表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

冷蔵庫の生首の謎・僕はおかしくなってしまったのか?

※ この作品は動画でご覧になれます

https://youtu.be/Bu30S57P9G4

「イヌマケドンTV」で検索

高い場所から落ちる夢。

何者かに追われ、息を切らして逃げる夢。

怖い夢にも色々あるけれど、今日見たのは身近な人が死ぬ夢だった。

身近な人、それは今付き合ってる彼女だ。

縁起でもないとは思うけど、この夢には何か意味があるんじゃないかと、つい考えてしまう。

まさか予知夢……。

そんなことあるのだろうか。


「今、超怖い夢見たんだ」


「えっ、どんな夢?」


「冷蔵庫があって、ドアを開けたら生首が出てくるんだ」


「うわっ、グロすぎ。まさか落ち武者の首みたいな?」


それ、お前の首だった、なんて言えるはずもない。


「誰のかはわかんない。知らない人の首、いつもそこで目が覚めるんだ……」


「なにそれ、呪われてんじゃない? ウケる!」


笑っている彼女の横で僕は苦笑いを浮かべた。

実は彼女と付き合い始めて半年過ぎたくらいから、この夢をよく見るようになった。

月に一度は見てるような気がする。


最初はホラー映画の影響かと思っていたが、あまりに繰り返されると、だんだんと不安になってくる。

これは何 かの予兆なんじゃないか、そんな考えが、ここ最近頭を離れなくなった。


「それよりさ、引っ越し楽しみだね。

次の日曜日、家具とか家電見に行こうよ」


学生時代から住んでいる6畳ワンルームの狭いアパートで、僕は彼女と同棲を始めた。

付き合って三年、来月には籍を入れることも決まっている。

そして来週、新築の1LDKのマンションへ引っ越す予定だ。

真っ白な 壁紙と広い部屋、真新しい生活が待っている。

どうせなら家具も家電もすべて一新したかった。


---


「このソファー、かわいい」


「うん、そうだね」


ソファーだけじゃない。

テレビ台にダイニングテーブル、二人のセンスにぴったりな家具たちを予算内で揃えることができた。

残るは家電だけだ。


「私、大画面のテレビが欲しいな」


「テレビは小さい方がいいよ。部屋が狭くなっちゃうよ。

それより冷蔵庫じゃない?うちのは古いし、大きすぎるから買い替えようよ」


今の冷蔵庫は僕の実家から譲り受けた年代物だった。

サイズは大家族用。

僕ら二人には明らかにオーバースペックだ。

電気代はかかるし置き場所にも困る。

そして何よりダサい……。


しかも、ぼくが繰り返し見る悪夢の舞台が、まさにその冷蔵庫なのだ。

とはいえ、彼女はその冷蔵庫を気に入っていた。


「大きい方がいいよ、たくさん買い置きできるし、便利だもん。

それに、料理するのは私なんだからね」


反論されてしまっては強く出るわけにもいかず、結局、冷蔵庫の買い替えは見送ることになった。


---


引っ越し当日、本来なら喜ばしいはずの日に、またしても、あの夢を見てしまった。

彼女の生首が、冷蔵庫の中で涙を流していた。

まるで何かに怯えているようだったけど、何に怯えているのかはわからなかった。

彼女を傷つける何者かが存在するとでもいうのだろうか。


ガタイのいい引っ越し業者が、二人がかりであの大きな冷蔵庫を新居へと運び込んでいく。

その様子を見ているだけで、胸の奥に嫌な感覚がじわじわ広がる。


「また今日もあの夢、見ちゃったんだよな」


思わず口を滑らせてしまった。

すると彼女はピタリと動きを止め、ムッとした顔で僕を睨んだ。


「ちょっと、引っ越しの日にやめてよ。ほんと気分悪いんだけど」


怖がらせるつもりはなかった。

ただ、言わずにはいられなかった。

直感的に、これは何かあると感じたのだ。


「ごめん、でもさ、やっぱり冷蔵庫、新しいのにしない?」


「はぁ? 冷蔵庫だけで配送料8000円もかかってるんだよ。今更何言ってんの? だいたいあなたはさ……」


彼女は思いのほか不機嫌になり、説教が始まってしまった。

これ以上、夢の話を続けるのはやめておこう。

けれど、不安は心の奥ですっとくすぶっていた。

もしかしたら、彼女がバラバラ殺人事件に巻き込まれるのではないか。

いや、もし僕たちが大喧嘩して。

僕が彼女を(殺めて)……。

そして証拠隠滅のために冷蔵庫へ……。


――そんなわけあるか!バカバカしい!


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」


「えっ、あ、ごめん、ごめん、ちゃんと聞いてたよ」


考えれば考えるほど憂鬱になる。

もしかしたら、この冷蔵庫には何か「いわく」でもついているのかもしれない。

例えば、殺人事件現場から持ってきた呪われた冷蔵庫だったとか。

それを僕の両親がリサイクルショップで買ってきたのかもしれない。


――それだ!


少したって彼女が買い物に出た隙を見計らい、僕は実家の母に電話をかけた。


「あ、母さん、前にくれたあの冷蔵庫ってさ、どこで買ったの?」


「は? 電気屋さんよ」


「えっと、中古じゃないよね? リサイクルショップとかじゃなくて?」


「何言ってるの新品に決まってるでしょ!

どうしたの?え、 壊れた?

もう三十年は使ってたやつだから、そりゃガタもくるわよ」


「だよね、ありがとう」


やっぱり……、という感じだった。

冷蔵庫にいわくがある線は消えた。

だとしたら、彼女の身近に恨みを抱いている人物でもいるのかもしれない。


――まさかストーカー?


そんな妄想をこねくり回していると、彼女が買い物から帰ってきた。

両手いっぱいにぶら下げた買い物袋の中身は、ほとんどが食材だった。

生鮮野菜に冷凍食品、まるで災害に備えるかのような量だ。


「広いキッチンだし、いっぱい料理しようと思って、つい、買いすぎちゃった」


彼女はウキウキしながら冷蔵庫の中に次々と食材を詰め込んでいく。


「やっぱ 便利だよ、この冷蔵庫。

これだけ入れてもまだ余裕あるんだもん。

買い替えなんてもったいないってば」


そう言いながら、彼女は大きなキャベツをゴロンと冷蔵庫の一番手前に置いた。


――そこ、そこなんだよ。


そこは夢の中で彼女の生首が置かれていた場所だ。

見れば見るほど、そのキャベツが彼女の首に見えてくる。

そういえば、彼女はいつもキャベツをそこに置く。


「あのさ、キャベツ、そこに置かないでくれる」


「えっ、 なんで?」


「いや、だって野菜は野菜室に入れるもんでしょ」


「無理、野菜室もういっぱいだし。

それにさ、料理しないくせに細かいよね、ここでいいの別に」


「あ、そう……」


所詮は夢だ。夢を現実に重ねすぎても神経がすり減るだけだ。

そう自分に言い聞かせた。


---


その夜、引っ越しの疲れからか彼女は先に眠ってしまった。

僕はリビングのソファーで漫画を読んでいたが、目がかすんできたので、そろそろ寝ようと立ち上がった。

深夜、二時だった。

寝る前の水分補給をしようとキッチンへ向かう。

食器棚からグラスを取り出し、水を飲もうと冷蔵庫を開けた。


その瞬間だった。


「うわぁ!」


冷蔵庫の中で目を見開いたまま僕を睨む彼女の生首。


夢じゃない、これは 現実だ。


僕は叫びながら勢いよく冷蔵庫のドアを閉めた。


どうしよう、夢が現実となってしまった。


誰が?


いつ?


どうやって?


今日僕はずっと彼女のそばにいたじゃないか……。


「ねえ、どうしたの、夜中よ」


「あれれ、生きてる!?」


振り返ると、彼女が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

どうやらまた夢を見ていたらしい。


「寝ぼけていきなり大声出すのやめてよ。

まさかまた生首の夢?」


「いや、違うよ。

ぜんぜん別の怖い夢……、だった」


とっさに嘘をついた。

生首の夢だとばれたら、また機嫌を損ねるのは目に見えていた。


「もう、あなたは休みかもしれないけど、私、明日仕事なんだから、たかが夢で起こさないでよね」


眠そうに布団へ戻る彼女を見送りながら、僕は思った。

こんなにも繰り返し同じ夢を見るなんて、もはや何かの予兆ではなく、自分の精神が壊れ始めている証拠なんじゃないか。

もしくは、悪霊にでも取り憑かれているのか。

夢と現実の区別もつかなくなってしまいそうだ。


---


次の日、彼女が出勤したのを見届けて、僕は駅前の「占い館」へ足を運んだ。

噂では当たると評判の霊感占い師がいるらしい。


「付き合ってる彼女の生首が冷蔵庫に入ってる夢を月イチで見るんです。

彼女が何か危険な目に遭ってしまうんじゃないかと怖くて仕方がないんです」


年の頃は80歳前後であろうその女性は、明かりが落とされた空間の奥に座っていた。

光を吸い込むような黒目。

いかにも現世にはないものを日常的に見ている者の目だ。

占い師は数秒ほど僕の目をじっと見てから、静かに口を開いた。


「あんた、彼女の紐だね」


「い、いや、まあ、今は無職ですけど、来月からちゃんと働く予定で籍も入れるんです」


あっさりと現状を見抜かれたことに驚きつつ、言い訳のように就職の話をする。


「女遊びが 激しいね」


「いえ、でも本気なのは彼女だけで、今はもう浮気なんてしてませんし……」


まさかそこまでバレているとは思わなかった。

きっとこの後、説教が続くに違いない。

そう思っていたら、予期してもいない言葉が返ってきた。


「大切な人が夢に出てきて泣いてるってのはね。

その人があんたのことを本当に思ってる証拠だよ。

生首ってのも、切られても切れない縁を意味することがある」


「え、そうなんですか?」


「その夢は、あんたが彼女を信じていないことの裏返しなのさ」


「え!?」


帰り道、頭の中で繰り返される占い師の言葉。

評判の占い師だけに僕のことを当てたのは すごかった。

でも、生首のことは腑に落ちない。

てっきり精神がおかしくなってしまったかと思うほど何度も怖い夢を見せられたのに、ストーカーとか殺人事件の予兆でもなければ、お化けとか幽霊とか呪いとか全く関係ないだなんて。

しかも、生首の正体は僕が彼女を信じてないことの現れだなんて、絶対にあり得ない。

なぜなら、信じてもらえていないのは、むしろ僕の方だからだ。

仕事もせず、浮気ばかりしていたのだから。


高いお金を払ったのに、適当な夢占いで終わってしまった。


---


マンションの扉を開けると、新築の香り漂う玄関が僕を出迎えた。

靴を脱いでリビングに足を踏み入れると、そこにはあの大きくて古い冷蔵庫が相変わらず威風堂々と鎮座していた。


「でかすぎだろ、これ!

おしゃれな新築が台無しだよ!」


ため息をつきながら冷蔵庫を開ける。

中には食材がびっしりと詰まっていた。

キャベツ、ネギ、パプリカ、どれも彼女が僕たちの生活を思って選んだものだ。

少し気が落ち着いた。


その時、ふと喉の渇きを感じてお茶のペットボトルを探す。

奥の方に転がっているのを見つけ、手を伸ばした瞬間、腕に何かが引っかかった。

そして、手前にあったキャベツが床にゴロッと落ちた。


あ、やべ、キャベツが……。


お茶をテーブルにおき、キャベツを拾いあげようとしたとき、みょうな違和感をおぼえた。

キャベツのわきから、なにかがはみだしていた。

よく見ると、キャベツの芯がくりぬかれてビニール袋 が埋め込まれていたのだ。


「え? なんだこれ? 気味悪いな」


急に心臓がバクバクしてくる。

恐る恐るキャベツからビニール袋を取り出し、開いてみると、そこに入っていたのは。


「カメラ!?」


なんと小型の監視カメラが仕込まれていたのだ。

一瞬、 頭が真っ白になったが、すぐにすべてを悟った。


「そうか、 そういうことだったんだな。

生首の正体はこれだったんだ」


僕を睨んでいた生首、それはキャベツに隠された監視カメラ。

あの夢はずっと彼女に見張られていたことを暗示していたのだ。

そりゃ何度も浮気がばれるはずだ。


部屋にカメラを設置すれば僕に気づかれる。

だから彼女は大きな冷蔵庫のたくさんの食材に紛れたキャベツの中に仕込んだ。

しかも料理をしない僕がキャベツなんて触るはずがない。

お見事だった。


そしてやっぱり思ったとおりだった。

ぼくは彼女から信用されていなかったのだ。


――その夢は、あんたが 彼女を信じていないことの裏返しなのさ。


ふと占 い師の言葉が思い出されて、はっとした。

思い返せば、浮気がばれるたび、僕は言い訳を重ねてきた。


本気なのは彼女だけだ!


もう二度としない!


苦しい言い訳を繰り返した。

でも、僕のことを「信じてくれ」とは言えなかった。

なぜなら、そのうち彼女は僕を見限って、他の男のもとへと行ってしまうだろうって思っていたからだ。

そう、占い師の言うとおり、僕の方こそ彼女を信じていなかったのだ。


無職で、浮気症で、頼りなくて、そんな僕を、それでも彼女を愛してくれていた。


どうしてぼくなんかを好きになったんだ。


そう、彼女の愛をぼくは疑 っていた。

それを彼女は気づいていたんだ。

ぼくが彼女を信じてあげられなかった。

だから彼女は、こんな ことをしたんだ。


僕はカメラのSDカードを抜き取り、見つけた瞬間の記録だけを削除した。

そして電源を入れて、何もなかったようにキャベツの芯へと戻す。

彼女には何も言わない。

これからも、ぼくはキャベツの中から見つめられつづける。

それでいい、彼女のとなりでまっすぐ生きて、いつかキャベツの中のカメラがそっと取り外される日を待つんだ。

ぼくは静かに心からそうちかった。

※ この作品は動画でご覧になれます

https://youtu.be/Bu30S57P9G4

「イヌマケドンTV」で検索

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ