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友情同盟  作者: 上月
2/4

第二話

全く、人間というものは噂好きで。


「知ってた?今日編入生来るって!しかもぉ、男子!」


はい13回目ー。

朝からずっと聞いてるから。もういいから。


新メンバーが来るって聞いてずいぶん張り切ってる様ですね。

あんたらのその「編入生」の理想像なんかに興味は無いけど、

きっと頭脳・運動面に関して欠落の無い容姿端麗眉目秀麗な

ナイス・ガイを想像してらっしゃるんでしょーね。


ハッ、(蔑んだ笑い)世の中そんな上手に出来てないっての。


話す相手がいない分他人の話をよく聞く私。

こうして同じ噂が何度繰り返されるのかを数えるのも、

自分の数少ない趣味のひとつだったりする。


馬鹿みたい。


キーンコーンカーンコーン・・・


と、何かとうるさい高校生は静かにしなければ

鳴ったかどうかさえ確認しがたい始業のチャイムが鳴る。


生徒達はぴたっと会話をやめてチャイムを確認すると、

クラスの違う友達に「バイビー」とか言って

別れを告げた。どうせ授業中もずっと二人でメールしてるくせに。


そのチャイムが鳴り終わると同時に教室の戸を

のそのそと開けて威厳も何も無しに入ってきたのは、

うちの担任の細川(国語担当。おそらく50代)。


「えー、今日は編入生が来ましたのでー。」


何の脈絡も複線も無い突拍子な発表がなされた。


知ってる人の方がもちろん多いので特に驚いた人は

いなかったけど、私みたいに喋る相手のいない人たちは

焦ったように目を丸くしてちょっとびっくりしていた。


そのびっくりした人達の中には、「自分と友達になれないかな」的

なあさはかな考えを持つ方もいらっしゃるようで。


甘い甘い。


「え、えー、じゃあ、はい。どうぞ、入って」

この教師、相変わらず体の細さに比例して態度が小さい。

でも教師の中では一番王様らしくしてない教師だから、嫌いではないけれど。


でも性格の悪い私は、何ですかその教師にあるまじきなよなよした態度。

あなた細川って名字ぴったりですねー、と目で訴えて苛めた。


そして細川の弱々しいご招待を受け入れた編入生は堂々と教室の戸を開く。


ばっしぃいぃん


あまりの強さに反動で戸がバウンドしてたけど、

そんな事お構いなし。彼はそのまま戸を開けっ放し状態にして

ズカズカ教卓の前に踏み込んだ。勇気あるね君。


その編入生は居座ってやろうかとばかりにドサッとカバンを落として、

椅子に座る私達を目を細めて見下した。

うつむいた時のその含み笑いが気に食わない。40点。


彼はどこか怖い、ではないけれど普通の人には無いオーラ的なものがあって、

決して「ヨロシク☆」とか言って仲良くしてくれるタイプではない。


「あ・・・ぅ・・・」

でんとした態度で教卓の前に落ち着いた男子は、

細川なんてチキン野郎は簡単に黙らせてしまった。

というか、ひるませてしまった。


「じゃ、簡単に自己紹介して下さい・・・」

細川はそう言いながら恐縮に編入生にチョークを差し出す。

編入生はとっとと貸せよ、というように

強引に細川からチョークを取り上げる。



「・・・・」

編入生はしばらく手にしたチョークを見つめると、

黒板の方へ振り返り2、3歩歩近付いてチョークを走らせた。


黒板にでかでかと書かれた「渡 悠斗」という名前。


綺麗な字とはいえないけれど、読めないわけでもない。

高校生男子らしい、無駄に堂々とした字体。


紡がれた文字を、編入生はもう一度繰り返し読む。


「ワタリ ユウトです。よろしくお願いします」

またその切れ長の目が私達を見下ろす。

・・・・何なんですか。無償にムカつく。


「えー、じゃあ渡くん。机置いといたからあそこに」

細川は私の斜め左下の席を指差しながら言う。

渡はカバンを拾うと言われた通りの場所に座り、

筆記用具だけ取り出して机に置くと、またカバンを地面に落とした。

いや、机にフック付いてんだから引っ掛けろってのよ。


そうして首だけ後ろを向かせて渡を観察していると、ふいに目が合った。

・・・硬直。

切れ長の目から送られる視線は、私にはどこか痛い。

するとヤツはまたさっきの含み笑い。


ムカつくのも忘れて驚いた私が前に向き直ると、

渡の「クスッ」と笑う声が聞こえた。瞬間、恥ずかしさと

忘れていたムカつきが同時にこみ上げて来た。・・・顔が熱い。


前を向いたままだけど、ニヤニヤと笑っている渡の表情が目に浮かぶ。

――体温は下がらないまま、1限目は過ぎる。


あぁもう、何なのコイツ。



「――渡君、結構よくない?近寄りづらいけど」

「わかる、カッコいいよねー。クールっぽくて結構ツボなんだけど」


クールっぽいって、あんた渡と特に喋った事ないでしょ。

名前言うだけの自己紹介と渡とは喋りもしない

たった3時間の授業で人間の何がわかるっての。


昼休み、たった一人で弁当を持って廊下を行く途中

3度聞いた会話に3度同じツッコミを入れる自分。

何してるんだ・・・ここまで来ると自分が哀れになってくる。


その子達は凄まじいばかりの妄想能力で、しばらく

「クールな渡君(という理想)トーク」を繰り広げていた。

私は3階へ降りて行くその子達の背中を

儚げな目で見送ると、一人磁石の極が違うかのように

5階(屋上)へ続く階段を一段飛ばしで上った。

彼女達の声が遠くなっていく。

聞こえてくる音は自分の靴底が階段を上り、

タン、タンと足を踏み鳴らす軽快な音に変わっていた。


「田村さん?」


タン、


と。足を止める。それもそのはず。

私という疎外人間を呼ぶ他人の声が聞こえたんだから。


リズミカルだった靴底の音は消え、

その低い声の余韻が階段を伝って響く。


振り返ると、その声に似合った

背の高い黒髪男。渡だ。


「どこで食べんの?」

聞きながら馴れ馴れしく近付いて来る。

私はわざと、うっとうしいという感情を顔に出した。

しかし妙にこわばってしまって、意外と難しい。

コミニュケーション不足というものだ。


「何その顔」

言いながら渡はまたさっきの

嫌味な感じの笑顔を見せてきた。

というか今の自分、やっぱり変な顔なんだ。失敗。


そう思うとまた顔が熱くなる。

私はそれを悟られないよう髪を耳にかける

仕草をしながら、少し顔をうつむかせた。


すると、渡からの突然の質問。


「誰かと一緒に食べねーの?弁当」


ズキンと来た。


言われると覚悟もしてたし、自分でも分かりきった事なのに。

それでもここで黙っちゃ負けだと思って、必死で用意してた言葉を

思い出して、大人びた声をイメージしながら言う。


「一緒に食べたい相手がいないだけ」


――大失態だ。


自分でもわかった。声は震えていた。

恐る恐る渡を見つめると案の定、「何こいつ」的反応。

怒ったような、そしてムカついたような目で私を見る。


ずっと見てきたからわかる。

これは嫌いな人に向ける視線だって事。


渡はその表情のまま私に言う。


「それ、本当?」


心臓が、大きく揺れる。

同時にこみ上げてきた熱い衝動は、久しぶりに出会うようで、

常に少しだけ向かい合っている哀しい気持ち。


泣きたくなった。


渡はそれだけ言い逃げすると、

いつの間にかどこかに消えていた。


ムカつく。



小説って、やっぱり

難しいですね・・・(しみじみ)

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