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行方不明の勇者を探せ 2

第五話


「もう遅い! 何をしていたんですか!」


「ごーめんなさい! ちょっと学校で用事があって」


 ヴィオラの学校は十二時には授業が終わり、それにシスターは合わせて十三時頃には待ち合わせに間に合う様にするという風でしていたのだが、時間はもう十四時を過ぎていた。

 走っていたが間に合わず、体力はただ単に少なくて走っても持続しないのでほぼ歩きだった。初回という事からヴィオラは怒られただけで済んだのだった。


「用事って何ですか、用事って!」

「納得がいく様な物ですよね? なら」


「ええっと、それはその」


「どうせ友達が〜とか言うんですよね」


「あっ」


「図星ですか」

「はぁわかりました。これ以上は怒りませんから、次はちゃんと間に合う様に来てくださいね。人との約束は破らない様に、ですよ?」

「本当にもう一度言いますけど、次はないですからね? ちゃんとした理由があるなら別にですけど」


「すみませんでしたぁ!」


「もういいですから、謝らなくて」

「取り敢えず、聞き込みに行きますよ」


「ほんとに見つかるかな?」


「やらないよりやった方が良いです。可能性が低くてもです」

「情報が全く無い今の現状で、出来る事はそれくらいですからね」


「わかった。そうしよう」

「んで、手分けして聞き込みはするの?」


「しません。もう忘れました?」


「やっぱまだ怒ってるじゃん!」


「ええ、もちろんです。表に出さないだけで怒ってますよ」

「怒らないのは不毛だと判断したからです」


「それって暗に私が馬鹿だからって言ってるよね」


「よくわかりましたね」


「ううっ、本当の事だから何も言えないの悲しくなってくる……」


「いえいえ」

「あははっ、冗談ですよ。私から見てもあなたは馬鹿じゃありませんし、私が言いたかったのはその」

「あなたは真っ直ぐ過ぎるってとこですかね」


「真っ直ぐ?」


「人を疑うという事をしないし、悪意にそこまで嫌な気持ちを見せない。純粋過ぎるから()()だと判断したんです」

「遅れたのも、友人を常日頃から大切にしているからだって、よくよく考えてみれば確かにまだ他人みたいな物ですもんね」

「私の方が申し訳なく思ってしまって。私とは違ってあなたは本当に優しくて、真っ直ぐなんですから」


「それってどういう」


「まぁとにかく、その気持ちを忘れないでくださいね」


「んん? 急にどうしたの?」


「さぁそんな事はどうでも良いんです。早く行きましょう」


「えっ、何で赤くなってんの」


「良いから! 早くしてください!」


 そうして気を取り直し、二人の聞き込みは始まった。


「あの〜ちょっと良いですか?」


 まずは大通りから聞き込みを始め、次にギルドの冒険者達にも話を聞こうというプランで二人は共に行動する。ヴィオラだけは昼から何も食べてなくてお腹が空いていたので出店で買った食べ物で少し食べ歩きをしながら、話しかけているのを見たシスターは何で昼食べてないんだろうと疑問に思ったのだった。


「もぐもぐ、あの〜勇者の噂について何か知りません……か?」


「勇者? ああ、なるほど」


「最近はよく聞くよ。噂だけだけどそれを聞いてこの頃一部の冒険者達が、躍起になって探してるってさ」

「なんでも、夜のとある森で焚き火していたのが見つかったって話だよ。嘘なんじゃないかって思うけど、あの真剣さを見るにどうも嘘だとは思えないんだよなぁ。しかもな、その森は迷いやすくて危険な魔物が出るらしいから、勇者が見つけられないってよ」

「その話を言った冒険者ってのが、普段は弓使いでこの前の遠征でも活躍したカルアっていう冒険者なんだが、君知ってるか?」


「知ら、ないです」


「知らないのか、彼女はかなり有名だぞ? 放った矢は百発百中、風の魔法も使えて外した矢の軌道も変えられるという。今はヴァイアルンっていう強いパーティーに入っているらしいな」

「一度会ってみると良い。彼女なら知っているだろう」


「ではそうし、ます」


「おお、頑張れよ」


 敬語に関しては何も言わないんですね。


「じゃあそうしようか」


「そうですね。その人が冒険者なら多分、ギルドにいるでしょうね」



──王国ギルド本部──



 ヴィオラは入ってすぐ周りを見ると、多くの冒険者とギルドの職員が忙しく行き来していて、右を見れば依頼のボードの前で頭を抱え悩む者もいればパーティー同士で口論している者達もいる。そして左を見ればテーブルを囲んで様々な格好の冒険者がたくさんの料理を目の前に、酒やスプーンやフォークを片手に笑い合って話しているのが見えたのだった。


「初めて来たけど、意外と中は綺麗」

「ギルドってほら、もっとすっごいヒャッハー族みたいな人だらけで汚くて、野郎の集まりみたいな感じだと思ってたのに」


「何ですかそれ」


「ああ、ただの独り言だから気にしないで」


「えーっと、受付の人に聞いてみればわかるかな」

「あの〜すみま、せん」


 真ん中の受付へと直行し、二人は聞いた。


「はい」


 うわぁ、綺麗なお姉さんだぁ〜。おっきい! やっばい胸に目がいっちゃう〜。


「ご用件をお聞きしても?」


「あ、ああはい」

「今カルアって人いますか? 聞きたい事があっ、て」


「はい。彼女はたった今依頼を終えたばかりで、あなた達のすぐ後ろで座ってます」


「えっ」


「何か用事?」


 二人の背後から女性の声。振り向くと背中にはとても人間が使えるとは思えないぐらい大きい弓を背負っていながら、何故か黒のワンピースに羽根つきの帽子というとても弓使いには思えないアンバランスな格好になんといっても身長が高過ぎて、巨人かと最初は感じてしまった。おおよそで言ったら二メートルはあるんじゃないかな。


「あの、あなたがカルアさん?」


「そうです。用事があると聞いて」


「はい。聞きたいこ、とがあるので、すが」


「え、あ、そうですか」


「少しながきゅ! あっ、噛んじゃった。少し長くなるので、すが良い、ですかね?」


「……わかりました。大丈夫ですよ」

「後、落ち着いて話してください」


「ごめんなさい」


 ううん、私が話した方が良さそうですね。


「私から話します」


 彼女が言っていた勇者の話についてを話す。


「確かに、私が言った事です」


「では、本当なんですか?」


「私の記憶が正しければ、あれは聖剣です」

「焚き火の側にあった使い古されたボロボロの鞘に入っているあの剣は、聖剣だと思うんです。何よりもあの鞘の柄を私が見間違えるはずがない」

「実は私、長命族……いや、ここでは“エルフ“と言った方がわかりやすいでしょうか、今から大昔にかの勇者様に実際に会った事があるんです」

「まあ大昔といっても、つい最近の五十年ちょい前ですがね? ここでは普通の寿命の人基準で言った方が良いと思って」


「実際に、ですか!」


 驚いた。まさか、実際に会った事のある人と出会ってしまうなんて。勇者が活躍していた六十年前の時代を生きた人間が今もいるとは限らない。資料等で探すしかないか、無理だと思っていたけれど、エルフ、その手がありましたか。

 それに一説によると、勇者の正体は聖剣の力によって不老不死になった青年だと言われていたり、もしくは魔物が人間に化けた奴だとか言われていたりしますけど、実際に会った人からどうなのかを含めて聞いてみたいですね。


「ちょっと待った。ここから先の話はさ、私も慈善家じゃないから、取引しません?」


「そうですね。ではこれでどうでしょう」


 念の為持ってきていた賢者の石が、ここで役に立つとは思ってもみなかったですね。


「こっ、これってまさか、賢者の石……!」

「こんな貴重な物、良いんですか」


「話してくれるなら、ですが」


「もちろん! あなたとは今後も仲良くしたいです!」


「じゃあ、話してください」


「わかった。あれは、二週間前の夜の事でした──」







「あれ、灯りがある」


 久しぶりの遠征。ヴァイアルンの仲間と共に魔物の増加が確認されたとされ、ここ王都から馬車で二日、西に行った先にあるフラウの森にて、増加の原因を調査する為に行った時の事でした。皆が寝静まった夜の見張りで交代の際に、特に魔物が襲ってくる気配もなく、暇だったのでコーヒーを飲みながらのんびりと周りをじっくり見渡していたんです。


 すると、目が良くないと見えないぐらい遠くの方で謎の灯りが見えたんです。魔物は灯りを灯さないし、かといって野盗だったらわざわざ目立つ様な事はしないだろうと感じたのと同時に、あの辺りは人がいないのに、どうして? と、疑問に思った事で気になってそこへ行ってみたんです。


「あれって、いや、あの人はまさか」


 後ろ姿だけだったので、詳しくは説明出来ないんですが、見えてきたのはボロボロのベージュ色のマントを深々と着た小柄な女性? いや、男性かもしれないけど私よりは背が低くて、時々ちらっと見える手足には包帯をこれでもかってぐらいぐるぐる巻きにしていて、肌が見えませんでした。


 多分顔も同じ感じだと思います。それで、足元の側に置いてあった剣は、私が昔見た物と同じ聖剣が置いてあったんです。もしかしたら、遠征に一緒に来た冒険者の一人で、本物かもしれないと思って話しかけたんです。


 当時も勇者様は全身に鎧をいつも着ていて、フルプレートアーマーって言うんでしょうか? 脱いだ姿は一度も、どんな顔と姿をしているのかについては誰も知らないと思います。知っているのは当時その勇者様の仲間であった三人だけですね。もちろんの事、私も知らなかったので勇者様かどうかについては、剣を見るまでは判断出来ませんでした。


 でもあれは、本物だと感じたんです。


「あの! もしかして、勇者様ですか」


 そう言うと、勇者様はこっちを振り向いたと同時に剣を持って逃げ出してしまったんです。


「ま、待ってください! ただ話したいだけなんです!」


 追いかけようとは一瞬思ったんですが、それでも見張りなのであんまり遠くへは行けなくて、無理だったんです。 







「なるほど、それであなたはこんな話を」


「はい。あの後も私は色々と忙しくて、暇が作れないし、勇者様を探そうとは思ってもパーティーの都合上無理で」

「代わりに、あなた達が探してくれたらとは思うけど、どうでしょう?」


「ええ、そうします」


「そうですか! いや〜嬉しいな!」

「話せたら是非、私も聞きたいです!」


「はい」


「あなた達とは別の、他の人達にも同じ話をしているんですが、誰一人としてまだ見つけられてないって言うからほんとに楽しみに待ってますね! それでは!」


「待たせたわね。カルア、早く行くわよ」


 すると彼女の仲間らしき人物が、奥の部屋から出て歩み寄ってくる。


「リーダー? それ何です?」


「依頼の紙。ほら皆待ってるわよ」


「わかりました! では、また!」


「ええ、それでは」


 フラウの森か。でも外に、しかも魔物のいる森へは……


「ヴィオラさん?」


「ん? 何」


「今から、冒険者登録しましょうか」


「あえっ?」


シスターの性格について。復讐を志す前はかなり穏やかで、人に怒るという事をした事がないぐらいに優しい心の持ち主だったんですが、その後は冷徹に、復讐を果たす為、人に対し厳しくなっていきました。

それでも心根はやはり、優しいです。


それでは、また。

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