第四話
――私が人嫌いになったのには、
深い理由があって。
家への帰路も、一人。
バス通学の生徒が多い中、高校近所の自宅から通っている私と
他数名の地元っ子は、家から徒歩30分以内なら
歩いて通学する、という決まりがある。
こんな面倒くさい決まり、
家まで30分ぴったりの人がかわいそうで仕方ない。
近場の私がそんな事気にする義理は無いけど。
そうやって「とぼとぼ」という表現がピッタリ来る
なんとも間抜けな歩き方で、坂を上る途中。
「渡君って知ってる?」
「2組の転校生でしょ?ちょっと格好いいって聞いた」
ふと聞こえてきた会話。
――あぁ、やっぱり。
噂の循環が素晴らしい国だなぁ。
同じ高校の地元っ子二人、つまり小中学校が同じだった
山根と長谷部。彼女達も前から目立つ、というか他人に好かれる事を望む
タイプで、少なくとも私なんかよりはずっと友達が多い。
最後にあの二人と話したのはいつだっただろう。
まだ皆と仲良くしていた頃は、あの二人ともよく話していた。
多分、中学1年生の辺りで私を丸ごと変えてしまう大きな事件が起きて、
それから。
ぷっつり話さなくなったんだと思う。
「じゃーねー」
「うん、バイバーイ」
二人は交差点で手を振りながら別れた。よく一緒に居る二人だけど、
彼女達はお互いに嫌いな部分があったりしないのかな。
でも、嫌い合うのが人間じゃない?
なんて、心の中で呟いてみる。
渡も私と少し話しただけだけどきっと気に食わない部分もあったはず。
でもなんで昼休み、あんなにしつこく付きまとって来たのか。そう考えると、
あいつは人間としてちょっと異色なのかもしれない、っていうのが浮かんだ。
まぁ私なら大嫌いな人にわざわざ近寄るような真似はしないし。
「もーやだ・・・」
背後からいきなり聞こえた声の主は、
私と同じ方向で帰る仲良しコンビのうちの一人、長谷部。
私が驚いて振り返ると、彼女はギロっとこっちを睨んできた。コワッ。
慌てて向き直り、怯えたような息を吐く。
やっぱ、どんなに自分が相手の事を良い友達だと思っても、
結び合えないものもあるんだ。
私はそれを知ってるから、それを知ったから。
私の最後の「友達」が、実演で教えてくれた、世の中の掟。
長谷部はまるで反発しあう磁石のように
狭い十字路を曲がって、私から綺麗に離れて帰って行った。
おかげでこわばっていた肩の力がすっと抜けて、私の体は心底落ち着いたらしい。
リラックスついでに、と言っては何だけど、風が心地良かったから
早く家に帰りたいと疼く足を無理矢理に止めた。
ふいに目に留まった空が、燃えるように朱い夕焼けの色に染まっていた。
哀しく空を照らして、雲を寄せ付けない夕日が
まるで孤立している自分を思わせる。
すると、
「田村さーん?」
突然、渡の声がした。何であいつがここに、とか、考える事は
他にもたくさんあるはずなのに。
足はアイツの声を辿るために、角度を変えた。
家に帰るのは、後でもいいや。って言ってるみたいに。