行方不明の勇者を探せ 5
第八話
「試験、お疲れ様でした」
「ではこちらが、冒険者ライセンスです。初めは例外無く全員が一番下の等級である白の位からですので、依頼をこなしていけばいく程早く上げる事が出来ますよ」
「ご丁寧にどうもありがとう」
「いえいえ、私も期待しています。あなたの活躍に!」
「では、パーティ登録の為一度付き添いの方のライセンスも、お借りしてよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「はい、確認します」
「ええっと? ランクは青の位で、この人も魔導師なんだ。それで魔術は転移? なるほど、そして名前がリリー……グランツヴェルト? えっ、グランツヴェルトって、なっ!」
「あの四大魔法家の、グランツヴェルトですか!」
「しまった。隠すの忘れてましたね」
「グランツヴェルト?」
「ヴィオラさん、知らないんですか? では、説明しますね。世界的にすごい有名ですよ。魔法使いの家系としては、数々の著名な魔法使いが輩出されていて、転移系の魔術に一番長けた魔導師が代々当主を務め、受け継がれていると言われている魔法使い一族の一人って事ですよね!」
「はぁっ、すごい! 四大魔法家といえばアーレンス家、メルザール家、アシュミント家、そしてグランツヴェルト家っていう四つの魔法使い一族がそれぞれ魔法の各分野で世界的に影響力を持ち、魔法使いとしては最高峰の知識量で魔術と魔法を学び、常に最前線を走っていると呼ばれていて、生まれてくる子供は必ずと言って良い程魔法の才能に溢れている事で、家族全員が魔導師という噂もあるぐらいすごいんですよね!」
「もっと詳しく言うと、その一つであるグランツヴェルト家は主に転移や瞬間移動における魔術に関して研究していて、魔術を一度使えば攻撃出来ず、誰にも追いつけないんだとか、ここより王国の西部にある連合王国で国王のってあっ、興味ないですよねすみません喋り過ぎました」
「魔法大好きなんですよ。ほんと」
「全然大丈夫……はは」
前世での友達が言ってた意味が今わかったよ、なるほどこれが早口オタクってやつだ。でも、わかりやすいし、滑舌が妙に良いから声優とか向いてそうかも。
「確かにそうです。ですが、今はもう関わりは無いですし、家を出たんです。その話はしないでください」
「家名が消せたならどれだけ良かったか、あなたには理解出来ないでしょうね」
「す、すみません。でも、すごいと思いますよ」
「しかも青の位で転移の魔術を使う魔導師って、最近、王都付近の近隣の町で活躍してる″幻影の魔女″って、あなたの事ですよね! うわぁ〜本物に会えるだなんて信じられないですよ!」
「握手良いですか?」
「遠慮しときます」
「えぇ〜」
異名? ぷぷっ、かっこいい。
「恥ずかしいので、やめてください」
「ええ? かっこいいのに!」
「でもやっぱり、転移の魔術って聞くとグランツヴェルトの人って感じしますね!」
「そうですか」
「そうですよ!」
この人も同じだ、家名でしか私を見ていない。周りは皆そう、いつもの事です。それでも、私という存在を見て欲しいって言っている訳では無くて、ただ、″天才″の一言で片付けられるのがどうしても慣れなくて、嫌になってしまうだけなんです。
いや、違う! そんな事はどうでも良い。嫌とか考える前に私には復讐しかないのだから、他人の評価なんて気にするな。そうでしょう?
「その、パーティー登録は?」
「ああっ、すみません今すぐにやります」
「出来ましたよ。どうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ行きますよ」
「またお待ちしてますね〜」
「あっ、うん」
「それにしても、勇者と会えるのが楽しみだな〜」
「そうですか」
パーティ登録が終わったと同時に、ライセンスを取りスキップしながらヴィオラはシスターの前を歩いて受付を後にする。ふと、その様子を見て気になっている事をシスターは話し始めたのだった。
「あなたは、何も言わないんですか」
「どういう?」
「私の事を」
「言って欲しいなら言うけど」
「そうでは無くて、聞かないんですか? 私の過去について、気になるのではないんですか?」
「話したくないなら、無理して話す必要性を感じないかな」
「私だって、あるんだから」
「それって……」
「私にとっては生まれも経歴も関係ないよ。人それぞれに生き方があるし、自分の考えを持ってる」
「姿も考えもまるっきり同じな人だなんて、この世には存在していない。たまたますごい人達から生まれたからすごいって何なの? それに強くなる為には、人の生き方を真似しても自分には合わないでしょ?」
「強いのは、本人の努力の成果だよ。どんな形でも努力すれば、嫌でも強くなるよ」
「でも」
「私は私! リリーはリリー! でしょ?」
「それと捻くれ過ぎ。別に比較とかされず、純粋にすごいって褒められてんだから、素直に受け取りなよ。このっ!」
ベシッ!
ヴィオラは途端に振り返り、肩を叩く。
「うっ」
ああそうか、私も同じだったんだ。気づかぬ内に重ねていた。あの子じゃない、この人は″ヴィオラ″って人なんですから。
本当に、優しいんですから。
「ええ、そうですね」
「でしょ!」
未来永劫私は誰かの事を、信用は出来ない。でもこの人には、少し頼ってみても良いのかもしれませんね。
「幻影の魔女様に従うよ」
「それ、恥ずかしいんですよ。もう」
「あはは」
「で、次はどこへ?」
「試験前にも言った様に、あなたの力を一旦把握しましょう。魔術の事について詳しく話していくのはそれからです。それと何度も言ってますが、あなたのそれは魔術じゃないのかもしれませんけどね。ですが使い方によっては似ているので、魔術と」
「そう言えば聞き忘れてましたけど、鑑定どうだったんです?」
「能力全部文字化けしてて結局わからないってさ」
「そうですか。じゃあ、一から地道に知っていく必要がありますね。王都付近の練習程度に、丁度良さげな平原に行きますか」
「了解!」
そうして二人はギルドから大通りに出ると、魔術の能力を試す為に王都から外へ行ける道を辿って行こうとするが、冒険者ギルドから丁度出たタイミングで、謎の仮面をつけた怪しい男がヴィオラ達の前に立ち塞がったのだった。
「ヴィオラさん、ですね?」
「あなたは?」
「まずは、道を塞いでしまった事に関しては申し訳ありませんが、この先へは行かせませんよ」
「いや、その前にあなたは誰?」
「ふむ、仮面をつけているからわからないのか、それともただ単に鈍感で天然なのか、どちらなんですか?」
「僕ですよ。わかるでしょう?」
「少し泥のついたズボンに、黒いコート……あっ!」
「先生?」
「そうです」
「えっと、何で趣味の悪い仮面なんかつけてるんです?」
「んーじゃあ、一つ例え話をしましょうか」
「仮面舞踏会って、あるでしょう? あれって実は自分の顔に自信が無いから仮面をつけているのではなくて、仮面をつけているから身分に関係なく平等に、誰もが自由で、分け隔てなく誰かと踊る事が出来るって風で、仮面をつけているんですよ」
「匿名性というのは、時にして個人の解放を促したり、ある程度の自由を得る事で普段は出来ない様な事をする事が出来るんですよ」
「つまり何が言いたいか、わかりますよね?」
「先生は、私と踊りたいって事?」
「うーん、的外れ!」
「では正解を言う前に、質問します。僕と一緒に来てくれませんか?」
「い、いきなりですか?」
「はい、もちろん」
何だろう、学校の事かな? でも、私そこまで成績は悪くないはずだけど、一体なぜ? 仮面をつけているからなのかわからないけど、ついていってはいけない気がする。直感だけど。
「あの、すみません。関係のない者ですが、私からも質問良いでしょうか?」
「どうぞ?」
「ヴィオラの居場所、どうしてわかったんです?」
「彼女の性格からすると、多分言っていないはずですよね。それに、学校帰りに一介の教師がこんな所に来て何しようとしてるんです? ギルドに用事でも?」
あっ! 確かに、どうして……
「ははっ、そこまで怪訝にしなくとも! 僕は何もしないですよ!」
「で、来てくださるんです? ヴィオラさん」
「質問に答えてくれれば、行きます」
「そうですか、残念」
「僕、何もしないって言いましたよね?」
「は、はい」
「ではさっきの例え話の正解を言いましょうか」
「正解は、拒否したらあなたを力づくで僕が連れ去るって事ですよ。ここじゃ仮面つけないと皆に見られちゃいますから、つけてるんです」
「はっ、離れて!」
その瞬間、シスターの叫ぶ声と共にヴィオラは突き飛ばされる。辺りはどんどん騒がしく、悲鳴へと変わっていく。
「いやはや、初見で避けるとは驚きましたね」
「立って、ヴィオラ」
「うう、何なの」
立ち上がり目を擦りながらも開くと、目の前にあったのは身体が一部変形し、異形の姿となったかつての教師の姿だった。辺りは瓦礫の山となって、人々は逃げ出しているのが見える。
「せ、先生? これって」
「魔術ですよ! 練習無しで、魔術をぶっつけ本番で使いますよヴィオラ!」
「ええっ、私まだまともに使えないのに〜!」
「やるしかないんです。私も一緒に戦いますから、やりますよ!」
「仕方ない。や、やってみる!」
練習したかったな……うう。
魔法について。
一般的な魔法使いは、普通なら五元素と呼ばれる元素の内の適正のある属性魔法を極めていき、それ以外の属性魔法は使えないが、魔剣や能力が備わった武器等を通す事で違う属性の魔法に一時的にではあるが変化させる事が出来る。(例えば、水が適正で魔剣に備わった能力が凍らせる事なら氷に変化する)
それでは、また。