智人-1・転移~俺の求めた世界
第0話でメインを務める徳川智人は主人公ではありません。
このジャンルは初挑戦なので、慣れないなりに「あるある」っぽい展開をイメージしてベースにしながら、「異世界をすんなりと受け入れられるキャラの視点」で、世界観の説明をするストーリーになるように心掛けました。
俺は真っ暗な空間に浮かんでいた。
「俺・・・死んだのかな?」
授業中に窓の外を眺めたら、教室全体を潰すくらいの大きな隕石が突っ込んできた。そこまでの記憶しか無いってことは、隕石の直撃を喰らって死んだんだろうな。
「まぁ・・・いいか。
どうせ、たいして面白くもない毎日を送っていただけだし・・・」
中学時代の俺は「陰キャ」ってヤツだった。それが嫌で、高校に入学をしてから存在感を発揮するように頑張った。おかげで1年生の1学期~2学期は周りからはチヤホヤされた。だけど、3学期になると上手く行かなくなって・・・2年生でクラス替えをしてからは、スクールカーストの頂点に立つ為に、もう一度、頑張るつもりだった。だけど、腕っ節の強い嫌な奴と同じクラスに成ってしまった。奴は1年生の時に、俺をスクールカーストの底辺に突き落とした張本人だ。
奴さえいなければ、俺はもっと評価されたはず。環境が悪かったせいで、俺の高校デビューは失敗に終わった。奴の影響で、クラス内の9割が俺を見下していた。
だから、「学校が爆発して、みんな居なくなればいいのにな」「俺を底辺に貶めた奴等、死んでくんないかな」と思ったこともあった。・・・だけどさ、まさか俺ごと死ぬとは思ってなかった。
「・・・ん?」
背後から光に照らされたので振り返る。
〈ボクにアクセスしたのはキミだね〉
声は光から発せられていた。
「アクセス?なんのことだ?」
〈キミは我がメッセージに応じてくれたんだ〉
そう言えば、昨日、オンラインゲームをやってる途中で、妙なメッセージが入った。
「あのメッセージが?」
ちょっと薄気味悪いと思ったけど、所詮はゲームだから気楽に考えてメッセージの要求に応えた。
「まさか、俺が記した奴等は・・・?
〈全員がキミと同じ状況になっている。
記されていない数名が道連れになったが、それは誤差の範囲内〉
「・・・マジかよ?」
〈ただし、キミと他の連中には、大きな違いがある。
今からキミ達全員が転移する世界は、キミには優しい世界だ〉
現代とは違う世界=【モーソーワールド】に転移をする。
モーソーワールドは、中世ヨーロッパに似ている。
言葉と文字は通訳された状態で脳が認識をする。
モーソーワールドは、モンスターが存在する剣と魔法の世界。
学べば剣や魔法を使えるようになるが、転移をした時点では熟練度はゼロ。幼少時から剣や魔法が身近にあったモーソーワールドの住人には適わないので、代わりに特殊能力=【富醒】を与えられる。
「転生ではなく転移?」
〈今現在、キミ達は死んだのではなく仮死状態に成っている。
現実世界に戻ることも可能だ〉
同時期に転移をした者は誤差を含めて【計51人】。全員が3日分の生命力をBETする。
リアルワールドに戻る場合は、同時に転移をした者のうち、生き残っている全員の多数決により「帰りたい」が多数派になる必要がある。
モーソーワールドで死んだ者は、多数決を棄権した扱いになる。
同時期転移者の残数が4割以下以下になった時点で、多数決の多数派意見ではなく、全員の意見一致が必要になる。
多数決の状況は「オープン」と叫べば把握できる。ただし、転移者全員ではなく、転移者のうちモーソーワールドで出会えた数値のみ。
「モーソーワールドで死んだらどうなる?
リアルワールドでの仮死状態の維持は変わらないのか?」
〈仮死には変わりないが“静かに眠るような仮死”ではなく“瀕死”になる〉
モーソーワールドで200日が経過した時点で、リアルワールドで停止をしていた時間が動き出す。その時点で、モーソーワールドで脱落した者は、帰還する権利を失う(瀕死者の死が決定する)。
転移の時間と場所には誤差がある。つまり、全員が同じ場所からスタートするわけではない。
誤差として転移に巻き込まれた者達は、一定の優遇措置として、「○○に会いたい」という思いが転移場所に反映される。
〈リスクに巻き込む代わりに、相応の報酬は用意する〉
多数決によるリアルワールドへの帰還を果たした場合、多数派の意見を纏めてた代表者は、1つ願いを叶えられる。知能、運動神経、金、容姿、権力、どんな願いでも可能。ただし、リアルワールドの常識の範囲内。つまり、「大統領になりたい」という願いは叶えられるが、「世界を征服する」という世界常識を覆す願いは叶えられない。
「多数決で願いか・・・。
それも悪くないけど、帰還を望むかどうかは、
モーソーワールドってところの居心地を体験してから決めるよ。
ところで、転移時にもらえられる特殊才能・・・富醒だっけ?
それは、魔法を使えるとか、剣の一振りで山を割るとか、そ~ゆ~ヤツか?」
〈転移者それぞれ、その性格や才能に適合した富醒を持つ。
キミの富醒は、想像を攻撃力に変える【イメージ】だ〉
特殊才能・富醒は熟練度が上げるほど高い効果を発揮できるようになる。
「モンスターと戦ってレベルアップすれば強くなるって感じか?」
〈熟練度は熟練度だ。数値で表現をする概念は無い〉
「レベルの数値化が無いなら、どうやって自分の強さが解るんだ?
まぁ、いいや。モーソーワールドに行って色々試してみれば解るか」
〈一通りの説明は終わった。さぁ、行きたまえ。
キミが降り立つのは、帝都テーレベールと西の都市・セイの中間、
西の宿場町・ミドオチスの西側だ。
日の出と日没、方角の概念はキミの常識で解釈して良い〉
「えっ!?町に送ってくれるんじゃないのか?」
〈住人達の目の前に、急にキミが出現したら、皆驚いてしまうだろう?〉
背後に光が注してきた。振り返ると、真っ暗な空間に穴が空いて、その先には鬱蒼とした木々が見える。
「あの・・・君はいったい?何の為にこんな・・・」
それなりに状況は把握できたが、この世界を用意した奴が何者なのか知らないままだ。振り返って声を発する光を見たが、もうその場に彼はいなかった。
背後から景色のある空間が迫り、真っ暗闇を消し去って、俺は森の中に立っていた。
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「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
周囲を見廻す。どっちを向いても樹木しか無い。一応、幅4~5m土の一本道はあって、それが人工物ってことは解る。
「ここを歩いて行けば、町に行けるのかな?」
格好は学校のブレザー姿のまま。声は「帝都テーレベール」とか「西の都市・セイ」などと、人が住む場所の存在を示していたが、城や町はどこにも見えない。本当にモーソーワールドって異世界なのだろうか?「日本の何処かの樹海に置き去りにされただけじゃね?」と疑いたくなる。
「とりあえず、東に行けば宿場と帝都・・・西に行けば町が在るってことか?」
声の主からのプレゼントだろうか?足元には「如何にも初期装備」って感じの鞘に収められた質素な剣と、食料の入った袋が置いてある。
「やれやれ・・・『ここからは自力で何とかしろ』ってか」
この世界の状況を確認するなら、帝都に向かうべきだろうか?お約束の冒険者ギルドがあって、冒険者が集まってるのだろうか?剣と食料袋を持って一歩目を踏み出そうとして、重要なことに気付く。
「あれ?・・・東ってどっちだ?」
空は明るいが、木々が邪魔で陽が何処にあるのか解らない。仮に陽が見えたとしても、今が何時なのかも解らないので、陽の位置から方角を推測することもできない。もう少し詳しく聞いておくべきだった。
「さっきので全部説明したつもりかよ?
神かゲームマスターかは知らないけど、随分といい加減だな」
食料袋にコンパスは入ってないのだろうか?中を確認したら、八つ折りになったA2サイズの紙があった。開いたら地図が表示されて、一点が点滅している。
「魔法の地図・・・か?」
この世界がどの程度の大きさなのか解らないけど、仮に日本と同じ大きさだったとして、A2サイズの日本地図を見て「最寄りの町が何処に在るか?」を確認するなんて不可能だ。困惑しながら点滅を触れたら、その付近が拡大される。
「すげえ!これ、ただの印刷物と違うっ!魔法の地図だっ!」
点滅は現在地。拡大された地図を開きながら土の道を100歩くらい歩いたら、点滅が移動した。地図上でピンチインをしたら地図が広域になって、歩いた方向に帝都テーレベールが在ることを確認する。・・・とは言え、100歩進んだ程度では地図上の距離が全く縮まっていない。
「2~3時間歩いたくらいじゃ着かないぞ。
使えない神だな。ムカ付く。
もう少し、町が近いところからスタートさせるか、自転車くらい支給しろよ」
適当に地図のピンチイン&ピンチアウトやスワイプをしていたら、近くに小さな村があることが解った。西宿場だろうか?
「行ってみるか」
ここで突っ立っていても何も始まらない。とりあえず、帝都テーレベール方向にある小さな村に歩くことにした。
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