智人-6・選ばれし者
物語は、尊人の旅立ちから少し遡る。
俺は、豪華なベッドで穏やかな眠りから目を覚ました。
俺がモーソーワールドに来て、1週間が経過をした。・・・と言っても、モーソーワールドに1週間という単位は無い。
俺の体感では、この世界での日の出から次の日の出までは、リアルワールドの1日より短い。1日が20時間くらいだろうか?そのうちの10時間を働き、10時間を余暇として過ごす。1日が50回で一区切りをつけ(リアルの1ヶ月に該当)、50日を10回繰り返して更に一区切り(1年に該当)とする。
つまり、リアルワールド換算での10歳は、この世界では8歳と380日になる。
「チート様、お目覚めですか?」
直ぐ隣には、体のラインが透けた寝間着姿のバクニーが、幸せそうな表情で俺を見詰めている。
「やあ、バクニー。おはよう」
バクニーは15歳。この世界では、15歳から大人の扱いになり、男と寝ることが公で許可される。ただし、この世界の15歳は、俺が過去にいたリアルワールドの換算では17歳になる。つまり、俺とバクニーは同い年ってことだ。
「おはようございます」
ここは西の都市・セイの中心地にあるディーブ・ホーマン公爵の屋敷。娘のバクニーを助けた縁で才能を買われ、食客をしている。俺は、ここまでのもてなしを望んでいなかったのだが、ホーマン公爵は、よほど俺を手放したくなかったのだろう。愛娘を俺に宛がい、且つ、豪華な食事で俺を引き留め続けている。
「もうしばらく寝ていたいが・・・そういうわけにはいかない。
君の父上にいただいた恩は、キッチリと返さなきゃ」
起き上がり、はだけたガウンを脱ぐ。
「お手伝いしますわ」
「いいよ、自分で着替えられる」
拒否をするんだけど、バクニーが着替えを手伝ってくれる。
「・・・やれやれ」
厚いタイツを履いて、襟の立った上着を着て、最後に白を基調としたマントを羽織る。これが、ホーマン旗下・パルー騎士団の正装だ。俺は、騎士を束ねているわけではないが、マントには騎士長のマークが入っている。
西都市は、ホーマン公爵に忠誠を誓う2万の兵を抱えており、そのうちの特に優秀な1割の者が、白騎士団と呼ばれる。
つまり、俺はエリート部隊の騎士長と同等の待遇を受けてるってことだ。
「さぁ、チート様、整いましたわ」
バクニーが正面に廻り込んで、柔らかな表情で俺を見詰める。これは、俺の愛を欲する顔だ。軽く唇を合わせてやると、バクニーは幸せそうに微笑んだ。高貴なお嬢様らしい顔だ。このお嬢様が、薄明かりだけのベッドの上では、切なそうに俺を求める表情をするのだから、どっちのバクニーが本物なのか、時々解らなくなる。俺が、バクニーの「お嬢様以外の表情」を開放していると考えるべきかな?
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
部屋を出ると、煌びやかなドレスを着たスリムな女性が、廊下の壁に寄りかかって俺を待っていた。バクニーの姉・シリーガル・ホーマンだ。
「チート様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「チート様、今宵は寝所に私をお呼びくださいね」
「おいおい、起きたばかりなのに、もう夜の話か?
やれやれ、俺には、普通に寝るって権利は無いのかよ?」
ベッドの上でのシリーガルは、とても挑発的な表情で俺を求めてくる。バクニーとは違って経験があるらしく、それなりに俺を喜ばせてくれる。
しとやかなバクニー、積極的なシリーガル、俺はどちらも好きだ。2人には幸せになってほしい。
「解った。今夜は君を呼ぶよ。
はははっ・・・あとでバクニーに文句を言われそうだな」
モーソーワールドは一夫多妻制。且つ、才能の有る者は、婚姻関係が無くても、多くの女性を愛する権利がある。そして、貴族は、子孫により良き遺伝子を引き継がせて一族を繁栄させる為、才能有る者に娘を宛がう。
俺としては愛する者は1人いれば充分なのだが、時代が俺の純愛を許してくれないらしい。
ある程度の権力を得て自分の屋敷を持てば、町娘や農婦だとしても、見初めた女性を招き入れて住まわせる権利がある。要はハーレムってやつだ。見初められた女性は、既に婚姻の約束が無い限りは招きに応じる。時として、婚姻関係があるにも関わらず、相手を捨てて招きに応じる女性もいる。権力者の庇護下で一生の安泰が約束されるのだから当然の成り行きだろう。
屋敷を出ると、運転手付の軍馬三頭立てのチャリオットと、白いマントと鎧の騎士10人が待機をしていた。
「おはようございます、チート様!」
真っ先に駆け寄ってきた黒髪の青年は騎士長のホワイ。俺が属する騎士隊の長であり、隊の統率と俺の護衛を任されている。
「やあ、おはよう。今日の行き先は?」
「ミナーシャの町です」
ミナーシャとは、我が町・セイと、南の都市・サウザンの間にある村のこと。片道40㎞の遠征をしなければならない。
「最近、妙な盗賊が暴れてるので、その討伐に向かいます」
「妙な盗賊?」
妙ではない盗賊なんて存在するのだろうか?
「首領が奇っ怪な鉄の騎馬に乗っているのです!」
「なるほど、確かに妙だな」
その瞬間にピンと来た。モーソーワールドの住人が理解できない「奇っ怪な鉄の騎馬」。つまり、リアルワールドの産物。首領は秘境者だ。
「俺が行くしかあるまい。
シリーガルと約束があるのだが・・・夜までに帰れるかな?」
専用チャリオットに乗り、手を軽く上げて騎士長のホワイに合図をする。頷いたホワイと騎士達が馬に跨がった。
「パルー騎士団・チート隊出陣!」
ホワイの号令で、白騎士隊が動き出す。ホワイ騎士長を先頭で、その後を俺の乗るチャリオットが続き、騎士達が俺のチャリオットを守るように囲んで、庭を300mほど進んで正門を通過。整列して待機をしていた歩兵100と合流して町中を闊歩する。
「チート様だ!」 「チート様!」 「チート様!」 「チート様万歳!」
町の民達が道を空け、「英雄チート様」と叫んで俺に手を振る。俺は笑みを浮かべ、彼等に手を振って応える。これも、英雄に選ばれし者の義務だ。
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