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行方不明の勇者を探せ 4

第七話


「お、驚きました。まさか、こんなに強いとは」

「とても十六歳とは思えない」


「えへへ、どうも」


「本当にわからないんですか? ああいや、そうですね。さっき魔法使いと言いましたよね」


「え? はい」


「あなたは魔法使いではなく、正確には魔導師ですよね? だからここまでの強さがある」

「試験官が相手にならなかったのは、かつて五年前の、現在は紫の位にいて最も英雄に、黒の位に近いと呼ばれているシュレイさんを最後に、久しぶりですよ」

「もしかしたら、あなたもきっと……」


「その、シュレイ? って人の事はわからないけれど、私がすごいという自覚ないよ。私より強い人がいると思うし」

「そもそも魔導師ってだけでそこまで驚かれる事なの?」


「ええ、もちろんです。それだけでどれくらいすごい事か、説明しますよ」

「まず、確認出来る中でもこの王都のギルドにたったの四人しかいません。しかもその四人はパーティー同士で組んでいてフリーの人は存在していないです」

「そうだ、あなたもフリーではないですね。あの人と組むんですよね?」


「まあ、そうかな」


「本当に貴重なんです。多分、魔導師と言うだけで無条件に受け入れてくれると思います」


「そんなにいないんだ」


「何か魔法を誰かに教えられていたとかありませんでした? それか違う場所の、他国の魔法校に通っていたとか」

「王国には魔法を学べる所はありませんからね」


「ないかな」


「なるほど、では独学でここまで強く……」

「正直に言って、て、天才ですね!」


「ああ、ありがとうございます?」


「わくわくしてきました私! 次行きましょう! こちらです」


「えっ、まだ試験が?」


「いえ鑑定です。今の自分を把握出来ますよ」

「試験の後はどんな人でも例外なく決まってやります。現在の自分の能力詳細を知る事で、重点的に伸ばしたり、効率良く強くなる事が出来ます」

「私としてもあなたの事が気になるんですよ、自分でも気づいていない事を、ある道具で言葉にしてわかりやすく写すんです。どんな事が出てくるのか、楽しみでもう待ちきれませんね!」

「それと一応プライベートな事、例えば経歴や身長体重なんかは写しませんので、ご安心ください。能力だけですので、すぐに終わります」


「わかった。ついて行きます」


「はい、こちらです」


「えっと、あの人は助けた方が良いんですかね」


「大丈夫ですよ。数分もすれば勝手に起き上がって鍛錬していると思います。そういう人ですから」


「な、なるほど?」


「では、改めてこちらです」


 そう言ったのと同時に、彼女は事務的に歩みを進め、ヴィオラは背中を追って、怪訝そうな、緊張した様な表情を見せながらも周囲を見渡しついて行く事になったのだった。

 かの部屋から数分して、さっき来た道を後戻りすると二つの分かれ道、試験の部屋へ行けるのとは別の、もう一つのまた違う道を進み始めた時に、しばらくすると扉が目の前に見えてくる。受付の彼女はすぐさま二回ノックし、中から入っても良いと了承する男の声が聞こえると彼女は遠慮なく開け、ヴィオラに対し手振り身振りで誘導しだした。


 部屋に入ると隅にはなにやら色々な道具が散乱していながらも、まるで書斎の様な、狭いものの本が左右にずらりと並んだ中心には、デスクを前に背を向けて本を読み続けている不健康そうな男が鼻歌交じりに座っていたのだった。


「あの〜鑑定したいんですけど〜」


「はいはい、じゃあちょっと待ってくれ」


 男は行動を起こさず、そう言いながら本を読み続けつつも隅にある道具の内の一つ、ある物に向けて指を指して話を続ける。


「それ、それを取り敢えずはデスクの上置いといて欲しい。この章の内容を読み進んでキリついたら一旦止めるんで、待っててな」

「飲み物は……要らないよな? どうせすぐ終わるし」


「全く、人前だし仕事ですからちゃんとして欲しいんですけどね!」

「ヴィオラさんはこちらの椅子に座っててくださいね」


「わ、わかった」


「よいしょっと!」


ドサッ!


「ふうっ、これで良いですか?」


「おん、ばっちり。いつもどうも」


「本来はあなたがやる仕事ですよ? 理解してますか?」


「だって重くて持てねぇもん。それに、鑑定の仕事を俺に対して引き受けてくれって言ったのは、そっちのギルド長なんだ。俺はやりたくないのにだぞ? あいつとの仲だからまあ仕方なくしているが、やるべき事はちゃんとしてるんだ。別に良いじゃないか、なあ?」


 気怠そうな口調で、何だか飄々(ひょうひょう)としていてヴィオラは大丈夫なのだろうか? と心配になる。


「魔道具師の大変さも、少しは理解して欲しいね」


「その大変さがどこで! 見られるんですかね?」


「地道な頑張りを人に見せびらかしたくてやってる訳じゃないんだよ」

「俺が言っているのは、()()を少しで良いからしてくれって言っているだけだ」


「はあ、そうですか」


「んで、そいつは?」


「この人は冒険者登録に来た人で、そうだ聞いてくださいよ! なんと、さっき試験官を吹っ飛ばしちゃったんですよ!」


「おお、すごいな〜そりゃ期待だ」


「えっ、それだけ?」


「基本的に他人に興味無いしな、どいつもこいつも同じ様なもんだろ」


「これが普通だったら逆にやばいですよ」


「ああそう」


「ほんっとにあなたって人は……」


「じゃ、キリついたしやるわ」


 男は本を読んでいた手を止め、ヴィオラに振り返り真剣な眼差しで背筋を伸ばし集中しだすのと同時に、息を落ち着かせて話をするのだった。


「取り敢えず、自己紹介をしておこうか。今後とも関わる事になりそうだしな。勘違いするなよ? 別にお前が特別って訳じゃない。もしも、お前が外から持ってきた魔道具とかの件で調査する時に付き合いが増えるかもしれないってだけだ」

「その場合、個人としては円滑に物事を進める為にこういうのはした方が良いと判断している。後々になって面倒になるんでね」

「俺の名はエルガー、ギルドから頼まれた鑑定の仕事と並行して魔道具師としても活動している。それにお前、運が良かったな。ここに俺がいるのは気まぐれで、基本は他の冒険者と一緒に外で調査してるからだ」

「んま、よろしくな」


「ヴィオラで、です。よろしく……」


「それと、俺が居ない時に限ってこの部屋にある魔道具勝手に使うなよ? 素人が下手したら魔力暴走起こして爆発したり、効力を失って二度と使えなくなる事もあるからな?」


「私はそんな事しませんよっ!」


「一応な、表向きは優しそうに見えても裏では何やってるかわからないからな、お前も含めて人間ってのは」

「さてと、んな事はどうでも良いんだ。お待ちかねの鑑定しようか」

「早速だが、手をこの水晶の上に乗せろ」


「へっ?」


「早くしろ。俺は短気なんだ」


「はいっ!」


「うん、うん、ほう?」


「どうですか?」


「ふむ、ちょっとこれを」


 途端に水晶に写った結果を見てエルガーは眉をしかめ、ヴィオラの隣にいた受付の彼女に対してアイコンタクトでこっちに来て欲しいという旨を送る。


「何ですか?」


「どう思うこれ」


「うーん? 故障でしょうか?」


「んな馬鹿な事あるか? 一週間前に俺がちゃんと魔法式を構築し、組み替えて作った新品ホヤホヤの鑑定用の魔道具だぞ?」

「しかも、使う前にテストして異常無かったしな」


「では、違うと?」


「ああ、こいつの能力値自体がおかしいんだよ」

「おい、ヴィオラって言ったか? 見てみろ」


「こ、これって……!」


 そこに写っていたのは確かに能力の詳細ではあるのだが、自分の名前と年齢以外はどこもかしこも文字化けだらけで、ちゃんとした文字で書かれている物はどこにも無かったのだった。


「何か文字化けだらけだ」


「そうだろ。だからお前の能力値わかんねぇんだ」

「ただの故障じゃこんな事はならない。考えられるのはお前の能力をこの水晶で表示するのには不可能かもしれないって事と、単純に魔力量が多すぎて突然暴走を起こしたのかもしれないって事の二つ、どっちとも取れるが、多分前者の方に近いだろうな」

「こんなの初めてだ。まさか本人の潜在能力というか、魔術やら魔法やらが強すぎて文字として認識出来ないとはな、もっと改良した物を作るべきか、いや、俺じゃこれを超える物は作れない。だとしたらあいつしかいないか」

「うーんしかし、こいつだけだろうなこんな事やらかすやつは」


「どうにか出来ないんです?」


「いいや、出来ないね。確かに過去にも鑑定でやらかすやつはいるが、ここまでの者はいない。それにわかっている事で言えば一つだけ」

「ヴィオラ、お前はあまりにも常識から逸脱した存在だって事だ」


「えっとその、私がそんなに?」


「ああ、俺の魔道具じゃ無理だったからこいつのとこ行ってこい、お前が自分を知りたいならな」

「あいつなら、多分俺よりも質の高い物を持ってるはずだし、作れる」


「この紙は?」


「あいつの住所」

「今は帝国で、貴族のお嬢様の家庭教師かなんかしているんだとか言ってたな、まあ、ここからは遠いが知りたいなら行ってみるといい」

「それとこれは紹介状だ」


「帝国……」


 王国から北方へ、馬車で行くのに二ヶ月かけないと行けない国、それが帝国。今の私には別の事をやらないといけないから、また今度でいいかな。


「私にはやる事があるので、自分を知るのはまたの機会にしておきます」


「そうか、じゃあこの紙だけでも預かっておいてくれ、いつかお前が必要になる時がくる」


「そうします」


「ほい、これで鑑定は終了だ。さっさと回れ右して受付まで戻ってくれ、俺もやる事があるんでね」


「本読むだけでしょ? 何言ってるんです?」


「うっせ、これは必要な事なんだよ!」


「こんっの、クソ怠惰中年男……」


「クソ腹黒若作りババァには言われたかねぇな!」


「はぁっ?」


「やるか?」


「その、喧嘩は良くないよ……ほんとに」


 そしてヴィオラは、こうして試験を終えたのだった。

 

エルガーと受付の人の関係は元恋人。別れた理由は方向性の違い(恋人として見れなかった)であり、ギルド内でも知っている人間はあまりいない。それでも昔と同じ様に仲の良い友人としての関係性を続けている。



それでは、また。

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