罰 2
直樹は思わず両手を広げ、窓をバンッ!と叩いた。
そこでようやく父はドアを開け、降りてくる。
慶也に見せた余裕の顔を振舞おう。
こういう時のための、とっておきの音楽が俺にはあるんだ。
そう思っていた直樹だが、一瞬でそれは覆され、とっておきの音楽は蒸気のように消えていく。
「……お父さん、まず聞きたいことがあります。
今回何故、僕ではなく慶也を?たまたまですか?」
「………」
父は相変わらず背筋を伸ばし、ビンとした姿勢で立っているが、こちらを見ない。
「僕は今、2人しかいないと思って話しています。答えてはくれないんですか」
「………」
黙ったままの父。
…ヤケになったつもりはなかった。
しかし、思わず言ってしまった。
「その隣に乗っている人は誰ですか?お母さんは知っているんですか?
どうしてこんな遅い時間に、慶也を一人でタクシーなんかで帰したんですか?
その隣にいる人が原因ですか?」
そこまでを聞いて、父はスーツのポケットから財布を取り出し、それを開いた。
そうして取り出したお金を、黙ったまま直樹の胸に押し付ける。
父の手と直樹の胸に挟まれているのは、5千円札。
しかし直樹は姿勢を変えない。
受け取ろうとはしない。
『これで帰りなさい』なのか。
『黙っていろ』なのか。
直樹の中に浮かぶ選択肢は、その2つしかなかった。
「………」
「………」
何秒ほどそのままでいたのか。
やがて父は直樹に当てていた手を離した。
ハラリと落ちていく5千円札。
父は一度も直樹と目を合わせることなく、再び車へと乗り込む。
エンジン音を響かせ、直樹の横をすり抜けたベンツの後ろ姿はみるみるうちに小さく、あっという間に視界から消えていく。
父と、あの女性を乗せて。
「くそ――――ッ!!」
地面に落ちた5千円札を踏みつけてやろうと思ったが、思いとどまる。
直樹はそれを拾い上げ、パッパッとはたいてポケットの中にしまい込んだ。
暗闇の中、車の去って行った方向を遠く見つめながら、直樹は考える。
……この場合。
慶也が1万で、直樹は5千。
そこも重要ではあったが、それは5番目6番目。
この5千円を拾い上げたのは、俺だ。
誰だってそうなんだぞ。
皆、この地球に重力でへばりついてるんだ。
皆、忘れているのか、知らねぇのか。
……あなただって、その一点にすぎないんですよ。
お母さんはこのことを知っているのだろうか。
ひょっとして、慶也も知ってるんじゃないのか。
……お父さんに、女がいることを。
知らないのは、俺だけなのか?
このまま、あの家で長い年月を過ごす。
そんな俺をイメージしてみよう。
ひょっとして、俺に対する俺のこの評価は、俺だけのものではないか?
……3対1
これが俺の知らないところで組まれた、本当の勝負なのか?
勝負ではないとするならば、こうなった今、
俺は、完全な、蛇足。
きっと、幼い頃から父の屏風に描かれている俺の絵には、口がないのだろう。
蛇足ならば、まだいいのかもしれない。
……ひょっとすると、眉毛から上も描かれていないのかもしれない。
悔しくて悔しくて、しょうがなかった。
しかし今の直樹には何もできない。
先ほど拾い上げ、せっかく埃を払い落とした5千円札をポケットの中で強く握り締める。
―――― 父 母 慶也 俺
今となっては、この順序で評するのが妥当なんだろう。
土井さんはこの家には住んでないから、少し違う。
……できれば顔を合わせたくないんだ。
でも、俺には術がない。
エネルギーがここで補充し、休みをとり、この家で英気を養う。
この家にお金があっても、それは俺のものじゃない。
そんなことは、ずっと幼い頃から知っている。
逃げ出したいと表するには、あまりにもおこがましい、
……小者。
もしこの世にカスという物体があるのであれば、俺はその物体の一片にしかすぎない。
カスという実。
皮が付いているとするならば、その皮が不要なものならば、俺はきっとそのカスの実の皮なんだろう。
……一応、頑張るさ。
もうすぐ受験だからな。
受験に成功しなければ、この家にいる価値がないのは、元からのこと。
『お父さん』
『お母さん』
知っていますよ。
昔からと、これからも、ずっと ――――
この日、学校では何枚かの束になったプリントが配られた。
それは5月にある修学旅行の資料。
3泊4日で行く、関東地方への旅行。
スケジュールを見てみると、2日目の昼から夕方までは浅草での自由時間だった。
「ねぇ、久保さん」
1学期は直樹の隣に紀子の席がある。
「えぇ?なに?」
…その笑顔を見て、
昨夜のことは忘れよう。
いや、忘れるんじゃない、
いったん置いておこう。
直樹はそう思う。
「この自由時間があるやん。浅草ってねぇ、俺の庭なんやで」
今日から少しずつ、関西弁を覚えていこう。
「えー、そうなん?雷門のあるトコやろ?」
「そう。俺、この辺に住んでたんだ」
……嘘だ。
直樹は浅草に行ったことなど、一度もない。
捨てるものが何もなくなった気がした。
そんな直樹は軽快に、紀子の気を引くべく饒舌に話しかける。
「良かったら案内するよ」
「えー、ほんま!?助かるわ。楽しみやねぇ!」
とってもいい返事をもらった。
一気に修学旅行が楽しみになった。
修学旅行が終わったら、次は何を楽しみに……
そんなことを考えたいが、それを押し潰す。
……修学旅行が楽しみだ。
放課後は、いつものようにタケシとパクに会う。
タケシの勉強も大事だが、今日の直樹には一つやりたいことがあった。
「なぁパクウ。パクウみたいな髪型にはどうやってすればいいんだ?
こないだの床屋さんでは任せっきりで、よく覚えれなかってん」
「え?こんな髪型にしたいんかいな。
お前、ほんでもお父ちゃんに怒られるんちゃうか?」
「……いいんや」
「何か変な関西弁使うてるし…。
やりたいんやったら教えるけど」
「だったら俺みたいにせぇや!コレ、パーマやってるから簡単にできるぞ?」
そう言ったタケシの頭をチラリと見て、直樹は
「とうもろこし頭はイヤやわぁ」
即答する。
その言葉に落ち込むタケシを放っておいて、パクは言った。
「じゃあ今日はまず散髪屋やな。またこないだの店、行こうや」
3人はちょうど来たバスに乗り込んだ。
先日行った店に入ると、幸い客はいない。
「あんなぁ、おっちゃん。こいつ、リーゼントにしたいんやって。簡単にできる方法あるかな?」
パクの言葉を聞き、店の主人が答える。
「それならアイパーがエエやろ。髪洗うても、乾かしたらその形になるからな。
あとはポマード付けてコームで馴染ませれば、簡単に出来上がるよ」
「直樹、それでエエか?」
パクの問いに、直樹は返事をする。
「うん、いいよ」
……どうでもいいよ。
本当は。
「前髪切ってもうたら、オッサンみたいになるからな。前髪は長めにしてアイパーかけるぞ」
店の主人の作業はどんどん進んでいく。
「今日はさぁ、お金結構あるから、2人も切ってもらえよ」
そう言う直樹。
いろんな部分で、やけっぱちが顔を覗かせる。
やがて、散髪を終えた3人は店を出た。
「しかし直樹、お前そうやってるとほんまにイカついなー。
エエんか、ほんまに。怒られへんか?」
今日のパクはいつもより、えらく常識人に見える。
しつこいな!!
そう思った。
「……今日はな、悪いんやけど俺、このまま帰るわ。
ごめんな、タケシ」
「お…おう」
いつもと様子の違う直樹に、2人は戸惑っている。
しかしそんな彼らに気づかない直樹は、先々とバスに乗り込み、次の目的地へと向かった。
この地に引っ越してきてから通っている、メガネ屋だ。
そしてメガネ屋から出てきた直樹は、あの黒縁の分厚いメガネを外していた。
コンタクトに変えたのだ。
何だかスースーするなぁ。
直樹の癖だった、人差し指でメガネの真ん中をクイッと上げる仕草。
スースーする違和感から、メガネもないのに眉間の辺りをクイッと押してしまう。
まぁ、そのうち慣れるやろ。
気兼ねがなくなったわけではないが、これがこの日の直樹。
お腹が空いたので、あの家へと帰った。
……俺は、父のあの浮気に対して、嫌悪感を抱いたのか。
男がそういうことをする。
それは何となく知っていた。
特に財を持つ者は、余裕でそういうことをする。
それを、知っていたはずなんだ。
なのに今回の一件、何故俺はこんなに腹を立てた?
逆鱗の境界線を、土足で踏みつけられた感覚。
……きっと、他にある。
『きっと』が、確信に変わった気がする。
……順番、だ。
こうなった今、家族の中の順位というもの。
俺は土井さんの後なのかもしれない。
あの女が我々の段差・格差・順番に、したり顔でランクインすることに対しての、嫌悪感だったのではないか。
きっと、ではなく、確信めいたもの。
ということは、俺自身もやはりよっぽどの奴なのか。
それとも、これは極めて極普通のことなのか。
あの日から、直樹は父とは会話を交わしていない。
家の中にいると、3回ほど目が合った。
忘れない。
3回だ。
2週間後に控えている修学旅行がとても楽しみで、頭の中で旅行のシミュレーションをした後、必ず考えてしまうこと。
その後は、一体何が楽しみになるんだろう……。
高校受験?
頑張っても、いいんだよな…?
その日、直樹は登校前に母に言った。
「お母さん、塾に通いたいんですが、いいですか?」
「ええ?でも直樹さんは塾なんか行かなくても平気でしょ?」
「流石に、受験まであと1年と思うと少し不安があるんです」
直樹はそう言って、自分のことを試してみる。
……不安を感じている。
自分の受験を、頑張ってもいいんだよな…?
そんな思いで、直樹は自分の立場を試している。
「いいですよ。いつから行くの?月謝がいるわよね。
これをお持ちなさい」
そう言って母が財布から出した金額は5万。
「………」
……随分と、小者に見えた。
この人はきっとあの女の存在を知らない。
何て暢気なんだ。
名前を『秋月ノンキ』に変えた方がいいよ。もしくは、ズッコケ。
目の前にバナナの皮を置いてやったら、真っ先に転ぶタイプだ。
……今、『この人』って思っちゃったな。
でも、いいや。
直樹はお金を受け取り、
「ありがとうございます。頑張ります」
いつもの調子でそう言って、外へ出た。
家を出た直樹、しめしめとは思わない。
先ほど母に話したこと、あれは嘘。
だが、このお金は本当に要るのだ。
直樹の目的は他にある。
放課後、タケシとパクに会い、直樹はまたいつもより早い時間に2人と別れた。
直樹が向かったのは、以前から気になっていた場所。
我流のトレーニングに限界を感じてたんだよな…。
見上げた先にあるのは、ボクシングジム。
直樹は何の躊躇もなく入口をノックして、中へと入っていく。
中は異様な雰囲気に包まれ、ミット打ちやその他いろんな音で、声を出しても響かない状態。
直樹は、そうやって汗を流している人たちの間をすり抜け、ズカズカと奥へ進む。
そして1人の男性を捕まえ、話しかけた。
「あの、すいません。この辺にプロレスのジムってありますか?」
「は?」
「プロレスのジムです」
「プ…プロレス?ここ、ボクシングジムですけど……」
「そんなこと、あなたに言われなくても知ってます。
同じスポーツジムなら、プロレスジムも知ってるかなと思って聞いてるんです」
直樹に問われたその男性の顔は、明らかに『何やコイツ』
「……ちょっと待っててね」
男性は奥に入っていき、年配の男性と話をしている。
直樹はそこで漸く、周りの風景を眺めてみた。
そして、思う。
あっちでもこっちでも、鍛えればいい。
……勝てる人間になろう。
グッと拳を握り、自分の上腕二頭筋を見てみる。
これじゃ、今は勝てないんだ。
……勝てる人間に、なろう。
その時、その年配の男性が近づいてきた。
「おいおいおい兄ちゃん!この辺にプロレス団体なんて聞いたことないぞ?
何や、プロレスラーになるんか?」
喧騒に埋もれることのない、その声。
近くにいた生徒が、彼のことを『会長』と呼んでいる。
このジムの一番偉い人だ。
直樹はそう判断した。
「兄ちゃん、身長ナンボあるんや?」
「185です」
「体重は?」
「えっと…確か65kgです」
「ウェルターか…。日本人でウェルターってどうやろな。兄ちゃん、腕ちょっとピッと伸ばしてみ」
直樹は言われるまま、腕を前に伸ばす。
「メチャメチャ長いな!!兄ちゃん、プロレスなんか止めて、ボクシングやれ。ここへ通え!」
直樹は、できればプロレスと思っていただけで、特に拘りはなかった。
何でも良かったのだ。
今思う強みというものを拵え、蓄えることができるのであれば。
「はぁ、別にいいですよ」
「よっしゃー!決まりや!ワシらとチャンピオン目指そうやないか!!」
…チャンピオン?
この人、頭大丈夫か?
俺はそんなもの、目指さない。
会長は直樹が15歳ということを知り、契約書とは別の用紙を用意した。
それは保護者が記入するもの。
月々2万5千円。
直樹はお金を稼がないが、その用紙に関しても、2万5千円に関しても、余裕だった。
手に持っていた5万円を一度に支払い、2ヶ月分の月謝にしたのだ。
家に帰ると母がいるにも関わらず、直樹は両親の寝室に入り、印鑑を取り出し、用紙に捺印した。
筆跡を少し変え、必要事項をサラサラと埋めていく。
まだまだまだまだ、これからだぞ。
こんなことに手が震える必要はない。
お母さんを論破するなんて、容易いんだろう。
お父さん相手だと最悪、……アレもコレも必要だろう。
世間はやたらと広いんだから。
次の日から、直樹はこれまでの時間を清算しようと巻き返しをはかる。
無知で罪な俺。
ボンボンな俺。
慶也が野球を使い、心身を鍛えるのを見て見ぬフリをしてきた俺。
阿呆な俺。
その日、直樹は帰りがけに紀子に声を掛けた。
「久保さん、今日クラブは?」
「今日は休み」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろう」
「ええッ!?どうしたん!?」
「……どうもせんよ」
「どうもせんって……その髪型からして、どうもせんワケないやん。
何かあった?帰るのはエエんやけど」
何かあったに決まってるだろ。
感情に任せてそう言おうかとも思った。
だけど、これはただの八つ当たり。
今日は途中まで久保さんと帰って、その後パクウの家に行こう。
……何かあったに、決まってんだろ……
直樹はバス停まで、紀子を送って行くことにした。
その間話したのは、勉強のこと、修学旅行のこと、紀子のバレーのこと。
この時ばかりは、直樹のイライラは制御できている。
ただ、やけっぱちになっていることに関しては、自分でも驚いていた。
その気になれば、何だってできるんじゃねーか。
いや、違った。
何でもできるんちゃうか。
ネイティブな関西弁。
これも、きっとできるよ。
自慢やないけど、俺は頭がいいハズなんや。
考え事を変えながら、紀子と2人で歩いている。
楽しかった。
―――― 認めよう
喪失したんだ ――――
あれから2週間。
このボクシングジムは2万5千円さえ支払っておけば、休みである水曜日以外、いつ行っても構わない。
直樹は毎日のように通い、汗を流している。
会長に自分の視力が悪いことを知られ、それじゃあ大成できないと教えられた。
別にボクシングで大成なんてしなくていい。
筋肉を付けて、体を大きくしたい。
そう言うと、日本人でウェルター以上の階級なんてあり得ないと教えられた。
階級なんかどうでもいい。
あり得なくて構わない。
毎日毎日サンドバッグを叩き、縄跳びをし、ロードワークをこなし、それに励んでいる。
体を動かすということがこんなに良いものだとは、知らなかった。
とにかく気持ちがいい。
疲れて帰ると、遅くまで起きていられない。
寝る時間が1時間早くなった。
ジムにいる時間と合わせて3~4時間、勉強の時間を削った。
サンドバッグを打つ手を止めると、考え事をしてしまう。
……今頃久保さんは、東京だろうな。
直樹は修学旅行に行かず、この町にいた。
何となく…何となくやが、分かってたような気がするんや。
気づかないようにしておったんだろう。
確かに、小学校の修学旅行には行かなかった。
俺もお父さんと一緒で、意味がないと思ったからだ。
今回は意味を見出し、行く理由があったんや。
意味もあった。
お母さんにはちゃんと、「修学旅行は行きますから」
そう伝えた。
小学校の修学旅行に行ってないから。
その流れで今回も、なのか。
父の意見の元、俺の希望が剥奪されたのか。
……聞かないから、分からへん。
後者だと、信じてしまう。
最近ジムを終え、帰って一人で食べる夕食が、たまらなく美味いんや。
後者だと信じ、認めよう。
……喪失したんや。
全ては1から始まる。
……俺はそう思う。
幻想から始まるもの。
……それもまた1。
思想から始まるもの。
……それもまた、1。
俺がゼロなら諦めよう。
でも、まだ生きています。
それらを網羅するのなら、以前考えた『勝てる人間』の前に、『闘える人間』にならなきゃいけない。
……いや、ならなアカン。
ここまでシミュレーションできた。
直樹はシューズを履き替え、ロードワークを始める。
手が動いていないために、シミュレーションが止められない。
これからはある程度、好きに生きよう。
……ん?
好きに……?
俺はこれまでも、好きに生きてきたな。
好きで、ああ生きていたな。
父親の、何たらかんたら~、ああやって、こうやって、そうやって、こう。
あれは俺にとって、拘束具でも何でもなかった。
直樹は決まったコースを走りながら、思う。
……負担でもなかった。
汗が滴り落ちる。
血液が循環していることを知る。
疲れてはいるが、脳は足を前へ前へと命令する。
これまでの俺に関して、その点において考えたとき。
感情は360度円を描いて、戻ってきた。
……ありがとうと、言うべきなんだろう。
お父さんには。
でも、まだ言わねぇ。
……まだ、言わへん。
……そろそろスイッチを切り替えなアカンな。
こうなると、何もかもを楽しまないと損をする。
直樹は街中を走りながら大声で、
「ンガ――――――ッ!!!」
と、吼えてみる。
今ので、デカ目のスイッチが入っただろう。
こりゃ、なかなか戻って来ねぇぞ。
帰ったら、もう一度久保さんに謝ろう。
約束破っちゃったからな。
……久保さんに会いたいなぁ
久保さんに会いたいなぁ
久保さんに会いたいなぁ
4歩進む間に、紀子のことを思う。
…お、いい感じで調子に乗れてきたぞ。
その調子!
今回嵌め込んだスイッチ。
これもきっと、大事なモンだ。
いや、大事なモンや。
直樹はいつものコースを走りながら、そんな風に思っている。
そしてまたコースを戻り、ジムへと帰る。
修学旅行に行けなかった。
その大きな落胆から、抜けようとしていた。




