7-1・黒い目
僕と真田さんがペイイスの村を出てから1時間くらいが経過して、森の道を歩いていた。高い木々で日が遮られていて、少し肌寒い。
僕達を追い越していった馬車が1台と、黒騎士1騎。対面から来て擦れ違った馬車が2台と、黒騎士3騎。これが、「交通量が多いのか少ないのか」は解らない。
「あたしの体感だと、この世界の1日って20時間くらいなんだよね」
「言われてみると確かに1日が短く感じるね」
「こ~ゆ~の、ジャネの法則ってゆーんだっけ?」
「ジャネの法則はチョット違うかな。
僕達は、この世界に来て急に歳を取ったわけじゃないからね」
今のところ道は平坦。僕1人なら6㎞くらいは歩けてるだろうけど、小っちゃい真田さんの足に合わせてるから5㎞経過くらいかな?真田さんがズボン(男装)じゃなくてドレス着てたら、もっと遅かったかも。「もう1時間くらい経ったかな」って話題から、今の会話に至る。
「真田さん、時計無いのにそんなの解るんだ?」
僕、この世界に慣れるのが精一杯で、時間の経過なんて全然気にしてなかった。
「あたし、こっちに来て最初の2日間、洞窟に隠れてたからね。
夜になると怖くて、早く朝にならないかな~って思ったりしてさ、
考えてるより早く朝が来る感じがして、でも夜になるのも早くてさ」
僕もこの世界に来てたくさん怖い思いをしたけど、力石先生に助けてもらったり、ブラークさんに守ってもらえたから、怖い時間は短かった。それなのに「もう無理」って思って大泣きをした。
真田さんは2夜も1人で過ごしたあとで、オークに追いかけられたんだ。今は元気にしてるけど、1人の時は怖くて泣いていたのかな?
「そ~ゆ~のを前提にしてたから、尊人くん達と合流したあとも、
バイトが終わってから次の日の朝になるのが早いな~って感じて、
夜は遊んでないで早く寝なきゃって思ってさ・・・」
智人が噂通りの西の英雄・チートなら、怖がらずに頑張ってるのかな?櫻花ちゃんはどうなんだろ?クラスメイトと合流できてるのかな?
「まぁ、この世界にはテレビやスマホが無いし、本は高いから、
夜になったら、寝る以外にはすることが無いんだけどね。
尊人くん達は、毎日の打合せのあとなにやってたの?」
おーちゃん、1人で怖くて泣いてたらどうしよう?「早く会いたい」と気持ちばかりが焦る。
「直ぐ寝てた?あたしたちは、もうちょっとお喋りしてから寝てたよ」
「きっと、洞窟に隠れてたのは正解だったね。
怖かっただろうけど、ヤバいモンスターには会わずに済んだんでしょ?」
「ん?急になに?話題、スッゲー戻ってない?」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
ヤバい、真田さんが何を話していたのか聞いてなかった。
「ごめん、ちょっと考えごとしてた」
それまで調子良く喋っていた真田さんが、ちょっとだけ膨れっ面になる。
「なんか心配なことあるの?」
「・・・うん」
「誰か心配な人・・・いるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は櫻花ちゃんのことを心配してたんだけど素直に言えない。なんでだろう?多分、真田さんが喋ってるのを無視しちゃったからだね。
「・・・智人が心配でね」
「英雄になって大活躍してるかもしれないのに心配?」
「・・・うん」
誤魔化したけど、嘘は言っていない。
「へぇ~・・・そうなんだ?」
真田さん、さっきまでと違って、喋り方がちょっと淡泊になった。僕は慌てて会話を取り繕う。
「みんな、智人のこと嫌がってた。なんでかな?
真田さんも、智人のこと嫌いなの?」
昨日は僕自身が智人の話題を遠ざけたのに、なんでワザワザ自分から蒸し返してんだろ?
「あんまり喋ったこと無いから、徳川くんの性格はよく解らないんだけどさ」
真田さん、僕ともあんまり喋ったこと無いじゃん・・・と心の中でツッコミを入れる。
「尊人くんって、なんで徳川くんと仲良いの?」
「なんでって言われても・・・」
「尊人くんなら他にも友達いそうじゃん」
確かに、多くはないけど友達はいる。中学の時の友達、バスケ部の友達、1年生の時の友達。でも、僕は人前に出るのがあんまり得意じゃなくて、自分を上手にアピールできない。自分でも情けないんだけど、友達の方から踏み込んできてくれないと会話が続かない。
・
・
・
1年生の時の友達は、2学期になってからやっとできた。それまでは、別のクラスの中学の友達と遊んでいた。バスケ部の友達は、部活後は一緒に遊ぶけど、普段は他の友達と一緒にいる。2年生になる時のクラス替えで、1年生の時の友達は別のクラスに行っちゃった。
課外授業で、智人と同じグループになった。他の人達がトモとあんまり話さないから、必然的に僕とトモが話す機会が多かった。・・・とは言っても、トモが喋りっぱなしで、僕は笑いながら相づちして聞く役。
最初は「何でこんなに喋れるんだろう?」ってくらい話し掛けられて「ちょっとメンドイ」って思った。でも、「今度、一緒にゲームやろう」ってことになって、僕は凄く下手クソなのに、一生懸命に教えてくれた。
時々、喧嘩っぽくなるけど、智人は直ぐに笑ってくれて仲直りできる。
・
・
・
多分、僕みたいに消極的なタイプには、智人みたくガンガンと引っ張ってくれるタイプはちょうど良いんだろうな。
「尊人くん、今のクラスの女子と、全然喋ってないでしょ?」
「急になに?」
今のクラスどころか、女子全般とあんまり喋ってません。3学期の席替えで隣になった真田さんが、時々話し掛けてくれるくらいです。
「バレンタインにチョコもらったことは?」
「お母さんから・・・だけ」
「ゼロってことね」
「・・・・・・うん」
なんで?僕の恥部を暴露してんのに、真田さん笑顔になった。喋り方も淡泊じゃない。今の話が面白かったの?
「徳川くんはね、目が怖いな~って思うことは時々あるかな」
「・・・目?智人の?」
「うん。上手く表現できないけど、徳川くんって、時々黒~い目をしてるの。
黒い目って言っても、瞳の黒眼のことじゃないからね」
「訂正しなくても通じてるから大丈夫」
真田さんの言ってるの、僕にも何となく解る。藤原グループにバカにされた時とか、ゲームでイライラしてる時、智人は怖い目をする。
「そーゆーヤな感じの目で、女子をジロジロ見たりしてるの。
だから、あんまり喋りたくないってゆーか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヤバい。昨日、真田さんの胸(偽物)をジロジロと見てしまった。「あんまり喋りたくない」って思われちゃったかな?
「目黒くんも、ちょっとそーゆーとこあるみたい。昨日、黒い目してた」
良かった。僕の「ジロジロ」は数に入っていないみたいだ。・・・って、そこじゃなくて!
「目黒くんが?僕、全然気付かなかった」
目黒くんが攻撃的になったのは、智人のことで僕と言い合いになった時だけ。でもあの時は、怖い目じゃなくて呆れた目をしていた。僕の思ってる黒い目と、真田さんの言ってる黒い目は違うのかな?
「それは、尊人くんが『心ここにあらず』だったからでしょ」
まだ、真田さんの喋り方が、ちょっと淡泊になった。
「目黒だから『目が黒い』・・・とか?」
僕は慌てて会話を取り繕う。
「なにそれ、さむっ!」
僕自身、真田さんの冷めたツッコミを喰らうまでもなく、言い終わる前に気付いた。「この取り繕い方は絶対に違う」と。言っちゃった僕の方がさむいです。
・
・
・




