5-5・紙の文化
「んん~~~~?なになに?
綿本と安藤、もしかして喧嘩してんの?
わた、いつもみたく、また余計なこと言っちゃった?」
「・・・言ってない」
「言ったろうが!」
「あんちゃ~ん、またキツい言い方してるぅ~!
言葉が足りないところ、ふーみんの喋り方に似てきたよ!マネしてんの?」
「・・・・・よ、よけいなお世話」
「わたは一言余計だけどイイ子!あんちゃんは言葉がキツいけどイイ子!
源も、そう思うでしょ?」
「う、うん」
僕に無茶ぶり(?)をしないでほしい。綿本さんはともかく、安藤さんがどう「良い子」なのか、よく解らない。
「あんちゃんもこっち来てっ!」
「離せ、真田!」
「あたし、あんちゃんと同い年っ!」
真田さんは、椅子に座ってる安藤さんを引っ張り、自分が安藤さんと綿本さんの間に挟まるようにして、3人並んで僕のベッドに座った。今度は綿本さんが距離を空けようとしたが、真田さんは左右の腕を両脇の2人の腕に絡めて逃がさない。
「わたも機嫌直しなさいっ!」
「・・・・・う、うん」
まるで、三姉妹の末っ子が、姉たちの喧嘩を無邪気に仲裁しているようだ。
「よしっ!これで仲直りっ!」
安藤さんと綿本さんは、照れ臭そうに互いを見て、プイとそっぽを向く。まだ「仲直り」って感じではないけど、ちょっと改善された気がして、僕は隣に座ってる柴田くんに耳打ちをした。
「険悪な雰囲気・・・消えたよね?」
「安藤のヤツ、口では拒否ってたが、それほど抵抗せずに真田に引っ張られたな。
綿穂と仲直りしたかったが、タイミングを掴めなかったのかもな」
「ところでふーみんって誰のことだろうね?」
「話の流れ的には藤原・・・かな」
藤原くん、今、この世界のどこかでクシャミしてるかな?
藤原史弥くんは、クラス内では存在感と発言力が一番ある男子。空手が相当強くて、噂では、3年生になったら番長決定とかなんとか・・・そんな人を「ふーみん」扱いする真田さんは凄いというか、高圧的な藤原くんの風貌と「ふーみん」って渾名が全く合わない。
「なぁ、源。なんか話したいことあるんだろ?」
場のギスギス感が収まったところで、柴田くんが話を振ってくれた。
「うん。ちょっと疑問に感じたことがあってね。みんなの意見を聞かせてよ」
今日は本屋に行って色んな本を見た。宿のオーナーにモンスターの本を貸してもらって目を通した。昨日、薬草の本を読んだ時点で違和感があったんだけど、それが確信になった。
「この世界の文明レベルで、紙が一般に流通してるのはおかしいんだよね」
21世紀の現実世界にあるような白くて丈夫な“紙”は20世紀に発明された。製紙工業が確立されて、紙が一般に流通するようになったのは17世紀以降。活版印刷の実用化は15世紀後半。この世界の文明レベルが中世ヨーロッパくらいならば、本なんて、庶民どころか偉い人すらロクに持てないはずだ。
「中世ヨーロッパにあった紙は動物性繊維のメチャクチャ高価な紙。
そんな紙で本なんて作ったら、きっと一冊で何百万円もする。
だけど、本は普通に出回っていて、紙質は藁半紙とか和紙だったよ」
和紙は古くから有るけど高価。藁半紙は19世紀に日本で発明された。
「いくらくらいで売ってたの?」
「僕達のクリアする報酬の3~10回分くらいの価格だった」
「メッチャ高いじゃん」
「紙は一般に出回ってるけど、まだ貴重ってことだね。
でも高すぎてどうにも成らないって値段でもない。
多分、動物性繊維の紙よりは安値で作れるけど、
機械が無くて大量生産ができないからだよ」
要は、紙だけが、この世界の文明レベルとズレているのだ。
「へぇ・・・そんな雑学に詳しいなんて、いかにも根暗って感じだな」
「雑学好きが根暗ってわけじゃないよ。
それに、中世ヨーロッパの紙については、世界史の授業で先生が雑談してたし」
「そこよりも、安藤に“根暗”扱いされたのを否定しなよ」
僕達のクラス以前にも、この世界に転移をした人達がいる。その中の誰かが、この世界に日本の紙の技術を伝えたんだ。
「なるほどな。リアルワールドの中世ヨーロッパとは違って、
魔法文明があってモンスターが存在しているが、
紙が存在していることとイコールにはならないもんな」
「うん、魔法で紙が作れるなら、和紙や藁半紙ってことはないだろうからね」
満足に紙が無いこの世界に紙を広めた。その人は、間違いなく、高い知名度と財産を得ているはず。
「名付けて『異世界転移!紙の技術で大金持ちになる!』だね」
「なんだ、その面白く無さそうなタイトルは?」
「・・・タイトル?」
「根暗の言いたいことは解った。だけどそれがどうしたっての?」
「そこは俺も聞きたい。
源の説はなかなか面白いが、それが今の俺達の状況とどう関係してくる?」
「え~~~と・・・それは」
「紙の発明者が私達の同級生なら頑張って探すけどね。
関係無い人探しても意味無いでしょ」
「うん・・・そ、そうだね」
柴田くんと安藤さんと綿本さんに全否定された。
「結局は、根暗がウンチクを垂れたかっただけかよ」
「 (T_T) 」
だいぶ良い着眼点だと思ったのに、思いっきり空振りをしてしまったらしい。
5-4を描いている時に、中世ヨーロッパの本事情を調べて、紙が一般的ではなく本は凄まじく高価と知った。既に作中に本が登場しているので、「描き直すか?」「直すならどう代案を立てるか?」を考えた結果、「誰かが日本の紙の技術を持ち込んだ」ことにした。ちょっと強引な解釈だけど、機械による大量生産はできなくても、知識さえ有れば人力でなんとかなるってことで・・・。




