8-2・ピークエクスペリエンス
「富醒発動!ピークエクスペリエンス!!」
急に真田さんの雰囲気が変わったような気がした。でも突っ立ったままなので、何が変わったのか、全然解らない。
「いいよ、尊人くん。思いっきり殴りかかってきて!」
「う、うん」
腹を括って、鞘を握りしめ、真田さんに向かって突進する!
「・・・わぁぁぁっっっっ!!」
真田さんは全く動く気配が無い!だけど、「絶対に殴っちゃう」と思えた僕の攻撃は空振りをした!
「やぁっ!」
次の瞬間には、僕の死角から振るわれた真田さんの鞘が、脇腹に直撃!
「わわっ!!」
軽く叩かれた程度なんだけど、まるっきり想定していない方向からの攻撃だったので、踏ん張りきれずにバランスを崩して転倒する。「痛い」程度で済んだので、直ぐに起き上がった。
「今のなに?」
真田さんが剣を振るう技術は僕以下にしか思えなかった。だけど、僕の攻撃の隙と防御の隙を丸々突かれた。
「真田さん、実は剣道とかやってる?」
「やってないよ。・・・あたしの特殊能力は、こーゆー能力なの」
「突然、剣の達人になる能力?」
「そ~ゆ~のとは違うの」
真田さんは、剣を拾って一振りした。相変わらず腕の振りが剣の重さに負けている。どう贔屓目に見ても、剣の達人や剣道経験者には見えない。
「集中力が爆発的に上がって無意識に近い状態で攻撃や回避ができるの。
でも、剣術がド素人だから覚醒状態で攻撃しても倒せない・・・みたいな感じ。
まぁ、この能力のおかげで、モンスターの攻撃を回避しまくって、
先回りをされないように逃げまくって、尊人くんに会えたんだよね」
「予知能力?」
「なんとなくそんな感じだけど、ちょっと違う感じ。
え~~~とね・・・」
真田さんは、再び剣を置いて鞘を握りしめた。
「実体験すんのが一番わかりやすいかも!
あたしの特殊能力、貸してあげるっ!」
「えっ!?いいの!?」
力石先生が僕に特殊能力を貸してる間に戦死してしまったことを思い出す。でも、今は危険地域ではないし、何かあれば直ぐに返却すれば大丈夫だよね?
「富醒発動!レンタル!!」
目の前に「peak experience」の文字と「全身から放電している人型」が描かれたカードが出現。ピークエクスペリエンスのカードと、リターンのカードが並んでいる。
「ピークエクスペリエンス発動!」
ピークエクスペリエンスのカードに触れて、発動の指示を出してみた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
手足を眺めるが、何かが変わった感触は無い。
「尊人くんがちゃんと発動させてるか試してみるね」
正面に立っている真田さんが鞘を構えた。
「ああ・・・うん。お願いします」
僕も鞘を構えて迎撃の体勢になる。
「ええっ?あたし、特殊能力使ってないよ。
あたしの攻撃を避けてから、あたしを攻撃する気?」
「ああ・・・そっか」
鞘を投げ捨てて真田さんを見詰める。
さっきの真田さんは、僕に特殊能力を説明する為に攻撃の真似ごとをしただけ。今の僕はピークエクスペリエンスの干渉下で、真田さんの攻撃が先程とどう違って感じられるか確かめれば良いだけ。指摘されなければ攻撃する気になっていた僕はアホウです。
「えいっ!」
真田さんが接近してきて振り上げた鞘を振り下ろした。なんでだろ?「鞘だから」とか「相手が女の子だから」って理由もあるからかもしれないけど、全然怖く感じないので、落ち着いて回避をできる。
「やぁっ!」
一撃目を空振りした真田さんが、二撃目を横に薙いだ。スローに見えるってわけじゃないんだけど、鞘を振る前に攻撃のタイミングが解って、楽々と回避できる・・・と言うか攻撃が発せられる前に回避運動ができる。鞘じゃなくて剣で攻撃してもらっても、全て回避できそうだ。
攻撃する気は無いけど、「真田さんのどこを狙えば当たりそうか」が見える。
「この能力すごいっ!使い方次第じゃ最強クラスじゃん!
武器の使い方を覚えたら、無双できるかもっ!」
次の瞬間、真田さんが振り下ろした鞘が、僕の顔面に炸裂!
「んぎゃっ!」
「わっ!なんで避けないのっ!?」
顔面を押さえて蹲る僕と、鞘を投げ出して介抱してくれる真田さん。鞘じゃなくて剣で攻撃してもらってたら、今の一撃で死んでいました。
「ご、ごめんっ!大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ・・・
急にピークエクスペリエンスの効果が切れちゃったみたい・・・」
これが、「レンタルの使用制限」だろうか?
「貸してくれてありがと。
『返却』って言って真田さんのところに戻しておいてね」
いつ効果が切れるのか解らなきゃ、怖くて使えないよ。僕は、ピークエクスペリエンスの使い勝手の良さと、レンタルのポンコツっぷりを同時に理解した。
・
・
・
ピークエクスペリエンス
使用者:真田早璃
意識的にゾーン状態を覚醒させる。集中力をコントロールした冷静な状態で、相手の攻撃を先読みしたり隙を突くことができる。且つ、覚醒状態の時は魔法の制度が上がる。熟練度が上がると、連続使用時間が長くなり、先読みの制度が上がる。
~~~~~
フロー状態=ピークエクスペリエンスの発動中は、攻防のどちらにも作用する。尊人のピークエクスペリエンスが途中で切れたのは、時間切れではなく、早璃に対して「攻撃しない」を意識してしまったから。ピークエクスペリエンスは没入&集中が必須なので、躊躇ったり迷うと発揮されない。
大抵の人は、何かを頑張っていれば、この状態になる経験があると思う。ちなみに作者はこの状態に入ったことは何度かあるけど、意識的にフロー状態になるスキルは無い。




