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転生したけど、ここガチで中世ヨーロッパだった件。  作者: みっちーザッキー


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19/22

第19話 第二次ルヴァン防衛戦・前段

いつもお読みいただきありがとうございます。


前話では、

第一次ルヴァン防衛戦を生き延びた悠真たちが、

戦場の裏側――

名を失い、制度に削られていく人間たちの現実を目の当たりにしました。


第19話では、

第二次ルヴァン防衛戦を前にして、


・なぜ人足の動員が止まらないのか

・なぜ村同士が争うことになるのか

・なぜこの戦いが「終わらない」のか


という、

**戦争が起きる“理由そのもの”**が語られます。


剣はほとんど振るわれません。

ですがこの回は、


戦争は、始まる前にもう勝敗が決まっている


という現実を突きつける回です。


それでは本編をどうぞ。


灰色の帳簿 ― 数を埋めるという行為


蝋燭の火が、小屋の中で揺れていた。


軍の野営地の片隅。

壁は粗く、床には乾ききらない泥が残っている。


悠真は、粗末な机の前に座っていた。


向かいにいるのは、

黒衣の男――ベルナール。


名前は名乗らない。

それで十分だった。


帳簿をめくる音が、静かに続く。


「……人足が、足りん」


ベルナールが淡々と言った。


「第一次の防衛で、逃げた者、死んだ者、動けなくなった者が出た。

 予定していた“数”が崩れた」


悠真は顔を上げる。


「……だから、追加で村から出したんですか」


「そうだ」


否定も、ためらいもない。


「人足十名では足りぬと見た。

 それだけの話だ」


その言い方が、あまりにも軽かった。


「“と見た”って……」

悠真は喉の奥で言葉を探す。

「人の命を、そんな……」


ベルナールは帳簿から目を離さない。


「命ではない。“枠”だ。

 埋めねばならん数字がある」


その瞬間、

悠真は理解してしまった。


(ああ……)

(戦ってるのは、敵じゃない)


(“足りない”という判断そのものだ)


■ 村が敵になるとき


「……でも」

悠真は食い下がる。

「村同士が争う理由が、どうしても分からない。

 誰も得しないじゃないですか」


ベルナールは、ようやく顔を上げた。


「得はある」


静かな声だった。


「水だ」


その一言で、空気が変わる。


「ルヴァンの北と南では、

 川の流れと取水の位置が違う。

 干ばつが続けば、上流が水を取れば下流は死ぬ」


悠真は思い出す。


灰の村で見た、

苔の生えた井戸。

濁った水。

灰で煮て、やっと飲めた水。


「……水を巡って……?」


「それだけではない」

ベルナールは続ける。

「水は畑を生かし、畑は税を生む。

 税は兵を養い、兵が境界を守る」


淡々とした言葉が、鎖のようにつながっていく。


「境界を守れぬ領主は、

 “守れなかった”という理由で責められる」


「……だから、戦う」


「そうだ。

 戦わねば、“無能”として削られる」


悠真は、背中に冷たいものを感じた。


(誰も、好んで戦ってない……)

(でも、止まれない)


■ ナタリーの沈黙


小屋の外で、足音が止まった。


ナタリーが立っていた。


帳簿の話を、すべて聞いていたのだろう。


「……つまり」

彼女は低く言った。

「私たちは、“失敗できない役”を押し付けられている」


ベルナールは否定しない。


「監督官とは、そういう存在だ」


ナタリーは唇を噛みしめた。


(守るために立っているのに)

(立ち続けることで、誰かを削っている)


その矛盾が、彼女の背をさらに重くしていた。


悠真は、彼女の横顔を見る。


(エマと似ているのは……)

(強さじゃない)


(責任から逃げないところだ)


■ 第二次防衛戦へ


帳簿が閉じられる。


「第二次ルヴァン防衛戦が始まる」

ベルナールが言った。


「今回は、前より“数”が要る」


「……また人足を?」


「ああ」


即答だった。


悠真は拳を握る。


「それで……何が変わるんですか」


ベルナールは、蝋燭の火を見る。


「何も変わらん。

 変わるのは、“削られる順番”だけだ」


その言葉が、胸に突き刺さった。


外では、角笛が鳴り始めていた。


第二次防衛戦への、合図だった。


悠真は立ち上がる。


(理由は分かった)

(でも……納得はできない)


それでも――

列は、もう動き始めていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


第19話では、

戦場の“外側”にある理由――

水、税、境界、そして「失敗できない立場」

について描きました。


剣を振るう前に、

この世界ではすでに多くの人が削られています。


次話から、

第二次ルヴァン防衛戦が本格化していきます。


「なぜ戦うのか」を知ったうえで見る戦場は、

きっと、前とは違う重さを持つはずです。


史実補足


■ 中世における「村同士の争い」


中世ヨーロッパの戦争の多くは、

国家間戦争ではなく領主同士の小規模衝突だった。


原因の大半は以下の通り。

•水利権(川・井戸・用水)

•境界線の不明確さ

•徴税権・通行税

•飢饉や干ばつによる資源不足


これらは「正義」や「大義」とは無関係で、

生き残るための衝突だった。


■ 人足動員の現実


人足は兵ではない。

しかし戦場では、

•荷運び

•塹壕掘削

•死体処理

•補給作業


といった、最も危険で軽視される仕事を担わされた。


不足すれば、追加で徴発される。

それは「判断」であり、「命の軽視」ではなかった。


なぜなら――

制度上、人足は“数”としてしか扱われていなかったからである。

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