7-3・守る手段
後から二頭立ての馬車が走ってきたので端に避ける。だけど馬車は僕達の手前で停まった。
(ヤバい奴だったらどうしよう?)
この世界のことは、まだよく解ってないけど、多分タチの悪い奴等が見れば「真田さんみたいな美少女」は「お宝」と変わらない。「うへへっ!良く見たらコイツは上玉だぜ」なんて“悪役あるある”が想像できてしまう。
「僕の傍から離れないで」
僕は心臓をバクバクさせながら真田さんを下がらせて盾になる。
「小僧共・・・行商でノスの町に行くんだが、乗っていくか?」
「・・・ん?」
僕のお父さんと同い年くらいの人が、僕等を見て穏やかに笑う。タチの悪い人ではないっぽい。全然知らない人なんだけど、馬車に乗せてくれるらしい。
「えっ?いいんですか?」
「僕達、お礼するお金無いですよ」
「安心しろ。オマエ等みたいな小僧から金を取るほどケチじゃねーよ」
多分、あと5~6時間は歩かなきゃならない。僕達はお言葉に甘えて、荷物がたくさん積まれた荷台に乗せてもらうことにした。
馬車によじ登って、荷台の隙間に座って、沢山ある荷物に凭れ掛かる。僕は真田さんの顔を見て、チョットだけ笑いそうになった。真田さんは膨れっ面をしている。
理由は、時々話し掛けてくれる親切な馭者さんが、真田さんを男の子だと思っているから。良く見れば美少女って解るんだけど、全体的に平だし、髪はおかっぱで、男の格好して剣なんて持ってるんだから、見間違われても仕方が無い。そもそも、いくら「街道は安全」とは言っても、女の子にはモンスターの襲撃以外の危険もある。誰も「交通量が疎らな40㎞の道のりを、未成年の可愛い女の子が歩いてる」なんて思わないんだろうな。
「男の子って思われた方が安全だよね」
真田さん、村を出た直後に「傷物にされるようなことになったら責任取れ」と言ってた。
ここは日本の街中ではない。もちろん、親切な馭者さんを疑ってるわけじゃない。でも、今後の旅で、モンスターや強盗みたいな奴に襲われる危険性はゼロではない。
「・・・イザとなれば」
情けないけど、モンスターや強盗と戦って真田さんを守り切る自身は無い。でも、一緒に逃げ切る自信は有る。
「先生からレンタルしっぱなしのリターン・・・これがあれば」
リターンで開く光穴は直径1.2m(1.1㎡)くらい。真田さんには我慢してもらわなきゃになるけど、密着して飛び込めば現実世界に逃げることができる。この世界の時間経過は、現実世界の時間経過の50~60倍。消えた僕達を何時間も探す人はいないだろうから、現実世界で少し休んでからこっちに戻れば、危機は去っているはず。
「格好良く『僕に任せて下がってろ』ってやってみたいんだけどさ」
柴田くんならやりそう。でも、僕にはちょっと無理。直ぐに伸されちゃって、真田さんを連れ去られるのが簡単に想像できてしまう。それなら、真田さんの安全確保が最優先。あとでバカにされるかもしれないけど、格好良さなんて気にしてられない。
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僕の決意と緊張感など全面的に無意味で、馬の休憩を挟んで4時間くらいが経過した頃、森の道を抜けて、北の都市・ノスが見えてきた。
「うわっ!凄いっ!!」
木の柵の内側が広い穀倉地になっていて小屋が疎らにあり、その奥に、町全体が高い石壁で覆われていて、塀よりも高くて鮮やかな色の建物が幾つも建っているのが見える。
ペイイスの村ですら隅々まで見て回れなかったのに、眼前に広がるノスの町はペイイスの村の倍くらいありそう。
「ボウズ共、ノスは初めてかい?」
「ボーズじゃねーし」 「はい、初めてです」
北の都市・ノスは、ゴヨク・ゴククア公爵って人が統治しており、帝都と西の都市に次ぐ内地で3番目に栄えた都市らしい。
大きな門の手前に待機していた黒いマントを着けた衛兵さん達が、僕達の馬車を止める。
「ブラークさんと同じマントだ」
最大の命の恩人、ブラークさんのことを思い出す。
「・・・オブシディア騎士団」
「なにそれ?」
僕の独り言を、真田さんが聞き返す。
「北都市に所属する騎士だよ」
「知ってるの?」
「うん、1人の騎士様にすごくお世話になったんだよね。
その人がいなかったら、僕、多分、真田さんが転移をする前に死んでた」
黒いマントの衛兵さんと部下っぽい人が、荷台のチェックをする。「ブラークさんいるかな~」と思いながら眺めたけど居なかった。メッチャ強い人だから、きっと衛兵よりも重要な仕事をしているのだろう。
「この少年達は?」
「少年じゃねーし」
「長男坊と次男坊ですぜ」
「長男坊じゃねーし」
「多分、真田さんは次男あつかいね」
「そろそろ、バカ息子共に仕事のイロハを叩き込もうと思ってな」
「息子じゃねーし」
「『バカ』の方は否定しなくても良いの?」
特に問題無く門を通過。多分、予定していたより1~2時間早く到着できた。




