6-5・旅立ちの朝
僕には柴田くんや安藤さんが敵にしか感じられなくなっていた。智人の悪口を言わずに仲裁を入れてくれたのは真田さんだけ。凄くありがたいんだけど、頭に血を上らせちゃった僕には、聞き入れる余裕が無かった。
「だったら、テメー1人で行けよ!途中で死んだって知らねーぞ、バーカ!」
安藤さんが凄く嫌な言い方で僕を突き放す。
「うん、そうする」
冷静に考えれば、ただの無謀。だけど僕は、あとには退けなくなっていた。
僕のチーム脱退が決まり、その日の打ち合わせは終了。目黒くんは別の宿に帰り、女子達は部屋に戻っていった。
・
・
・
「なぁ、源」
消灯した真っ暗な部屋の中で、柴田くんが声をかける。
「考え直せよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「頑固だな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
僕は起きている。でも、大喧嘩しちゃった柴田くんに、どう言葉を返せば良いのか解らない。
「俺、オマエがあんなに怒るとは思わなかった。
綿穂がいなければ、ついて行ってやりたいんだけどさ。
綿穂を危険に晒したくないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「源はさ、例えば喧嘩が強かったとしても、
人を殴って支配下に置こうとは思わないだろ?」
柴田くんの質問の意味がよく解らない。
「オマエは、人を抑え付ける力があっても、
人の痛みを優先して考えて行使をしないタイプだろ?」
人を傷付けたいと思ったことは無い。そんなことでしか自己主張できないなんて寂しい。
「でも、チートは違うんだよ。
力を振るいたいけど、力が無いから行使をできないタイプなんだ。
アイツは行使できる力があれば、承認欲求を満たそうとする」
「ああ・・・またその話?もう・・・いいよ」
智人の悪口なら聞きたくない。
「一つだけ約束しろ」
「・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「オマエは大切な友達だ。
行った先で結果がどうなったとしても、必ず帰ってこい。」
「・・・・・・・・・・・うん。ありがとう」
感謝の言葉を返すのが正しいのかどうか解らない。多分、もっと相応しい言葉が沢山ある。でもそんなことより、この村に辿り着いてから今まで、柴田くんには凄く感謝をしている。柴田くんと喧嘩別れにならなくて、少し気が楽になった。
・
・
・
旅立ちの朝が来た。先生の剣を背に縛り付け、革の盾を剣に引っ掛けて背負い、腰帯に大きなナイフと小さい斧を挟む。無一文の旅になるけど、昨日の今日なので「僕の分の稼ぎをくれ」とは言いにくい。でも、僕1人なら何とかなるだろうし、その覚悟はできている。
宿屋を出たら、安藤さんと綿本さんが待っていた。会話はほとんど無いけど、皆が村の出入り口まで見送りに来てくれる。
真田さんの姿はどこにも無い。もうバイトに行った?それとも、昨日の喧嘩で嫌われちゃったかな?
「じゃ、いくね」
「おう」
仲間達に軽く手を振り、踵を返して北西の空を見詰め、腹に気合いを溜めて「必ず戻って来る」「帰ったら皆にどんな顔して会おう」なんて考えながら歩き出す。
「ノスの町まで約40キロかぁ・・・
何も無ければ暗くなる前には着けそうだよね」
「うん」
「尊人くんが、西の町まで一直線に進むつもりなら軌道修正しようと思ったけど、
ちゃんと無理の無い行程を考えてるみたいだね」
「そりゃそうだよ。僕、道の無いところを直進するほど無謀じゃないってば」
「安心した」
「真田さん・・・僕をバカだと思って・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
振り返ったら、旅支度を整えて質素な剣を持った真田さんが、直ぐ後ろを歩いていた。
「え゛っ?え゛っ?なんで??」
「尊人くん1人じゃ、その辺で行き倒れそうで不安だから、
あたしが付いて行ってあげることにしたの」
「さっきまでいなかったじゃん!」
「あたしも旅に出るって言ったら、尊人くんと俊一くんがタッグを組んで
反対すると思ったから、村の入り口に先回りして隠れてたの。
安藤と綿本の許可はあるから安心してね」
「いやいやいやいや・・・安心できない!無理だって!多分、過酷な旅になるよ」
「ん?無理な旅なのに、尊人くんは行くの?」
「・・・そうじゃないけど」
「だったら良いじゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・てゆーか、尊人くん、所持金ゼロで旅立つつもりだったでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「安藤から、尊人くんの稼いだ分を貰ってきたから大丈夫だよ!
ホントはあたしが稼いだ分も欲しかったけど、ダメって言われちゃった。
あたし、道具屋のバイトをバックレることになっちゃうから、
あんちゃんに代わりに謝りに行ってもらうの。
だから、あんちゃんに迷惑かける手数料なんだってさ。
あんちゃんセコいよね~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呆然とする僕の前を、男装の真田さんが通過して先を歩く。僕は、しばらく彼女の後ろ姿を眺めて、「幻覚ではない」と把握してから追いかけた。
「柴田くんと一緒にいなくて良いの?」
「俊一くんと一緒?なにそれ?」
「真田さん、柴田くんのこと好きだと思ってたから・・・」
「はぁ?そんなわけ無いじゃん。一体どこでそう思ったの?」
「・・・なんとなく」
「俊一くんって、あたしがやってる長距離走(陸上部)より、
自分がやってる短距離(陸上部)の方が偉いって思ってるから、
どっちかってゆーと嫌いかな」
柴田くんと同じ陸上部だし、柴田くんのこと下の名前で呼んでたから、仲が良いと思ってた。後発の転移者は、「○○に会いたい」という思いが転移場所に反映されるって聞いている。だから、柴田くんに吸い寄せられたとばかり思ってた。僕と同じように「○○に会いたい」って考えなくて、適当な場所に放り出されたのかな?
「綿本はイイ子だけどね」
「・・・へぇ~」
柴田くんの話をしてるのに、何で急に綿本さんの話題?
「あれ?尊人くん、もしかして、あの2人が付き合ってんの気付いてないの?」
「えっ?そうなの?」
「あんだけベタベタしてたのに気付かなかったんだ?尊人くん、鈍感すぎっ!」
全然気付かなかった。
「あ、あの・・・危険な旅になるかもしれないんだよ」
「そう思うなら尊人くんも引き返しなよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
みんなの前で大見得を切ったのに、旅立って僅か10分で引き返すことなんてできない。
「安全な旅じゃないってことくらいは解ってる。
道中で、あたしがキズモノにされるようなことになったら、
尊人くんに責任取ってもらうからね」
「えぇっ!?」
傷物って、「モンスターに襲われる」って意味?それとも、「女の子の体」的な意味?そんなの押し付けられても困る。傷物が嫌なら、村で温和しくしてればいいのに・・・
「・・・気付けよ、超鈍感男っ!」
真田さんがポツリと呟いた。話題が急に「柴田くんと綿本さんが付き合ってる件」に戻ったのかな?女の子の思考が解らない。
「あのっ!真田さんっ!」
狼狽える僕とは対照的に、真田さんはズンズンと先に歩いて行く。何もかもが納得できないまま、僕と真田さんの2人旅が始まった。
とりあえず、第一章に該当するストーリーが終了。
柴田俊一&綿本綿穂は、これでストーリー退場。柴田は、早璃登場までの繋ぎで、序盤の「世界観に馴染めない尊人」を牽引するキャラ。綿本は柴田のキャラクター性に奥行きを持たせるオマケ扱い。
安藤愛美は、まだ登場しない予定だった。だけど、「尊人にキツく当たるキャラが欲しい」と考えて、尊人を見下すグループから安藤を抜擢することにした。柴田達とは違って、もうしばらく登場する予定。




