表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したけど、ここガチで中世ヨーロッパだった件。  作者: みっちーザッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/22

序章/第1話 理想の崩壊 ― 現代から泥の世界へ

本作は「異世界転生」ではありながら、

剣と魔法のファンタジーではなく――

“史実の13世紀ヨーロッパ” を舞台にしています。


作者自身、中世ヨーロッパ史を長年学び、

そこに潜む「美しさ」と「残酷さ」の両方に魅せられました。


理想を求めて転生したはずの主人公が、

理想ではなく “現実” の中で生き方を変えていく物語です。


※史実補足は毎話の最後に付けています。

難しい知識は不要なので、物語と一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは物語に入ります。

【序章 現代札幌 ― 理想と絶望】


 札幌の冬は灰色だ。

 白い雪は街の排気ガスで黒く濁り、

 まるでこの国の現実そのもののように沈んでいる。


 榊原悠真、二十八歳。

 大学ではヨーロッパ史を専攻していたが、

 学んだのは“理想が血で汚れる”という現実ばかりだった。


 戦争。革命。信仰。

 どれも「正義」を掲げながら人を殺した。


 現実に疲れ、悠真は空想に逃げた。

 アニメ、ラノベ、異世界転生――

 そこには意味があり、主人公は世界を救う役割を持つ。


 「……現代より、中世のほうが絶対マシだろ」


 深夜のワンルームで、カップラーメンを啜りながら呟いた。

 その言葉は、もはや祈りのようだった。


 


 翌日。札幌市立博物館。

 企画展『黒死病と中世ヨーロッパ』。


 錆びた鎖、朽ちた鍬、血の染みた祈祷書。

 そして、嘴のついた黒いマスク――ペスト医師の象徴。


 「……これが俺の理想郷、か」


 背後から声がした。


 「榊原君、まだ中世に逃げてるの?」


 振り返ると、大学の同級生・榊エマ。

 フランス人の血を引く学芸員。

 揺れるクリーム色の髪、知的な琥珀色の瞳。


 「逃げてるんじゃない。理想を追ってるだけだよ」

 「理想ってね、“現実を知らない人”ほど言うの」


 エマは少しだけ優しく笑った。


 「……その理想に、潰されないでね」


 胸の奥に、その言葉が沈んだ。


 照明が一瞬、明滅した。

 展示ケースのペストマスクが、微かに光った。


 「……今、動いた?」

 「榊原君、触っちゃダメ――!」


 ガラスに指先が触れた瞬間、世界が弾けた。


 光の奔流の中――

 金髪の女騎士が微笑んでいた。

 その顔は、確かにエマに似ていた。



【幻想 ― 理想の異世界】


 夢を見た。


 金色の城、青空、魔法陣。

 甲冑をまとった自分は、王から剣を賜り、

 隣には金髪の女騎士――“エマの顔をした理想”。


 「あなたが来てくれてよかった。……私、一人じゃ戦えなかった」


 差し伸べられた手を握る。

 幸福が胸を満たす。


 ――これが俺の異世界。

 世界の中心に俺がいる。


 だが――空が砕けた。


 金の世界は黒く崩れ、

 女騎士は灰になって散った。


 代わりに響いたのは、鎖の音。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第1話 泥の世界 ― 理想の崩壊】


 ――冷たい。


 頬に泥が貼りつく感覚で目を覚ました。

 鼻を突くのは獣の臭いと、血の鉄臭さ。


 木と土で作られた壁。

 藁の寝床。

 隅では豚が眠っている。


 「……ここ、博物館の続き……?」


 本能的にそう考えたが、痛みも寒気も“現実”だった。


 立ち上がろうとした瞬間――

 足首で鎖が鳴った。


 扉が開き、怒号が飛ぶ。


 「働け! 止まるな、奴隷ども!」


 外には泥まみれの人々。

 みな鎖で繋がれ、鞭の音が空気を裂く。


 (……ここ、中世? 俺の知ってる“理想”じゃない)


 泥を握る。冷たく湿り、腐臭がした。


 理想と呼んだ中世は、地獄だった。


 


 「顔を上げなさい」


 鋭く澄んだ声。

 振り向くと、修道服のような衣に鉄の帯を締めた女。


 ナタリー・ド・ブリュノワ。領主家の監督官。


 その横顔を見た瞬間、息を呑んだ。


 ――エマに似ている。


 だが、エマよりもずっと冷たく、強かった。


 「見慣れぬ顔立ちね。どこの民?」

「にほん……日本です!」

 「聞いたことのない土地。……異端かもしれないわね」


 周囲がざわめいた。


 「魔女の使いだ」「呪い子か!」


 理解されないという恐怖が、胸を締めつけた。


 


 夜。奴隷小屋。


 腐ったビールと黒パン。

 「これ……水より安全ってこと……かよ……」


 吐き気をこらえて飲むしかない。

 (そうだ、中世では水が一番危険……頭では知ってたのに……)


 隣の老人が呟く。


 「強い者が祈り、弱い者が死ぬ。それがこの世さ」


 悠真はかすかに笑った。


 「理想も、神も……結局、勝てる奴の都合か」


 エマの声が脳裏で響く。

 『その理想に潰されないでね』


 「……潰されたよ、エマ」


 冷たい風が焚き火を揺らし、

 泥の中で悠真は拳を握った。


 「理想が敵なら――現実で生き残ってやる」


 こうして彼の“理想郷”は地獄に変わった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第一話では、

「現代から異世界へ」ではなく、

“理想から現実へ落ちる痛み” を描きました。


主人公はチートも持たず、魔法も使えません。

それでも彼は、

“泥の世界でどう立つか”を、これから選んでいきます。


次回「第2話:飢えと祈り ― 生き延びる工夫」では、

飢餓と信仰、そして“エマに似ている”ナタリーとのすれ違いを描きます。



【史実補足】


①「中世の水は危険だった」


井戸水は糞尿で汚染され、

菌の概念もない中世では飲めば重病になることが多かった。


→ そのため、“薄い酒・ビール”が日常の飲料だった。



②「奴隷と農奴の違い」


中世ヨーロッパでは、

•奴隷=売買される労働力(戦争捕虜や罪人)

•農奴=土地に縛られた労働者(逃亡不可)


日本の常識とは全く違う社会構造だった。



③「異国の者=異端扱い」


言葉が通じない、文化が違う、服装が違う――

それだけで

「悪魔の使い」「魔女」

と疑われるのが普通だった。



④「ペスト医師のマスクは“象徴”」


現代のような医師ではなく、

信仰と占いに近い存在で、

感染防止もほとんど効果がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ