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8ー2エヴァン3

《許さ…な…わ…!》


真っ赤なリコリスの花がぽつんと一本浮かび上がって見える暗闇の中。

高くすんだ声がとぎれとぎれに聞こえる。


《ぜっ……ゆる……ない!》


怒りを多分に含んだ強い言葉。

その声の主が、誰なのか。

そしてその言葉が、誰に向けられて放たれた言葉なのか。

エヴァンはちゃんとわかっている。


《あな……なん…きら……。 ぶん殴……や……から!》


────うん、ごめん、アティ。


自分がどれだけ嫌われているかちゃんと自覚している。

好かれたかったのに、どう接したらいいかわからなかった。

好かれたかったのに、素直に言葉がかけられなかった。

好かれたかったのに、空回りばかりした。


このままではいけないと猛省して。

学園の最後のテストでエヴァンを打ち負かしてみせた彼女を、心のまま素直に褒めたたえてみたけれど。

返ってきたのは《大っ嫌い》という拒絶の言葉。


きっともうとっくに取り返しがつかないところまで来ていたのだろう。


エヴァンの自業自得だ。


わかっているけれど。


《許…ない…エヴァ……!》


とぎれとぎれに聞こえる声。

それでもこんなに何度も聞こえていたら、言いたいことは十分に伝わる。

声は何度も何度もエヴァンに《許さない》と。

そう言って怒っている。


生前の深い後悔による幻聴だろうか。

それとも、死ぬ前によく見る(聞く)と言われる走馬灯?

どちらにしても、もう少し心穏やかな内容にしてくれればいいのに。

大事な彼女にこんなに何度も《許さない》と言われると、流石に心が痛む。

向こうに一本だけ咲いて見えるリコリスの花(諦めの花)といい、神様という存在は随分と意地が悪いんだな。

そう思って苦笑が漏れた。


その時。

チカリとリコリスの花が一瞬輝いたような気がした。


《許さな…、…ヴァン! このま……しん……ら、絶対に! だから───》


チカリと。

今度は確実に光った。

そう思ったと同時に、今度ははっきりと声が聞こえた。


《────帰ってきて!!》と。


「え?」

今なんて?


思わず漏れた間の抜けた声が、暗闇に吸い込まれていく。


《エヴァン!》


絶えることなく、声が聞こえる。

エヴァンを呼ぶ彼女の声が。

するとその声に反応するかのように、また離れたところにポツンとリコリスの花が咲いた。


《エヴァン! エヴァン!》


何度も何度も。

彼女がエヴァンを呼ぶ声が聞こえる。

そのたびに、真っ暗闇だった不気味な空間に、リコリスの花が咲き誇っていく。


声は何度もエヴァンを責める。

《許さない》、と。

()()()()()()()()()()()()》と。

そうして《帰ってきて》と強く懇願してくれる。


ただでさえ嫌われていたのに。

なのに、また一ヶ月も騙しつづけた。

もう見放された。


そのはずなのに、声はずっとエヴァンを呼び続けてくれている。

暗闇だった空間が、真っ赤なリコリスの花で埋め尽くされるほど。


「ア、ティ」


名前を呼んだ瞬間、涙がこぼれた。

今自分がどこにいるか、どんな状態なのかすらわからないのに。

『彼女が愛しい』。

この思いだけはどうしても消えてくれない。


《エヴァン!》


また花が咲いた。

リコリスの花(諦めの花)が。


「…………『諦めの花』? …………違う、あれは……」


────『再会』を願う花だ。


目を覚まして、と。

帰ってきて、と。

アティがエヴァンの名を呼ぶ度に増えていく、見渡す限りのリコリスの花(再会を願う花)


「なんっで……こんな、にっ…諦めが悪いんだ…!」


彼女が、エヴァンの帰りを待っていてくれるはずがない。

こんな風に何度も名前を呼んでくれるはずがない。


わかっている。


わかっている、けれど。


アティがどう思っていようと。

ただエヴァンが彼女に。


「アティに再会したい(会いたい)!」


そう心から強く願った瞬間、一面に咲き誇ったリコリスの花が、一斉に輝いた。





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