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智人-4・嫌なヤツ

 馬の休憩を挟みながら、馬車は3時間くらい走っている(時計無いから体感だけど)。日没を迎え、周辺が少し暗くなってきた。


「見えてきましたよ、あれが我が父が治めるセイの町です。」

「セイ?西の町?・・・ああ、そっか。」


 東に向かって歩いていて、東から来る馬車に遭遇して乗せてもらったんだから、西に向かうのは当然の成り行きだ。

 バクニーに促され、幌から顔を出して進行方向を見る。確かに、森の出口の向こうに町っぽい物が見える。だけど、かなり遠い。徒歩だったら日が暮れるまでに着かなかっただろう。


「ん?あれは?」


 このまま何事も無く町に着けると思いたかったが、考えが甘かった。馬車の進行方向、森の出口に数体の人影が待ち構えている。


「ひいいっ!モンスターだ!」


 馭者は手綱を引いて馬車を止めようとする。


「ちょっと待ってください!少し落ち着いてっ!」


 馭者はフレッシュゴーレムに襲われたことがトラウマになったらしく、過剰反応をしている。

 だけど、待ち構えているモンスターはフレッシュゴーレムよりも・・・と言うか、俺よりも小さい。醜悪で土色の肌をした背の低いモンスター=ゴブリン1匹と、犬顔のモンスター=コボルト2匹。ゲームやアニメの常識で考えれば、フレッシュゴーレムを瞬殺した俺なら圧勝できる。武器と魔法の基本を学んだバクニーでも充分に戦える。


「・・え?」


 それだけなら余裕だと思っていた。夕暮れなので、近付くまで気が付かなかった。4匹いるうちの1匹・・・いや、1人は、長身で髪型は真ん中分けの、いけ好かない顔の男。


「・・・遠藤くん。やっぱり転移してたんだ?」

「お知り合いですか?」

「ああ・・・うん・・・まぁ・・・」


 遠藤英司えんどう えいじ。出席番号4番。クラスのカースト1軍・藤原グループのメンバー。つまり、俺のことを率先して小バカにする連中の1人だ。



 体育の授業でサッカーをする。俺はディフェンダー。同じくディフェンダーを宛がわれた尊人ミコに寄って行って雑談をしながら、自軍の攻めを眺める。

 ミッドフィルダーの遠藤がボールを奪われ、攻守が逆転。体格が大きい近藤がドリブルをしながら攻め上がってきた。


「きたっ!」


 尊人ミコが近藤に向かっていく。一生懸命に喰らい付くが、運動神経に差がありすぎてボールを奪えない。それでも諦めずに喰らい付いたら、2人は接触をして、細身の尊人ミコだけが弾き飛ばされて尻餅をつく。ボールはこぼれてフリーになった。そこに、敵軍の柳生が突っ込んできて2回ほどドリブルをしてシュートを打つ。キーパーは止められずに1点を取られてしまった。


「何やってんだよ!使えねーな!ジュース賭けてんだぞっ!

 負けたら、俺達のぶんもオマエが払えよなっ!」

 

 遠藤がディフェンスラインまで戻ってきて文句を言う。この試合は負けたチームのメンバーが100円ずつ出して、勝ったチームにジュースを奢ることになっている。俺達は同意をしていないんだけど、遠藤や藤原が勝手に決めた。


 俺に文句を言わないで欲しい。ボールを取られたのは遠藤だし、守り切れなかったのは尊人ミコとキーパーだ。だけど、遠藤は俺と尊人ミコを同罪みたいな目で睨み付けながら、ボールを持ってセンターサークルまで駆けていく。


「ムカ付く。なんであんな奴等の賭け勝負に、俺達が付き合わなきゃなんだよ?」


 文句を言いながら、尻餅をついたままの尊人ミコに寄って行って手を差し出す。尊人ミコは俺の手を掴み、俺に引っ張られて立ち上がった。


「次は頑張って止めなきゃね」


 尊人ミコもジュース賭けには同意をしていない。だけど受け入れている。俺は、尊人ミコの生真面目すぎると言うか、イイ子ちゃんな感じに周りと合わせるクセが少し腹立たしい。



 俺は幌の中に顔を隠す。上がっていたテンションが急激に萎えていく。スルーをしたかった。だけど、遠藤は停車してしまった馬車に近付いて来た。


「その馬車に、バクニーとかって娘は乗ってるか?」

「人間がモンスターと行動を共にしている?オヌシは一体?」


 馭者が対応をするのだが、次の一言が余計だった。


「トクガワ様と同じ服を着ておられる。お仲間ですか?」

「はぁ?『とくがわ』?

 『とくがわ』って、もしかして徳川智人のことか?

 馬車ん中にいんのか?チート(智人の渾名)?」


 相手にしたくない。俺1人だったら、多分、隠れてやり過ごす。だけど、バクニーと馭者がいる状況で、名指しされてしまって無視はできない。

 仕方が無いので、幌を開けて顔を出す。


「や、やぁ・・・遠藤君」


 リアルワールドでは仲が悪かったけど、「異世界に放り出される」という「とんでも」な状況なんだから、「協力しよう」って空気になることを少しは期待した。だけど俺の期待を裏切り、遠藤は俺の顔を見た途端に薄ら笑いを浮かべた。いつもの、俺を小バカにして欲求を満たす時の顔だ。



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