1-3・当日~いつもと同じ朝
世間一般の高校生は春休み。それは僕が通う千幸高校も同じ。
だけど、僕達の2年7組は12月にインフルエンザで学級閉鎖があったので高2にカリキュラムが終わらず、補習をしなきゃならない。メンドイけど、そのぶん休んだんだから仕方が無いよね。
駐輪場に自転車を止める。登校をしている人は疎ら。部活動の人と、学年末試験の結果が悪くて追試になった人と、僕達のクラス以外で休んで補習になった人&成績は良好だけど補習を希望する人、それから僕のクラスの全員。
僕の所属するバスケ部は、午前中に体育館で部活動をするんだけど、言うまでも無く僕は参加できない。・・・てか、午前中に部活動がある場合、僕のクラスの全員が参加できない。
「おっす、尊人!」
「おはよう、智人!」
智人が寄って来た。【トモロー被害者の会】について教えるべきだろうか?ショックを受けるだろうから、伝えない方が良いかな?迷いながら一緒に生徒玄関に向かう。
「おはよう、尊人、徳川くん」
生徒玄関に行ったら、目がパッチリと大きな、さらさらロングヘアのクラスメイトと遭遇。織田櫻花ちゃんだ。
「お、おはよう」
「おはよう」
キラキラな笑顔で挨拶をされた僕達は「さっきの仲間内での元気な挨拶はなんだったの?」ってくらい小さな声で恥ずかしそうに挨拶を返す。
先に行く櫻花ちゃんを目で追った後、智人が僕に話しかけた。
「・・・で、いつコクるの?」
「はぁ?」
僕が櫻花ちゃんを好きってのはバレてる。彼女とは幼稚園から一緒で、中学の時に好きって気付いて、それからずっと初恋&片想いをしてる。容姿端麗、勉強とスポーツはそれなりにできて、男女問わず友達が多い。櫻花ちゃんは中学の時・・・もっと言えば小学校の時から人気者だった。
「コクる予定なんて無いよ」
「そんなこと言ってると、他の奴に取られちゃうぞ」
「欲しいって思ってない」
ホントは欲しい。でも、僕みたいな、なんの取り柄も無いただの幼馴染みがコクっても、恥をかくか困らせちゃうだけ。だったら今のまま「知り合いの1人」で良い。
「俺が代弁してあげようか?」
「しなくていいよ」
僕は少し機嫌が悪くなる。智人のことは好きだけど、櫻花ちゃん絡みでいじられるのは、あんまり好きじゃ無い。その所為で【トモロー被害者の会】を伝えるタイミングを逃しちゃった。
教室に到着後、僕は真ん中の列の前から3番目、智人は廊下側の一番前、それぞれの席に行く。3学期になって席替えのクジ引きをして、智人は窓側の後から2番目の席を引いた。だけど、席の権利を遠藤くんと交換して今の場所になった。トレードのあと、智人は「前の席に行きたかったから丁度良かった」って言ってたけど、顔は引き攣っていた。
僕だって「替えろ」と言われたら応じちゃうだろうから、智人の気持ちが解る。
「おはよう!ねぇねえ、源っ!」
ショートボブの元気なチビッコ=隣の席の真田早璃さんが、着席するなり話しかけてきた。
容姿だけなら櫻花ちゃんと同等でクラスのトップ3の一角(って評判の子)だ・・・が、ジェンダーレスの時代に、こんな表現はダメなんだろうけど、櫻花ちゃん以外の2人は年相応の発育と女子力が足りない(と皆が言ってる)。結果、櫻花ちゃん以外の容姿トップ3の2人は、人気トップ3には入っていない。
「ああ、おはよう」
僕は、櫻花ちゃんに返した時と同じように小さく挨拶を返す。僕が櫻花ちゃんの前で温和しかったのは、「おーちゃんが好き」って理由だからではない。女の子全般とどう接したら良いのか解らないからね。
「昨日の宿題の数学プリントなんだけどさ、問6の答えいくつになった?」
席替えで隣になって以降、真田さんは度々数学の問いの答え合わせを求めてくる。全教科総合では真田さんの方が優秀なんだけど、数学だけは僕の方が得意。・・・自慢になってないけど。
「え~っと、ちょっと待っててね」
カバンの中からプリントを引っ張り出して真田さんに見せる。
「あ~~~~・・・違う答えだ。自信有ったんだけどなぁ」
「見せて」
僕の解答が間違っている可能性も有る。プリントを返してもらって確認したらミスは無さそうだ。真田さんのプリントも見せてもらって、どこでミスっているのかを確かめる。
「段純な計算ミスだよ。三行目の公式で四則演算の順番を間違えてるね」
「あっ!ホントだ!さっすが源!」
「・・・ははは」
ちょっと気分が良い。だけど、数学以外は負けてる状況で「さすが」と言われてもい微妙なので、問6の訂正をしている真田さんを眺めながら乾いた笑いを返す。
「英語の宿題は大丈夫?源、苦手だよね?
お礼に、解らないところあったら教えるよ」
「ああ・・・うん、ありがと。でも大丈夫」
手抜きや「提出すれば何でも良いや」とは考えていない。できる限りちゃんとした解答の宿題を提出したい。だけど、間違ってたとしても、それが僕の実力。間違ってるって解ったなら、その範囲を復習すれば良い。だから、他人の答えを写すつもりはない・・・てか、女子のプリントを貸してもらうなんて恥ずかしくてできない。櫻花ちゃんから「真田さんと仲が良い」と思われるのも困る。
「源ぉ!俺等にもプリント見せてくれよ」
遠藤くんと加藤くんが寄ってくる。彼等は真田さんみたく全問中1問だけ苦戦をしたのとは違って、ほぼ白紙のプリントに僕の答えを丸写しする気が満々だ。
「あっ!いいなぁ!私にも見せてっ!」
安藤さんまで寄って来た。真田さんには見せたのに、他の人に見せないってのは拙い。あんまり見せたくないんだけど、渋々応じることにした。
だけど、提供しようとしたら、横から真田さんの手が伸びてきてプリントを奪い取った。
「自力でちゃんとやって、聞くのは解らないところだけにしなよ」
「はぁ?ローティーンには関係無ーだろ!」
「あたし、もうすぐ17才なんだけどさ、ローティーンの意味わかってんの?」
「バカにすんな!解って言ってんだよ!」
「あ・・・あの・・・真田さん?」
「ちゃんとしなよ源!コイツ等に宿題を見せる義理なんて無いでしょ?」
(君に宿題を見せる義理も無いんだけど・・・。)
なんか、渦中の僕が蚊帳の外に放り出された状態で喧嘩になりそうな雰囲気。ヤバい。僕が「見せる」って言えば丸く収まるかな?
「中坊、邪魔」
真田さんが席から身を乗り出してたから、通る人の邪魔になってしまった。藤原くんが威圧的な表情で僕達を見下ろしている。細マッチョ体型で身長は180以上有るから迫力がある。
「中坊じゃねーし!」
真田さんが文句を言いながら身を引いて通路を開けたので、藤原くんが通過をした。
「英司(遠藤)、奏太(加藤)、愛美(安藤)、
オマエ等が急に源並みの宿題を提出したらおかしいだろ。
みっともねーから、やってこなかったなら往生際悪くすんな」
遠藤くん達は、藤原くんに説得されて引き下がる。ただの結果論なんだろうけど、藤原くんのおかげで場は仲裁された。
「朝っぱらから盛ってんな、中坊」
「あたしは高校生だっての!」
藤原史弥くんは、頭が良いってワケじゃないけど、クラス内では存在感と発言力が一番ある男子。噂では、1年生の時に同学年のチョイ悪を、2年生のうちに一コ上のチョイ悪をしめたとか・・・。3年生がいなくなった現状では番長決定とか聞く。このストーリーの時代設定はいつだよ?昭和かよ?
空手部で相当強いらしいから、そんな噂が広まったのだろう。
彼の周りにはイキった感じの人達が集まって、藤原グループを作っている。言うまでもなく、僕は藤原グループの一員ではない。・・・まぁ、いちいち説明しなくても解るか。
「藤原くんとは幼馴染みなんだっけ?」
「ただの腐れ縁ね」
僕的には藤原くんは怖いので、物怖じしない真田さんのことを「凄い」と思ってしまう。2人は小学校から一緒らしく、真田さん曰く「昔から斜に構えていた」らしい。
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