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3-1・走馬灯

 形見の剣を鞘から抜く!軽く触れただけでも切れそうな鋭利な刃だ!柄を両手で持って構える!


「うおぉぉぉっっっっ!!」


 狙うのはボス格のホブゴブリン!気を吐きながら突進!剣を振り上げ、勢い良く振り下ろした!

ガァンッッ!!

 ホブゴブリンが振るった大斧とぶつかり、高い音が鳴り響いた!


「わぁぁっっ!」


 力負けをした僕は3mくらい弾き飛ばされて尻餅をつく。お尻が痛い。衝撃で手が痺れている。頭に上っていた血が急激に引いていく。

 ヤバい、全く歯が立たない。一矢も報いることができない。怒りで覚醒するとか、他人の思いを背負って戦うなんて空想世界の話だと実感する。


 3匹のモンスターが寄ってくる。逃げなければ先生と同じになる。


「くっ!」


 死ぬか逃げるかの選択肢しかない。先生の亡骸を放置していくのは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。情け無いなんて百も承知だ。でも、僕には何もできない。

 慌てて立ち上がり、振り返って逃走をする。腰が抜けそうでちゃんと走れない。枝葉が邪魔でペースが上がらない。根に足を引っ掛けて転びそうになる。

 怖い!怖い!怖い!

 背が低いゴブリンは樹木を潜り抜けて追って来る!力の有るホブゴブリンは枝葉の障害など物ともせずに押し通って迫る!

 もうダメだ!もうダメだ!もうダメだ!


 こんな切羽詰まった時なのに、幼い頃にお母さんに甘えたことや、お父さんに遊びに連れて行ってもらったこと、小学校低学年の頃に櫻花おーちゃんの家で一緒に遊んだこと、何も悩まずに、ただ楽しかった頃を思い出す。



 智人トモの家に呼ばれてオンラインゲームを進められた。よく解らないままキャラメイクをして、ゲンジローと名付け、戦士みたいな血気盛んな職業は苦手なのでプリーストを選択する。智人トモに言われるまま、初心者にオススメの装備品とアイテムを買った。


「お金無くなっちゃったけど大丈夫なの?」

「問題無い」

「こーゆーゲームって宿に泊まって体力回復するんでしょ?

 お金無いと泊まれないよ」

「あとで、俺のキャラから所持金を補填しとく」


 チュートリアルスタート。チュートリアルを終えてレベル5になるまでは、冒険者ギルドって所に登録できないので、冒険者として扱われず、パーティーを組めないらしい。

 最初は智人トモの指示通りに戦った。アクションゲームは苦手で、モンスターに上手く攻撃を当てられないんだけど、回復魔法を持つ職業を選んでるから、ダメージを受けても安心。

 アレコレと細かくアドバイスをしてくる智人トモが少しウザい。少しくらい好きにやらせてほしい。レベル3になった僕は、「ちょっとこっち側を冒険してみたい」と、智人トモが指定する範囲外に進んでみた。

 ホブゴブリンというモンスターと遭遇。一撃で瀕死にされた。直ぐに魔法でHPを回復させたけど、次の一撃でまた瀕死になった。これじゃ僕が攻撃をするタイミングが無い。MPが尽きた時点で死亡確定だ。


「だから、まだ、そっち方面はダメって言ったじゃん。

 レベル3のプリーストと、尊人ミコの腕じゃ、ホブゴブリンは早すぎる」

「どうしよう?」

「とりあえず逃げろ」


 戦闘を放棄して逃走する。だけどホブゴブリンが追いかけてきた。ホブゴブリンの方が足が速い。


「ヤバい!追い付かれるっ!」

「さっき買った○○(アイテム名)を使え」

「うんっ!」


 言われるまま、ワケも解らずに指定されたアイテムを使う。それは、ワープをするアイテムだった。ホブゴブリンの追走を振り切り、スタートした町の入口に戻る。


「助かったぁ~・・・便利なアイテムだね」

「○○(アイテム名)は、初心者には高額なアイテムだよ。

 念の為に買わせたんだけど、まさか、もう消費するとは思ってなかった」


 智人トモは若干嫌味を言うけど笑っている。


「ごめーん」

「まぁ、初心者あるあるだ。

 パーティー組めるようになったら、俺の金やアイテムを譲渡できるようになる。

 それまでは少し我慢して、コツコツとレベルを上げてくれ。

 相手にすんのは、盗賊、コボルト、単体のゴブリンだけ。

 動く範囲は、さっき俺が指定した範囲だけ。

 経験値は稼ぎにくいけど、ゲームオーバー喰らうよりはマシだろ?」

「うん」


 その後は、智人トモの指示をちゃんと守ってレベル5を目指す。



智人トモっ!」


 目まぐるしく溢れる思い出の中で、智人トモに教えられたゲームに辿り着いた時、僕はほぼ無意識に特殊能力・レンタルを発動させていた。


「リターン!」


 それは、先生に返しそびれた先生の特殊能力!

 目の前に直径1mくらいの光穴が発生したので飛び込む!



 ホワイトアウトを抜け、廊下側の壁を背凭れにして座っていた。真田さんが僕の上に覆い被さっている。


「た・・・助かった」


 現代に戻って戦闘を回避するなんて発想、僕には全く無かった。

 何かで「走馬灯(ライフレビュー)って言うのは、生命の危機を回避する為に、脳ミソが必死になって過去を思い出す状態」と聞いたような気がする。


 現実こっち異世界あっちでは、時間の流れ方が50倍くらい違う・・・と先生が言ってた。こっちで10秒経過すれば、あっちでは8~10分経過したことになる。

 僕を見失ったモンスター達が、何十分も同じ場所に突っ立ってるってことは無いだろう。


「どれくらいで諦めてくれるかな?」


 呼吸を整え、少し気持ちが落ち着いたので、真田さんを退かして立ち上がる。

 黒板の下で倒れている力石先生は、青白い顔色になっている。

 先生は「6人と合流した」と言っていた。6人は先生が戻ってくるのを待っているんだろうな。


「先生が死んじゃったこと・・・伝えなきゃ」


 異世界で僕に何ができるのか解らない・・・と言うか、何もできない。でも、先生が残した6人と会って、「これからどうするか?」くらいは話し合いたい。


「もう・・・モンスターいない・・・よね?」


 異世界に生きたくない。メッチャ怖い。だけど、まだモンスターがいたら、またリターンでこっちに逃げれば良い。

 僕は自分の気持ちに活を入れて、フィンガースナップをする。



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