな。
う~~~~ん……
声に出し、形にしながらシミュレーションしてみる。
少し大きめのこの独り言は、心拍数の速さに焦っているから。
ソワソワソワソワして、太腿の内側がムズムズする。
早いとこ明日になってくれ。
そう思う反面、
明日俺死んじゃうかもしれへん。
そう考える自分。
玉砕覚悟なんて考えは、これまでの自分の頭には1ミリも存在しなかった。
全てにおいてシミュレーションを済ませ、準備を済ませ、骨組みから設計していく。
計画・準備・行動。
それらをクリアして、完成していた自分。
これまでの自分。
だけど今回は、違うんだよな。
……しかし暑いなー。
これは一体誰のせいなんだよ?
直樹は早く明日になりますようにと思いつつベッドに潜り込む。
しかしなかなか眠れない。
乗り物疲れもあるはずなのに。
仕方なく父と顔を合わせないような時間に食事を済ませ、風呂に入り、明日の用意をすることにした。
制服もNGらしいし。
決め込んだりして『おいおいアンタ、マジやなー』なんてこと言われたら、立ち直れない。
明日はラフな格好にしよう。
クローゼットとタンスを開けて、物色する。
それから予備として買っていたコンタクトを取り出し、
明日は新品のこれで行こう。
そんなことばかりを考えている。
明日のシミュレーションが必要なことは重々分かっているのだが、覚束ない。
『俺と付き合ってください』
そう言った後の紀子の返事が、またNOになった。
恐ろしくてそれ以上踏み込めない。
「~~~~~…ッ」
…そんな、妄想シミュレーション…。
直樹は結局この日は朝まで一睡もできなかった。
眠くて堪らないのに、眠れない。
読書をしてみたり、問題集を解いてみたり、そんなことを繰り返している。
だけど、眠れない。
気がつけば、時計は午前10時を指していた。
……一体どうなってんだよ。
眠れねぇじゃねーか。
睡眠は大事だぞ?
この後一体何が控えていると思ってんだ!!
いい加減にしろ。
無駄な時間を過ごし……
…いや、無駄な時間じゃない。そんなの俺が認めない。
この眠れない時間も必要不可欠。
数時間後に、あれも必要だったんだと思えるはずだ。
しかしまぁ、俺がこんなに気が小さくて軟弱だったなんて、知らなかったな。
玉砕を覚悟するなんて、生まれて初めてだぞ。
ただ、好転して久保さんと付き合えるなんてことになったら……
……毎晩電話で話そう。
いらない、余計なことばかりかもしれないけれど、話したいことがたくさんあるんや。
きっと楽しいと思うよ?
……俺が。
覚悟を決めたこの日、直樹は午前11時を回ったところでようやく寝付くことができた。
次に目が覚めた瞬間、直樹は文字通り飛び起きた。
「ッ!?」
セットしていなかった目覚まし時計、時刻は午後6時20分を指している。
パクとの約束の時間には完全に遅刻だ。
これまで遅刻などしたことのない直樹は、血の気が引いてしまう。
しかしそんな直樹が向かった先は、何故か風呂場だった。
シャワーを浴びているのだ。
落ち着け~!落ち着け~!
いや、落ち着いたらダメだ。
急げ~!急げ~!
急いで風呂を出、髪形を整えて準備をする。
寝坊なんて言語道断だ!
しかも夜の待ち合わせに!
直樹は新しいコンタクトを嵌め、家を飛び出した。
予定では4時前に家を出るはずだったのに、計画は始めから狂いっぱなしだ。
紀子との待ち合わせは○○町の○○○○像の前。
この場所が分からない。
調べてから行くはずだったのに、それも不可能になってしまった。
ちんたらバスに乗っている暇はない。
直樹はタクシーに飛び乗る。
そして、まず向かったのは花屋。
かすみ草とバラの花束を購入して、またタクシーに乗り込む。
最低でも、久保さんとの待ち合わせには間に合わないと。
この花、喜んでくれるかな……。
焦る気持ちとは裏腹に、口元から笑みが零れてしまう。
タクシーの運転手に、
「すいません、○○町の○○○○像前って分かりますか?」
そう尋ねると、
「何じゃ、ソレ」
という返事。
○○町までは行くから、後は自分で探せと言われてしまった。
それならばと、直樹が向かったのはパクたちの待つ場所。
2人に○○○○像がどこか聞こうと思ったのだ。
…また内腿のムズムズが始まった。
焦るな~!焦るな~…!
自分に言い聞かせる。
やがて目的地に着きタクシーを降りると、そこにはタケシとパクがいた。
「おーい!ごめんよ!遅刻してもうて。あのね、」
しかし2人は直樹の言葉を最後まで聞かない。
「お前、どういうことや!?どんだけ遅刻しとんねん!暑い中よう!大概にせぇよ!!」
「あー、ごめん」
タケシはキレ気味でこっちに歩いてくる。
その時、パクが直樹の持っている花束に気づいた。
「お前、何やその花。…そういえば、お前昨日…」
そこでパクの目線が変わる。
「あ、」
直樹もつられるように振り返る。
そこには5人ほどの団体。
…マイティーだ。
「おいおい大林、岡崎。お前らコンビやったんちゃうんか。いつの間にトリオになったんや」
「へッ!何言うとんねん。お前の方こそ、いつもゾロゾロ下っ端連れやがって」
直樹はヤバイと思った。
コイツら、ケンカを始めるつもりだ。
「おい、やめろ!そんなことやってる場合じゃねーんだよ!」
そこでマイティーの顔を見た直樹、以前のことを思い出す。
マイティーにちゃんとお礼を言ってなかったな。
「あのさ、マイティー、この前は……どうもありがとう。ほんとに助かっちゃったよ」
「………」
うまく思い出せないような表情をしているマイティー。
そこに、マイティーの手下であろう1人が叫びながら駆け寄って来た。
「おいマイティー!アイツら見つけた!10人くらいおるぞ!川の向こうにおる!」
それを聞いたマイティーは体勢を変え、
「よし、分かった」
それからタケシに向かって言った。
「おい岡崎、大林も。…お前の名前知らんな。お前も。暇しとるんちゃうか?
今からな、○○高のヤツら相手にいっちょかましたらなアカンねん。
10人おるってや。お前らどうする?」
ハッとする直樹。
タケシとパクの顔を見てみると、すでに2人はニヤケ顔。
3人は同時に返事をする。
「行く!」
「行かねぇ!」
「行く!」
それと同時に、全員が走り出した。
「おいパクウ!」
直樹の声にパクは振り返り、
「直樹!お前は来んでエエ!告白があんねんろ?頑張って来いや!コッチはコッチで頑張るから!!」
そう叫んでパクは直樹に背を向け、走って行く。
…さすがパクウだよ。
全部話さなくても、分かってくれる。
そう。
今日は大事な日なんだ。
遅刻のことも怒らなかったしな……。
…って、違うんだよ!!
道が分かんねーんだよッ!!
「おーいパクウ!!違うって!○○○○像の場所、教えて――――ッ!!」
かすみ草とバラの花束を握り締めて、約10人の不良たちの後を追いかける直樹。
何でこんな暑い日に、こんなに走んなきゃいけないんだ。
せっかくシャワーまで浴びてきたのに!
ジイィィーッ!
ジイィィーッ!
賑やかしい、セミの声。
「うるせーよセミ!!邪魔すんな!!」
八つ当たりもしたくなる直樹、皆に追いつけることなく、ひたすら走って後を追いかける。
だが以前のように、息切れがして走れなくなるということはない。
道を聞きたいのと、
「ケンカなんかやめろ」
それを言うために、必死で追いかける。
「おーい!お前ら!!ケンカなんかやめろ!!そんなことしたってつまんねーぞ!?」
しかし前を走る彼たちに、直樹の声は届かない。
あっという間に川を越えてしまい、先頭では早速睨み合いが始まっている。
相手は体格からして、正に高校生。
10人ほどがこちらに睨みを利かせていた。
見晴らしが良いにも関わらず、人気がないこの場所。
警察が駆けつけるなんて、ありえへんな、これじゃ…。
そう思い、目の前にいるタケシに話しかけた。
「おいタケシ。やめろや。ケンカなんて下らんぞ?
おいマイティー!2人を巻き込むんじゃねーよ!お前らだけで勝手にやってろ!こっちは忙しいんだよ!
なぁタケシ、帰ろうぜ」
マイティーたちは、すでに高校生たちと何やら言い合いを始めていた。
直樹の声にタケシは振り返り、
「アレ、秋月。ついて来たんかいな。お前はエエよ、来んで。ケガするからな」
「………」
はっきり言うと、ムカッ!
そしてカチーン!と来た。
ボクシングを始めたのは、ケンカに強くなるためじゃない。
ただ、いろんな意味で闘える人間に。
そこを乗り越えて、勝てる人間に。
そう願い、始めたこと。
でも、どこかで自分の腕を試してみたい、そう思う自分もいた。
今聞いたタケシの言葉に対して、直樹は考える。
俺のことを馬鹿にしてんのか?
タケシ、今なら俺、お前にも勝てるんじゃないかと思ってるぞ。
そんなことを思ってしまう。
直樹は本当に、2人を止めるつもりでこの場所に来た。
しかし間が空きすぎた。
乱闘が始まってしまったのだ。
パクはすでに、その輪の中。
「タケシ、ほんとにするのか?」
「おう!面白そうやんけ!」
……止まりそうにない。
「もう!勝手にしろ!俺は知らないからな!」
またケガするに決まってるじゃないか!
…頼むから、大ケガだけはしないでくれよ…。
直樹は乱闘に背中を向け、紀子の待つ場所へ向かおうとした。
この段階で、もう完全に遅刻なのだ。
そして、そう。全くもって、油断していた。
歩き出そうとした直樹、いきなり服の襟ごと首根っこを掴まれ、強い力で後ろにグイッと引っ張られる。
ドンッ!
直樹はそのまま尻餅をついて倒れ込んだ。
間髪入れずに、腹の上に跨るように誰かが乗り上げてくる。
「ワレェ、ナニ大事そうに花みたいなモン持っとるんじゃ!?」
呆気にとられている直樹の腹に座ったその彼は、そう直樹に浴びせかけると、振りかぶった拳を直樹の顔面に振り下ろした。
ガツッ!
初めての感覚 ――――
これまで、こんな風に顔を思いっきり殴られた事などない。
頬骨あたりを強打された直樹、メチャクチャ痛い。
そしてその瞬間、左目のコンタクトが外れてしまった。
激痛と、視界の悪さ。
現実のこととは思えていない直樹。
直樹を押さえつけている彼は、全く何もお構いなしに何発も何発もパンチを繰り出した。
俺が下らないと思っている行為の中でも、更に底辺を行くケンカなんてもの。
こんなことやってる場合じゃねぇんだよな。
もっと大事なことがあるんだよ。
……俺の意志、
もう諦めてしもうたんか?
殴られながら、抵抗すらできないでいる直樹。
その直樹に馬乗りになっている高校生に飛び掛ったのは、タケシだった。
「何すんじゃワレエッ!!何シバイてくれとんねん!!コイツ、花持っとるのが見えへんのかぁッ!!」
タケシは彼に怒声を浴びせながら、何発も何発も蹴りを見舞う。
「おい秋月!早よ行けって言うてるやろ!!パクウからちょっと聞いてん!」
今度はタケシが彼に馬乗りになって、パンチを繰り出し、続けて言う。
「メッチャ大事な用事やろソレ!お前が行く前に、ちょっと顔見て冷やかしたろー言うとったんや!
ごめんなぁ、こんなことになって。っていうか、謝るくらいなら最初っからすんなっちゅーねんな!
…くそぅ!お前にそんな女がおったとはな!!」
直樹は尻餅の状態で、タケシの行為を見ている。
「……タケシィ、…ごめんよ」
「ええ?ナニ謝っとんねん!?エエから早よ行けよ!」
そう言い終わるのと同時に、タケシはその高校生に上体を引っ繰り返され、立場が逆転。
今度は殴られ始める。
「喋ってばっかしてから、エライ余裕やのぅ!!」
体格の差は歴然。
直樹の目の前で、タケシが何度も何度も殴られ続けている。
……謝らんでいいよって、
そういう意味のごめんじゃないよ。
さっき、俺がお前に思った非礼を詫びたんだよ。
……俺の柔らかい意志、
何とか持ってくれよ!
直樹はバラの花束を持ったまま、その拳を大きく振り下ろし、高校生を殴りつけた。
「ワン・ツー・スリーッ!
ジャブ・ジャブ・ストレートッ!
俺だってなぁ!何万回も練習してんだよッ!
ナメてもらったら、困る!!」
形勢逆転。
というよりは、タケシと2人がかりでその高校生を痛めつける。
直樹はバラの花びらを散らしながら、あのボクシングジムで習ったパンチの打ち方そのものを、相手に繰り出す。
パクの方も心配だ。
ちらと目を遣ると、パクがうつ伏せになり蹲っている。
それを見下ろす、パクの相手。
パクウ……負けちゃうのか?
他に視界を広げると、マイティー一味も何人かが地べたに寝転がり、「痛い~、痛い~!」と暴れている。
……俺の柔らかい意志、
逃げるなよ。
ここで逃げたら、タケシとパクウに二度と会わせる顔がねぇぞ。
……久保さんに会わせる顔はあるかなぁ。
自分たちの形勢を確認し、ボーッとしてしまう直樹。
また高校生に殴りつけられ、地面に膝をついてしまう。
同時に、後頭部に思いっきりの回し蹴りが襲った。
ボクンッ!
…パクウは?
タケシは?
2人のことが気になってしょうがない。
この間だけは、痛い箇所も忘れている。
右肩がうまく動かない。
殴ったので肩がおかしくなったんだな……。
バラが茎だけになってるじゃないか。
攻撃で肩壊すなんて、まだまだだな。
死んだフリなら裏切りにはならないだろ?
キーンという耳鳴りを聞きながら、直樹はその場に倒れ込む。
気を失ったわけではないが、体がうまく動かない。
まだ粘っているタケシを見ながら、
何やってんだ、俺。
頑張っただろ、俺。
今、何時だろう?
この後、遅れてでも絶対行かなきゃダメだぞ、俺。
砂が唇にくっつくのも気にせず、直樹は横たわっていた。
これ以上の攻撃は堪らないと、死んだフリをすることにする。
そこへ、直樹の肩をくいッと引っ張る人がいた。
……パクだ。
「おい直樹。お前、何で来たんや。こんなコトしとる場合ちゃうやろ。途中まで気付かへんかったわ」
冷静なパクの声を聞き、この場がもうすでに焼け野原になったことを確信した。
おさまったんだな。
そう思い、体をくるっと引っ繰り返した。
……そこら中が痛い。
「……なぁパクウ、これって負けてしもうたってことか?」
「せやなぁ。向こうはササーッと帰ってしもうたわ」
少し、悔しい。
「また仕返しするのか?」
「どうやろうなー。またソコに寝転がってるアホマイティーと偶然会うて、アイツらとまた偶然会うたら始めるんちゃうか」
喋っている間に、パクの顔はどんどん腫れ上がってくる。
「勝つまでやるわけじゃねーんだな」
「ヘヘッ!どっかで勝ち負けの線決めとかんとお前、殺してしもうたら笑えんやないか。
今回は俺らの負けや。なぁ、マイティー?」
気がつくと、マイティー一味もこちらに近づいてきていた。
「おー、そやな。アイツら高校の柔道部やねん。勝たれへんもんやなー」
そう言って、皆が笑っている。
「あーあーあー!直樹!お前、花メチャクチャやないか!茎しか残ってへんやん!
…あ、そうや、タケシ。お前、直樹に何か渡すモンあるんやろ?忘れとったやんけ」
「あー、せやった!」
パクの言葉に、タケシはポケットをゴソゴソしながら近づいてきた。
そうして取り出したのは、裸の状態のネックレス。
「あんな、さっきも言うたけど、コイツからちょっと話は聞いとんねん。
お前、今から女のトコ行くんやろ?
このネックレスな、前に俺が告白する前にフラれた女にあげよう思うて、バイト代と、パクウにちょっと出してもろうて買ったモンなんや。
効き目があるか分からへんけど、俺しばらく使う予定ないから、お前にやるよ」
そう言って、タケシはそのネックレスを直樹の手のひらにチャラン、と落とした。
「箱はドコ行ってしもうたか分からへんねん。使えるんやったら使いや」
「……ッ」
ぐっと来るのを抑えようとする直樹。
「……俺、パクウにも詳しいことは何も言うてへんやんか。何で……」
「まぁ、今日かどうかは分からへんかったけどな、渡しとこう思うててん、一応な」
もう一度、ぐっと来るのを抑え込んだ。
俺、もらってばっかだな。
いつもいつも……。
「……ありがとう」
そう言う直樹の心境は何となく、夢見心地。
殴り倒されたのも初めてなら、自分が何かしようとしたとき、人にこんなに手を差し伸べてもらったのも初めて。
その時、直樹たちの遣り取りを見ていたマイティーが、声を掛けてきた。
「お前、ひょっとして彼女おんのん?何や、何の話やねん。
もし俺のせいでエライことになったんやったとしたら、めっちゃ謝らなアカンやんけ!どういうことや!?」
「おいマイティー、お前、気ィ早いんじゃ!直樹は今から彼女が出来に行くんや。
ま、お前が邪魔したことには変わりないけどな」
ここでようやく直樹は思い出す。
行かなきゃいけない、と。
「そうだよ、パクウ!俺、こんなことしてる場合じゃないんだ!
ここまで着いて来たのも、パクウに○○○○像の場所を聞こうと思ったんだよ!7時までに行かなきゃ!」
するとマイティー一味の1人が、
「7時ってお前、もう過ぎとるで、15分も」
慌てて立ち上がるパク、
「お前、遅刻やんけ!!女性待たすなんて最低や!!こういう時は、ここぞとばかりに紳士ぶらなアカンもんや!
早よ立てェ!!
○○○○像やったらすぐソコや!ここ真っ直ぐ行って、あそこに信号見えたあるやろ?アレ左に曲がって真っ直ぐ行ったらすぐや。
一人で行けるな?俺らみたいなんが着いてったら、結果は目に見えたある。走れ!!」
「わ、分かった!!」
短く返事をして、直樹は立ち上がる。
片手に散ってしまった花束を握り、片手にネックレスを掴んで。
片足を引き摺り、直樹のものとは思えない腫れ上がった顔をブラ下げ、急いで向かう。
紀子の待つ方向へ。




